第3話





「若様、当主様、タオルと水をお持ちしました」


 俺が疲れながらも、鍛錬にやる気を出していると女性の声が聞こえた。

 赤子の時からの付き合いで、もう誰だかわかっている。そう思いながら声が聞こえた方を振り返ると、着物を着て冷気を纏っていると勘違いするほど落ち着いた雰囲気を出す美人がいた。

 

 彼女の名は美雪。父さんが俺につけた専属の召使だ。よく小説で貴族などは使用人や召使を消耗品程度にしか見ていないとか書いてあるけど。天峰家では全然そんな事はなく、両親も立場上命令はするが、ちゃんと一人の人間として扱っている。

 俺自身、一回死んだことで色々柔軟というか変な事でも受け入れやすくなっているけど、それはそうと前世の価値観もいくらか残っているので、小説みたいじゃないのは助かるし、美雪に対しては色々世話を焼いてくれる美人さん的な認識だ。(なお、呼び捨てなのは、さん付けをして本人に怒られたからである)


「ありがとう美雪。ちょうど汗を拭きたかったし水も欲しかったんだ」


 俺はそう美雪に礼をいうと、タオルを受け取り汗を拭き、水を喉に流し込んだ。


「ふーー...」


 生き返るわー


「ふむ、美雪よ。他の雪女たちは里は一時的に戻っているが、お前は戻らんのか?」


 水を飲んだ事で、俺がリラックスしていると父さんが美雪にそう聞いた。


 ああ、説明を忘れていたけど美雪は雪女なんだよな。雰囲気通りと言えばそれまでだが。

 異世界ファンタジーだと獣人とかエルフ、ドワーフなんて異種族が出てくるけど、それはこの世界も同じ。エルフやらドワーフは海外にいるみたいだし、雪女であったり、一部の鬼、狐、天狗など中には元々妖として人に追われていた存在もいたりするが、そういった人外に当たる者たちと先人は神仏の立ち合いのもと契約を結び、相手は理由なく人を害さず、こちらも理由なく相手を害さず互いに尊重し合う関係に何千年も前からなっているらしい。(なんなら星海の彼方から来た異邦の神だの破壊衝動や殺戮欲求しかない凶獣だのに対処する為に協力したりするし)

 まあ、当然契約を破る者もいるから指名手配されたりするし、鬼や狐の中には契約をしていない(妖の場合、契約は個人や里、その種族の一脈などが対象なため)者が人を害すこともあるが、それらへの対処はそもそも祓...陰陽師や退魔師と呼ばれる存在の仕事だし、必要があれば契約を結んだ人外もちゃんと対価を払えば仕事として引き受けてくれたりするのでなんだかんだ上手いことやっているみたいだし、少なくとも前世の白人黒人関係ですぐ爆発するような状況よりよほどいいようだ。なんなら異種間で夫婦になり混血児を産んだ者たちもいる(サベツトカサレテナイヨ)


 そんなことを考えていると、美雪と父さんの話も進んでいる。


「そうですね。同族たちは郷に一時戻りましたが、私は出てきて数年しか経っていませんし。特に戻る予定はありませんね」


「そうか。まあ、戻りたくなったらオレなり唯になり知らせてくれ。それはそうと、蒼夜のいつもの様子はどうだ?今みたいに鍛錬の相手はしてやれるが、それ以外は妖やらで忙しくてな」


「そうですね...基本的に鍛錬ばかりしていますね。体が限界になると霊術の鍛錬に移りますし...ですが、ゆっくり休んだりもしておられるので、問題はないかと」


「それならば良いが...」


「強いて言えば日本庭園が好きなようで、休まれる時は露地や枯山水、池泉庭園などに行きゆっくりされることが多いです」


「む、そうなのか。それならば、無駄に敷地もあることだし職人を招いて作ってもらうか。既存の庭園も念の為手入れしてもらおうか...?」


 .........本人の前でそれはやめて欲しい。普通に恥ずかしい。

 いやまあ、考え込んでいた俺が悪いんだよ?でも本人の前で話か普通?あ、でも日本庭園増えるのは全然良いよ。

 俺が、前世から変わらず好きなモノの内一つが日本庭園なのだ、できれば将来的に一人で作ってみたいとすら思うほど。それ以外にも月を見るのも好きだし、神社巡りなんかも好きだったな。長期の休みにバイトで貯めた金で日本各地の神社にメジャーなところからマイナーな所まで様々な神社に行ったからな。

 それはそうと......


「父さんも美雪も本人の前で話すのはやめてくれ」


 俺がそう言うと


「申し訳ありません若様」


「まあ、確かにそうだな。聞きたいことは聞けたし庭園に関しては唯と相談してみよう。それと蒼夜、鍛錬で随分汗をかいただろう。美雪に風呂に入れてもらってきなさい」


 美雪は謝ってくれたが、父さんは反省の色なし。まあ、いつものことではある。

 あと美雪と風呂!?それは三歳までで勘弁だ!体に引っ張られて少し幼くなった気はするけど、前世の記憶を持つものとして羞恥心がまずい事になるから逃げようとしたが


「では、浴場に参りましょう若様」


 瞬く間に美雪に抱き上げられ、そのまま浴場にまで連れて行かれた。

 おのれ子供の体、早く大人になりたい。

 

 そう思いながら美雪に体を洗われる羞恥心を押し殺す俺だった。






 あ、そうそう。美雪の故郷である雪女の里は、うちの先祖が神仏呼び出して契約を結んだから美雪達もうちに召使として来てくれているらしい。




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 美雪さんの外見は、少し吊り目のキツイ感じで無表情がデフォです、髪は銀色で目は空色です。当然美人ですね。

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