第4話 虚ろな来訪者

「このウィンナー、ちょっと味が濃いんじゃねえの?」

「サンドラ用には作ってないから。嫌なら食べるな」

「いや、もっとくれ。そのピリ辛は癖になる」


 私は今日のお弁当の中央に鎮座しているウィンナーを小さくちぎって緋色のヤモリ、サンドラに食べさせている。こいつは肉食だ。普通は虫を与えているが、時々は自分の食べ物を分けてやっている。味が濃いとか不味いとか文句をつける癖によく食べるのは不思議。


 何やかやで午前中の授業を済ませた私たちは、今、食堂で昼食を頂いてます。私はお弁当を持参していたのだけど、ウルファ姫は持参してなかったから。姫は簡単なサンドイッチセットをむしゃむしゃと……美味しそうに食べている。何とも幸せそうな表情はやはり尊い。私は姫に見とれつつもサンドラにウィンナーを食べさせ、そして自分もお弁当をつついていたのだが、誰かが私たちのテーブル近づいてきた。


「あの……ちょっといいですか……」


 青白い顔の小柄な生徒だ。男の子だが記憶にない人物。彼は私たちの返事を待たずに話し始める。


「先ほどの……挨拶は……気に入ってくれたか……な?」


 目線は定まっておらず喋り方もどこか変で、まるで操り人形のようだ。


「えっと。何の事?」


 もしかしたら、ネズミとかカエルの死骸の事??

 食事中にそんな事を言われると気分が悪くなる。


「さっき……お前の……机の上に……新鮮な獲物を……贈った……」


 え?

 新鮮な獲物を贈る??


「友好の……しるし……だ……」


 え?

 友好って??

 あれがプレゼントなの? 仲良しになりたいって事なの??


「お前の中では、アレが贈り物なのだな」


 サンドイッチをゴクンと飲み込んだウルファ姫が訪ねる。その青白い顔の生徒は無言で頷いた。


「狩猟で得た獲物を贈呈して友好の証とする習慣はあると聞いた。地方の妖人族や鬼人族でな」

「そうなの?」

「そうだ。だからと言って、学園内ではマナー違反だと思うがな」


 私はウルファ姫の言葉に頷いた。私たちがお菓子をあげたりする感覚で、ネズミの死骸をプレゼントするなんてマナー違反どころじゃない失礼な行為だと思う。


「ところで貴様、名は?」

「あ……あ……」


 彼はウルファ姫に名を聞かれて答えられない。言葉にならないうめき声を上げている。何かおかしい。


「つ……い……て……来……て……」


 その男の子は踵を返すとゆらゆら歩き始めた。


「ちょっと待て。私たちはまだ食事中だ」


 姫の言葉にその男の子は足を止めた。ゆらゆらと体を揺らしながらその場に立ちすくんでいる。


「は……や……く……は……や……く……」


 彼は肩越しにこちらを見ながら、早く来いとばかりに体を揺すっている。姫は私の顔を見ながら残りのサンドイッチを頬張って頷いた。


 そうか。早く片付けて彼について行こうって事ね。その先にはきっと、この事件の首謀者が待っている。私も焦ってお弁当を片付けた。残ったウィンナーを丸ごと一本サンドラの口に頬り込んだ。


「一度には食べきれない」

「美味しいからいいでしょ」

「まあ、そうだけどな。俺はこのウィンナーを片付けてから追いかけるよ」

「じゃあ、このお弁当箱をカバンに入れといて」

「え? 俺が?」


 サンドラはウインナーを咥えたまま首をかしげているが、アイツに任せておこう。ちょっと荷が重いかもしれないけど、サンドラならきっと何とかしてくれる。


 私は席を立って彼の傍に立つ。


「行……く……ぞ……」

「うん。案内してちょうだい」


 青白い顔の男の子はフラフラと揺れながらゆっくり歩き始める。私はウルファ姫の手を引き、彼の後を追った。

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