第3話 こんにゃくダイエット

 私がダイエットに成功した理由は、異世界日本からもたらされた食材……こんにゃくのおかげなのです。私のお母さんも体は大っきくて、まあ太めなのです。そんなお母さんのために、お父さんが取り寄せたのがこんにゃく食材シリーズ。人間族の多いグラスダース王国で密かに流行しているという噂を掴んだお父さんが、自社の商取引ネットワークから密かに輸入しているのです。


「その……こんにゃくとはどういった食材なのだ?」


 エヴェリーナ先生にずずずっと迫られた。確かにこんにゃくは私たちの国ラグナリア皇国では珍しいというか、ほとんど知られていない食材だ。しかし、異世界の国、日本と密かに交流があると言われているグラスダース王国では隠れた人気食材らしい。


「私も詳しくないんですが、コンニャクイモが原料です。生では毒があって食べられません。茹でで毒抜きをしたものを粉にして、灰と一緒に煮て固めた物がこんにゃくだと聞きました。普通のお芋は炭水化物、つまり糖類が多くて沢山食べると太っちゃうんですが、このコンニャクイモは糖類が多糖体という形で存在してて、消化吸収されにくいんです。だから、カロリー摂取を抑制して太りにくくなる……と、お父さんから聞きました」

「なるほど。そのこんにゃくとやらを少し分けて欲しいのだが……もちろん、対価は支払うぞ」

「はい。お父さんに話してみますね。多分、大丈夫だと思います。あ、もちろんウルファ姫の分も」


 エヴェリーナ先生もウルファ姫もとても嬉しそうだ。二人とも私みたいな太目って感じは全くない。それでもスマートになりたいって気持ちは女の子に共通なのだろう。私は痩せたとはいえ、まだまだぽちゃっとしてる。幼年時代よりは随分すっきりしたんだけど、それでももうちょっと……って思うしね。


 私たち三人はこんにゃくダイエットの話題に夢中になっていた。本来話し合うべき案件、今後の対応はそっちのけで。


「失礼します」

 

 ドアをノックすると同時に、担任のアイモ・エクルース先生が保健室に入って来た。


「ウルファ嬢とティーナ嬢。気分はどうかね?」

「問題ない」

「回復しました」

「それは良かった。エヴェリーナ先生。二人を教室に戻しても?」

「ええ。もう大丈夫よ。ところで犯人の目星は?」

「今の所わかりません。心当たりのある者は、後で職員室へ来てほしいと話してあります」


 うーん。私もウルファ姫も平気な顔をしているので、エクルース先生は有耶無耶で済ませようとしているのかな。どうも、犯人を捕まえてやろうって気はないみたいだ。先生は妖人族らしいのだけど、どうも影が薄くて掴みどころがない。厳しい事はなく怒った所も見た事がないのだけど、優しいような素振りを見せた事もない。


 私はウルファ姫と手を繋いで教室へと戻った。エクルース先生に対する不信感はぬぐえない。私たちに対してもう少し親身になってくれたらいいのにと思ってしまう。


 その後の授業は何事も無かったかのように、先生も生徒の皆も平然としていた。


「何か無かった?」

「何もない。お前の弁当もいじくられた形跡もない」

「そっか。ひとまず安心ね」


 報告して来たのは使い魔のサンドラ。緋色のヤモリで火炎を吐く頼りがいのあるやつだ。私の肩で舌をちょろよろ出している。


「そろそろ腹が減ってきたんだが」

「私もよ。もうすぐお昼だからそれまで我慢しなさい」

「お前のオカズを食っていいのか?」

「今日は分けてあげるから。この後も見張り、お願いね」

「へへへ。わかったぜ」


 そう言ってサンドラはすうーっと消えた。私たちの分からない場所から見張ってくれている……んだと思いたい。

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