第2話 保健室の先生

「とりあえず……保健室に行こうか?」


 ウルファ姫に促されるのだが、私はこの中庭のベンチから動きたくなかった。天気はよくてぽかぽかしてるし、ウルファ姫と触れ合う位の距離で座っている幸福感は捨て難かったから。

 

「特に気分悪くないけど」

「いや、そこで作戦会議だ。ティナの話だとクラス委員長のグスタフが怪しいんだろ? だったら他にもクラス内に協力者がいるかもしれない。密室で相談するのが最適だと思うのだが?」


 ごもっとも。

 でも、私としてはヤバイ……かなりヤバイ。


 あの、超憧れの美少女ウルファ姫と密室で二人きりになるなんて……鼻血が抜けそうなくらい興奮しちゃうじゃない。


「ティナ? 顔が真っ赤だぞ? 熱でもあるのか?」

「大丈夫。大丈夫だから」


 姫の冷たい手が私の額に触れた。その何気ない行為に気絶しそうなくらいの衝撃を受けた……これはワープカタパルトで発艦した時と同じ位ね。


「じゃあ、保健室で密談しましょ」


 私はその場で立ち上がって姫の手を引き、保健室へと向かった。そこで初めて気づく。保健室って、担当の先生がいるじゃん。姫と二人きりで密室状態にはならない……かな。我ながら甘い見積もりにちょっとがっかりしてしまった。


 ノックしてから「失礼します」といってドアを開く。誰もいない事を願って……。


「おお、よく来たな。遠慮せずに入れ」


 中には担当の先生がいた。

 しかし、この声は何処かで聞いたことがある気がする。


 保健室のデスクでは白衣をまとった銀髪の美女が微笑んでいた。


「あ! エヴェリーナ先生?」

「ティナ、久しぶりだな。元気だったか?」

「はい。ティナは元気です。ダイエットに成功したので、ちょっとスリムになったでしょ」

「そうだな。どんな方法で痩せたんだ? 私にも話を聞かせてくれ」

「はい、エヴェリーナ先生!」


 そうだったんだ。エヴェリーナ先生は幼年学校でウルファ姫と一緒に私を助けてくれた人だ。先生は姫のお目付け役で護衛役だったはず。だったら、姫と一緒に転入してきても不思議じゃない。しかし、ウルファ姫の表情はちょっと暗め。早速先生に質問した。


「先生は語学担当ではなかったのですか?」

「幼年学校では語学担当だったが、ここでは保健担当だ。私は格闘家だから、むしろ保険の方が専門なんだよ。何か問題でも?」

「いえ、何でもありません」


 ぶっきらぼうにウルファ姫が返事をした。うんうん。授業をサボったところでお目付け役に見つかるなんて超不幸って事なのかな。多分そう。しおらしくなっている姫も可愛いよ。


「ところでエヴェリーナ先生。教室でちょっとありまして」

「どうした?」


 私は経緯を説明した。選択授業で教室を開けている時にいたずらされた事。幼年学校の時の青鬼グスタフがクラス委員長をやっていて、アイツが姫を貶める為の陰謀が張り巡らされているんじゃないかって事を。


「なるほど。あの青鬼がいるんだな。ただし、青鬼が首謀者だと断定するのは早計だ。それに、露骨にネズミの死骸を使った事も気になる。陰謀を巡らせるならそんな目立つ事をするとは思えんしな」


 確かにその通りだ。流石は年の功、エヴェリーナ先生はしっかりしている。


「転入早々大変だったな。お茶でも飲んで落ち着け」


 先生の入れてくれたハーブ茶を飲みながら今後の対応を話し合うのかと思ったら、先生は私が痩せた方法を根掘り葉掘り聞いてきたのだ。しかも、ウルファ姫まで真剣に私の話を聞いてくる。

 私はメチャクチャ恥ずかしかったんだけど、奥義とも言える内容を話した。それは、間食をしない事と快便の秘訣だ。


「こんにゃく系の食材をご飯に混ぜたりして、沢山食べさせられたんです。そしたら……」

「そしたら?」


 先生と姫にグググッと接近された。


「毎日ですね。ちゃんとお通じがですね」

「あるの?」

「あるのか?」

「はい。無い日はありません」

「おおおおお」


 めちゃ感心されてしまった。

 二人共、お通じに悩みがあるのかな??

 あははは。

 

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