第3話 ある魔術師は復讐を誓う ――追憶の森にて
ザッ……。
「いない……あの魔物。どこに行った?」
すでに完治しているが、貫かれた傷跡がひどく痛む。
彼女は周囲を注意深く見渡す。
ここに来るまでは、弱い魔物ばかりだったが確かに魔物は存在していた。しかし、ここの一帯には、不思議と何もいない。
強い魔物は身を隠すのがとても上手いという。けれど、私はそのために腕を磨いてきた。
張り巡らせた魔力を通して、私は魔力ありし存在を感じ取っていく。魔物には必ず魔石というものが存在している。
これに引っ掛からなかった魔物は、今のところいない。
結果は、『反応なし』
「そうだと思った」
数年前のあの日。私は生死を彷徨った。
私の所属しているパーティーが、ある冒険者に誘われ、Dランク依頼の討伐へ向かったのだ。
実入りは少ないが、村人を救いたいのだと、とても切実そうに頼まれたのを今でも覚えている。
私のパーティーは全滅した。
みんな死んだ。誰一人として生き残らなかった。私以外。みんな……。
気絶していた私が起きた時、あの魔物はただ一箇所を見つめていた。
私に気づいても興味がないとばかりに一瞥するだけ。
私は逃げた。恥も外聞もなくひたすらに。
ただ逃げた。
後日討伐隊が組まれたらしい。
命をかけて私を守ってくれたお兄さんに関しては、死体すら回収できなかったそうだ。
私もまた、当分街を出られなくなった。
日の遮るものが少ない森の空気を吸い、あたりを見渡す。
この辺りで間違いない。
女性は日が暮れるのをただ待った。悲しみすらなく、ただ憎しみで魔物のいた場所を睨みつける。
女性は魔物が落としたものをバックへ入れる。
前に来た時はパーティーで奮闘していた。懐かしい記憶を思い浮かべては、その全てを失う日が鮮明に頭に蘇ってきて、私を憎しみに駆り立てる。
「そろそろいいか」
日が落ちるのを待ったのには理由がある。
バックから取り出したのは、あの時私に刺さっていた木の枝だ。あの魔物が移動している可能性が高いとふみ、その一部を持ってきていた。
また。完治しているはずの傷跡がズキリと痛む。
手で微かに残る魔力を感じて、杖を地面に向ける。私は夜の森特有の空気を吸い、追跡の魔法を唱えた。
「我が望みに応えよ、ここにあるは魔力、古き足跡の
光り輝いた木の枝が朽ちていく。普通なら、青白い光が浮かび上がるのだが、一向に道標は現れない。
「痕跡はない……か。さすがに遅すぎた……」
目を伏せた女性は、輝く星々のある夜空を見上げて、とても久しぶりに涙を流す。
何年経った? よく覚えていない……。
アレは確実にイレギュラーだった。
知恵のある魔物。もしかしたら隣国から流れてきたネームドかもしれない。と、今なら思う。それくらい強かった。
あの魔物を見た瞬間に、誘ってきたお兄さんの言った通り引いていれば。あの惨劇は起こらなかったのに。
危機管理のなかった自分にも、あの場にいたメンバーにも腹が立つ。
女性は涙を拭うと、もう用はないとばかりに山を降りていく。
もしも、もしもどこかで生きていたならば。お兄さん、私は貴方に伝えたいことがある。
「星に手が届かぬように、望みの薄いことだけどね」
あの魔物だけは、必ず――。
俺は農業から逃れられないようだ(泣) 水の月 そらまめ @mizunotuki_soramame
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