第65話 働き方の可能性。
「珍しいですね。ポン酢さんから会いたいなんて」
「人生の先輩にお聞きしたい事がありまして」
俺は今、姉我好先生の家にいる。というか姉我好先生の部屋だ。
円城寺家の実家ではないが、それでも成人女性のひとり暮らしには広すぎる家。
そしてその自宅のリビングのソファで優雅に紅茶を嗜みながらお姉さんの下着と思われる下着を嗅いでいる姉我好先生。
……前に見たやつとは色が違うので、また盗んできたのだろう。
俺がドン引きしていたのを見て「ちゃんと新品とすり替えているので問題ないです!」と
すり替えてる分より悪質なんだよな……
「ですが一体なにを聞きたいんですか? ま、まさか…………い、いけませんよポン酢さん?! 私にはお姉ちゃんという大切で性的にも愛している女性がいるので私を攻略し」
「あ、そういうのいいんで」
「……ちょっとくらいコントに付き合ってくれてもいいではないですか〜」
「姉我好先生は普段からhentaiキャラでボケてるじゃないですか。何言ってるんですか」
「私のシスコンっぷりをコントと言い張りましたかポン酢さん?! いくらポン酢さんとも言えど泣きますよ!!」
「いやそこは怒ろうよ……」
変態相手だと話が進まない。
だが仕方ない。
そもそも俺がなぜこんな頭のおかしい人(人? 人間? ……たぶん人)に人生相談を持ち掛けているのかという話ではあるが、良くも悪くも普通じゃない人の話を聞きたかった故にこうして会いに来たわけだ。
メッセで人生相談したいと言った時にはいきなり住所を貼られて困った。
「それで、人生相談とは?」
「エロゲとはいえシナリオライターをしている姉我好先生に金の稼ぎ方を聞きたいと思いまして」
「なるほど。……てっきりお姉さんとの初夜に失敗したからセックスの手ほどきをしてほしい、とかなんだと思ってましたよ〜」
「うん、とりあえずエロマンガによくある展開は置いといて下さい」
ほんとこの人の頭の中って童貞だよな。
一周回って凄いなって思っちゃったよ。
「要するに、手っ取り早くお金稼ぎたいって事ですか?」
「そうではないですね。そんなに世の中甘くはないのは一応理解してるつもりなので」
「最近の若者は意外としっかりしてるんすねぇ」
「姉我好先生も若者でしょ。一応……」
俺が知りたい事は単純に会社員として働く以外の働き方である。
クリエイティブな仕事、という点で言えばシナリオライターもそうだろう。
同じく小説家でもある姉我好先生は世間一般的な仕事とは本質が異なる人だ。
姉ちゃんの働き方、スーパーの店員として働いてる姿を見ていて思うのは、やはりお金を稼ぐのは大変であるという事だ。
俺だってバイトをしているが、基本的に最低時給である。
まかないとか色々あるから問題ないと思っているし、居酒屋料理ではあるが料理を教えてもらったりもできているので時給以上の何かは得られているとは思う。
だが、姉ちゃんと末永く暮らすためにはスキルとしてはまだまだ未熟である。
「前にお姉さんの事が好き過ぎて書くようになったとお話はちらっと聞いた事はありますが、シナリオライターとしての今に至る経緯を詳しく聞きたいんです」
「取材みたいっすね」
「そんな感じです」
この人の頭の中は宇宙みたいなものだ。
おおよそ一般人とはかけ離れた頭のおかしな人。
俺が一生掛かってようやく思い付けるかもしれないような事でも、この人はきっと3秒あれば思い付いて文字に起こせるだろう。
馬鹿と天才は紙一重とはよく言ったものだと思う。
シスコンではない人から見れば、姉我好先生は馬鹿に見えるだろう。
だが俺みたいなシスコンや創作に携わる者や関心がある人が見れば天才に見えると思う。
馬鹿と天才の違いは見る人の視点の違いでしかないと俺は思っている。
「元々幼少期の頃からお姉ちゃんの事が大好きだったんですけど、たまたまとある姉妹百合作品を観てしまい、それからお姉ちゃんをオカズに○ナニーをするようになったですよね」
「……初っ端からセンシティブなジャブだな……」
「ポン酢さんは私に欲情しない事はわかってますからね。そこは安心してますはい」
一応俺は思春期真っ盛りの男子高校生なんだが、姉我好先生からしても俺は生粋のシスコンであると認識されているのだろう。
今この場に居るのはオスとメスではない。
シスコンとシスコンなのだ。
例え男女に友情は成立しなくとも、シスコン
現に俺の息子は全く反応していない。
今もし姉我好先生が服を脱いで自分を慰め始めても興奮しない自信がある。
……それはそれで失礼な気もするが、三が日で既に失礼な発言と態度は散々しているので今更である。
「そこから色々と姉弟・姉妹もののR18作品とか漁るようになって、好きな作品の二次創作とかするようになって、シスコンブログとかもするようになって、それから「小説家ににゃろうニョクターン」に投稿してたR18作品の姉物語がエロ漫画化の打診が来て……それで今に至る? って感じですね」
「当時読んでましたよ。日間・週間・月間ランキング1位取ってましたもんね」
「ポン酢さん、なんであのサイト出入りしてるんですか?」
「それを聞くならどうしてエロゲを所持してるかがそもそも問題でしょ。聞くな聞くな」
「……臭いものには蓋をしろ定期ですね」
「俺と姉我好先生は本来お互いを認識してていい関係性じゃないんですよ。てか先生だって学生の頃からR18作品漁ってたなら
「まあアレっすよね!! タバコとかお酒とか薬物とかじゃないし、いいっすよね!! 少子高齢化だしっ!!」
「……成人した大人が言っていい事ではないとは思う、というのは言わないでおこう」
「聞こえますよ〜」
エロは世界を救うのだ。
そういう事にしておこう。
少年漫画にだってエロスはあるのだし、それをいけないものとする大人に対して俺は文句を言いたい。言わないけども。
みんな、交尾して生まれてきたんやで。
ってな。
……という、思春期男子高校生の苦しい言い訳。
これ以上は聞くな。追求するな。揚げ足取りをしようとするな。
……頼むから。
エロゲとエロマンガが無かったら今頃は実姉をレイプして性犯罪者になってたもしれんのだ。
「私の今の主な収入はもちろんシナリオライターとしてですけど、シナリオライターになってからはシスコンブログもわりと閲覧数とか増えて広告収入もあったりはしますし。お金の稼ぎ方は色んなところからってのが今の私的には正しいですね。会社員とかみたいに、組織に所属して仕事してその報酬としての月収とはそもそも違うので、たぶんポン酢さんが聞きたかった話の一部分にはなるかと思いますけど」
「まさにそういう話が聞きたかったんです」
俺の中で姉我好先生は文字を扱うプロという印象だが、実際そうだろう。
エロゲとはいえゲームのシナリオを書いたり、純粋に小説を書くのもそうだがブログも先生の分野の1つとして確立している。
「書く」という行為ひとつ取っても色んな仕事や稼ぎ方がある。
「まあでも、今の時代だからこそできる仕事ですけどね。パソコンが無かったらこんなにマルチに文字列を綴るのは難しかったでしょうし」
「パソコンが無くなったら先生は一気に無職ですね」
「……無職なだけならまだマシです。……ポン酢さん、私が事故とかで死んだら、私のパソコンを破壊して下さいね。あ、データとか絶対見ないで下さいね?」
「そんな遺言を未成年に託すな。そして逆に俺も先生にそれは頼みたい」
「私たちは共犯者。真っピンクなシスコン同盟のシスコン狂です。墓場まで持って逝きましょう」
そういえばどっかの主人公も死んで異世界転生する前に同僚に「パソコン破壊してくれ」って頼んでたっけな。
「私はパソコン1台でどうにかなる仕事で在宅ワークの上位互換みたいなものですけど、下済み時代自体は長かったですし、未来ある高校生におすすめできる生き方ではないですけどね」
「いえ、とても参考になりました。ありがとうございます」
普通じゃない人の、普通じゃない生き方。
会社員は日本に何千何万といるだろうが、創作で生きている人なんて少ない部類に入る生き方だろう。
そしてその少ない生き方を続けられている人から直接話を聞けるのはある意味とても幸運だと言えるだろう。
「さて、次はどんな人生相談をポン酢さんはしてくれるのか私は楽しみだなぁ。「お姉さんとア○ルセックスしたいけど打ち明けていいのかわからない」とかだったりするんだろうか」
「そんな相談は絶対しないので安心して下さい」
「ええぇ〜。……じゃあもっとピュアな感じですか? 「お姉ちゃんが可愛い過ぎて挿入できなかった」とか?」
「ちゃんと挿入できましたから問題なかったです」
「……………………え?」
……そういえば姉我好先生には言ってなかったな。
まあ言うことでもないし言いたくもないんだが。
「なにそれkwsk」
「絶対やだ」
「お願いしますよぉぉぉぉおおお!!」
「俺と姉ちゃんだけの夜なんだよ! 絶対話さないからなっ!!」
「後生ですからぁぁぁぁ!!」
「先生、俺が話すと思います? 姉ちゃんとの夜を? ご冗談を。 そんな事を俺が話す可能性よりも姉我好先生に突然変異で竿が生える方がまだ可能性はありますよ」
「……断固たる意思が天文学的確率過ぎる……」
シスコン同盟と言えど、愛する姉との淫らな詳細は語らない。語りたくない。
シスコンの独占欲を甘く見るな。ふはは。
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