第57話 これがいわゆる
朝、鳥の鳴き声で起きた。
これがいわゆる朝チュンという起き方らしい。
感想としては非常に眠たい。
だがすぐ横には裸足どころか全裸のエンジェルがいるという事実。朝陽のkomachi angel最高まである。
「……寝顔、可愛いなぁ姉ちゃん」
たまにリビングで眠りこけている姉ちゃんに毛布を掛けたりはしているが、今朝は一際可愛く見える。
脱・童貞したからと言ってこれという実感はないが、目の前の姉ちゃんを拝めるだけで長生き出来そうな心持ちにはなる。
「ずっとこうして寝顔を見ていたい気持ちもあるが、朝食の準備もしないとだしなぁ」
昨日も思ったことだが、本当にこんな関係になれるなんて思ってなかった。諦めていた。
諦めていたし、そうあってはいけないとも思っていた。
それが今の時代の一般常識だから。
「……さむっ!!」
そういえば俺も全裸だった。
そりゃ寒いわ。なんたって正月なのだ。
姉ちゃんにくっついて暖を取りたい衝動に駆られたが、そのままするとおそらく俺は調子に乗ってもう1回戦始めようとするだろう。
だって俺は絶賛思春期男子高校生なのだから。
だが今日は椎名の買い物に付き合わないといけないという予定がある。
その為浮かれているわけにもいかない。
福袋がどうのとか言ってたし、寝坊したら怒られるだろうなぁ……。
「姉ちゃんはまだ寝ててね」
すやすや眠る姉ちゃんに毛布を掛け直して部屋を出た。
正月も三が日は過ぎたとは言え、未だに朝の雰囲気はまったりとしている。
寒いのは苦手だが、こういう空気は嫌いじゃない。
「朝は簡単に済ますか」
熱したフライパンにベーコンを敷いてその上に卵を割る。
うちのフライパンは鉄製のどっしりと重いフライパンであるが、手入れをすれば長く使えるしその辺のフライパンより火が早く通る。
流石に中華鍋ほどではないが、それでも安物のフライパンとは鍛え方が違う。
「ベーコンの良いところは味付けしなくても美味いとこだよな」
ベーコンの香ばしい香りと脂が目玉焼きに染みていく。
ベーコンと卵の組み合わせは味噌とキュウリくらいの黄金タッグと言えるだろう。
火加減に注意しつつ水を少し入れて蓋をして蒸している間に昨日のシチューも温めておく。
最初にあっためておく方がよかったなぁとは思いつつも、仕事ではないのだし急いでいるわけでもない。
ましてやまだ姉ちゃんは寝ているのだから、効率よく調理する必要もない。
「目玉焼きは俺も姉ちゃんも半熟派なんだよな」
昨日使わなかったパンとサラダを用意してベーコンと卵も焼きあがった。
お皿に盛り付けてテーブルへ運ぶ。
「お、おはよ。タク」
「おはよう姉ちゃん。朝ごはん出来てるよ」
「うん。ありがと」
「「頂きます」」
若干そわそわしている姉ちゃん。
チラチラと俺を見てはせわしなくなにかをしている。
しかしそれでも目の前の朝ごはんに手を伸ばした。
「姉ちゃん、美味しくなかった?」
「う、ううん!! そうじゃないよ! とっても美味しい!!」
「そっか」
朝ごはんを食べていてもよそよそしい姉ちゃん。
これはこれで可愛らしいので眺めていたい気持ちにもなるが、落ち着いていない姉ちゃんを見ているとこちらもこころなしか落ち着かない。
「……」
「…………」
なんなんだこの借りてきた猫みたいな姉ちゃんは……
「姉ちゃん」
「ッ!! なに?!」
「じーーー……」
「…………」
姉ちゃんを呼んで顔をじっと見つめてみる。
みるみるうちに顔を赤らめる姉ちゃん。耳まで真っ赤になり、朝からすっかり茹でダコ状態である。
なるほど。だいたいわかった。
シスコンマイスターこと長谷川拓斗は姉ちゃんの事ならだいたいわかる。
「ベッド行く?」
「あ、あ、朝から何言ってるのタクっ?!」
「だって姉ちゃんがずっとモジモジしてるし」
「……仕方ないじゃん。タクを見ると昨日の事、思い出すし……」
どうしよう姉ちゃんが可愛い。
いやいつも可愛いんだがそれにしたって可愛い。
シスコン万歳。
「大丈夫だ姉ちゃん。俺も思い出している」
「は、恥ずかしいから思い出さなくていい!!」
「姉ちゃんのあの顔は忘れられないなぁ」
「思い出さなくていいっば!!」
「あの顔は可愛かったなぁ」
「もう……やめてってばぁ……」
そうして姉ちゃんは顔を隠した。
がしかし赤い耳はしっかりと見えているので全くもって可愛いの極みである。
てぇてぇなぁうちの姉ちゃん。
「姉ちゃん、可愛いよ姉ちゃん」
「もうっ! 怒るよっ?!」
「この手のことで怒られても俺からしたらご褒美だぜ姉ちゃん」
「……弟が、いじめてくる……」
全く覇気のない怒りを露わにする姉ちゃんも最高だぜ。
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