第50話 性的チキンレース。
「ただいま〜」
「お、おかえりっ! タク」
姉我好先生たちと別れたあと、家に帰ると姉ちゃんがほかほかしていた。
お風呂に入ったからか、やはり姉ちゃんは色っぽくて大変よい。
しきりに目を泳がせている、というよりやたらと俺をチラチラと見たり行ったりと忙しい。
「どうしたの姉ちゃん?」
「う、ううん!! なんでもないよ?!」
「とりあえずご飯作るから待ってて」
「う、うん!」
年末年始はほとんど俺が料理当番だったというのもあるが、昨日まで連日仕事だった姉ちゃんの疲労を取るための料理や負担軽減は俺の大事な仕事と言える。
「わ、わたしも手伝おうか?」
「ありがとう姉ちゃん。けどまだ疲れてるだろ? ゆっくりしててよ。すぐ作るから」
「そ、そっか。わかった」
……おかしい。
姉ちゃんのそわそわ具合が異常だ。
なんかあったっけ?
俺はなにかを忘れている?
いや別に正月早々からなにかしらのイベントはないはずだ。
姉ちゃんの誕生日とかも先だし、なんかあっただろうか…………あ。
なるほど。ふむ。ふむふむ。
よし、少しカマを掛けてみよう。
「姉ちゃん、生姜はどうする?」
「初夜?! あ! 生姜ねっ?! うん! あったまるからね?! ありったけ!!」
「わかった」
上擦った声でわりと動揺気味の姉ちゃん。
うむ。可愛い。
未だ童貞である俺がからかえるようなわけもないのだが、姉ちゃんの反応は面白い。
姉ちゃんから元々三が日が終わったら休みを貰えて、その時にとの約束だった。
だがいざその日になってどうやって誘おうかとモジモジしているのだろう。姉ちゃん可愛いかよ。
まあたしかに。
ムードというのは思いのほか難しい。
だが個人的には全く約束をわすれてるフリをして姉ちゃんの同様アンド困惑っぷりを観察したい。
なによりキョドっている姉ちゃんが可愛い。
嗚呼。日本語って素晴らしい。
よし、頑張って卑猥に聞こえる言葉を並べ立てよう。
「弱火でいいか……」
「よ、夜這い?! ああ〜。う、うんそうだね。弱火でじっくりもいいよねぇ」
問題なのは、性知識がそこまでな姉ちゃんが反応するアダルト単語がどのくらいあるのかという点だが、夜這いは知ってるっぽいな。
これは
……正月からなにやってんだ俺……。
「チンゲン菜買っとけば良かったかな〜」
「ッ?!」
姉ちゃんが座っているソファがガタッ!! と鳴った。
分かりやすいなぁ。楽しいなぁ。
これはあれだな、恋愛頭脳戦というやつのそれだな。うん。
「やっぱももより胸だな」
「ッッ!!」
姉ちゃん、鶏肉の話だよ。
まあ実際、俺はもも肉より胸肉の唐揚げとかの方が好きだ。
もも肉のぷりぷりとした食感やジューシーさも良いが、ヘルシーでタンパク質も多い胸肉の方が個人的には好きである。
あと食べてて罪悪感が少ないのがいい。
「姉ちゃん」
「な、なに?!」
「パイかパン、どっちがいい?」
「な、な、なんの話?!」
「シチュー」
「チュー?! あ、シチューねうん?! 」
「いつもは白米だけど、今日はどっちも安かったさ」
まさか年末に椎名を荷物持ちにして行った買い物の時の牡蠣のシチューの話がここで伏線となるとは……。
人生、しょうもない伏線ってあるんだなぁ。
「えっ、違うけど、いいか……」
「ッ!!」
……姉ちゃんは男子中学生説が今俺の中で流れている。
分かりやすいけどここまでいくと心配だぜ弟としては。
「お賃金上がんないかなぁ」
「おちん?! ああ、お金の話ね?!」
「最近物価高じゃん? バイトして半年だけど時給上がんないよなぁって思って」
「そ、そうだよねぇ。生きるって大変だ」
過剰に反応してしまっている姉ちゃんだが、普通の姉ちゃんであるならばおかしいと気付くはずなのだ。
だって高校生が普通は時給の話をする時は普通に「時給」と言うのがほとんどだろう。お賃金なんて普段の生活ではあまり使わないだろう。個人的な感覚だが。
「……整理だな、これは」
「…………せ、生理じゃな、ってキッチンの話か、うん…………」
姉ちゃん、聞こえてないと思って小声で呟いたんだろうけど、普通に聞こえてるからね。
シスコンは姉ちゃんの声なら地獄耳になるのである。
「あ〜なるほど」
「ッ?!」
あくまでも俺はスマホでレシピを見ながら料理をしているだけである。
だから料理中に独り言を言っていてもある種仕方ない。
姉ちゃんが勝手に性的言語だと勘違いしているだけに過ぎない。
そしてその反応が楽しい。
そうか、えっちなお姉さんが童貞をからかっている時の気持ちはきっとこの感覚に似ているのだろう。そりゃ楽しいな。
残念なことがあるとすれば、リビングのソファで悶々としている姉ちゃんの顔を拝めない事だろうか。
姉ちゃんの恥ずかしがったりテンパったりする顔が見たかったなぁ……
「……せっかく……まあいいか」
「ッ!! ……」
……姉ちゃんは今「せっかく」で反応した?
今のはほんとにただの独り言で全く狙ってなかったけど、わりと姉ちゃんの悶々ゲージは最高潮らしい。
「よしっ、成功。いい感じだな」
完成した料理をリビングに持って行って姉ちゃんとふたりで頂きますして食べ始める。
ふたりでご飯を食べながらの他愛もない会話。
終始姉ちゃんは落ち着かずそわそわしていたが、食事中にも思い付く限りの言葉を並べてひたすら姉ちゃんの顔を眺めていた。
姉ちゃん可愛いなぁ。過敏に反応する姉ちゃんとか新鮮だもんなぁ。
「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」
「わ、わたしがお皿洗ってるからお風呂入ってきたら?」
「いやでも悪いよ。姉ちゃんはいつも頑張ってお仕事してくれてるし」
「ううん! だいじょぶだから!!」
と有無を言わさず食べ終わったお皿をかっさらって行った姉ちゃん。
チラリと黒髪から覗いた姉ちゃんの耳が赤かったのを俺は見逃さなかった。
てぇてぇなぁ姉ちゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます