第32話 今宵もスナックでがーるずとーく。

「ママぁぁ……」

「はいはい。ちゃんと聞いてるわよ」

「どうしよ……わたし、お嫁に行けない」

「弟くんが責任持って最期まで連れ添ってくれるわよ安心しなさいな」


 わたしはいつものスナックで項垂れていた。

 今でも思い出すだけで顔が赤くなるのがわかる。

 あられもない姿をタクに見られてしまった事が恥ずかし過ぎてどうしようもなくなる。


「そりゃあさ、わたしが悪いよ? つい長風呂しちゃって弟はまだ帰って来ないだろうって思っちゃってたからさぁ……」

「でもあれでしょ、処女あげるんでしょ? なら遅いか早いかの違いよ」

「そ、それはそうだけどさ……」


 梅酒の入ったグラスを意味もなく傾けてみては元に戻す。

 おおよそ全ての恥部を油断して見られてしまったのはあまりにも恥ずかし過ぎるし情けない。


「弟くんからしたら大歓喜よね。モモちゃんの裸見れたんだから。そりゃ鼻血も出るわね。童貞だし」

「ほんとに凄い量だったんだよ?! 救急車呼ぼうと思ったし……」

「お医者さんに「姉の裸見て鼻血出ました」って言わせて「出血量が多いので輸血します」とか言われたらそっちの方が恥ずかしいわよたぶん」

「……まあ、そうだけどさぁ……」


 タクの着てた服は血だらけで捨ててしまった。

 ほんとに事件に巻き込まれたレベルでほとんど血の色だったし……


「夜這いはされなかったの? モモちゃん大好き弟くんがモモちゃんの裸見たんだから、そりゃもうムラムラしてたでしょうに」

「あ、頭クラクラするって言ってたし……」


 わたしがそう言うと、ママはなぜかニタニタしだした。

 見透かしたような目がこわい……


「実は期待してたでしょう?」

「……まあ、夜な夜な襲われちゃったらどうしよとか、考えちゃったけど……」

「モモちゃんはドMだものね」

「ち、違うと……思います?……」

「弟くんに体をまさぐられて強引なキスとかされてそこから」

「わぁー! わぁー! わぁぁぁぁぁあー!!」

「図星じゃないのぉ〜」


 お酒の酔いが一気に回って顔が熱い。

 恥ずかしさのあまりわたしは耳を塞いでカウンターに突っ伏した。

 もう完全にそんな妄想とかしちゃったし、嘘が付けるほど器用じゃない上にお酒入ってるし……


「性知識だけ箱入り娘みたいなモモちゃんでも、そういう妄想とかはするのねぇ」

「聞こえない聞こえなーい!!」

「恥ずかしがることないじゃないの。まあ、男からしたらそっちの方が可愛げがあっていいと思われると思うけどねぇ」

「だって……」


 そ、そりゃ保健体育の授業で性行為とかは知ってるけど、周りの友だちはなぜかそういう話とかしなかった。

 よくわからない単語とか出てきて、それってなに?って聞いたら笑顔で「ももちゃんは知らなくてもいいんだよ」って微笑まれ続けて今に至るわけで……


 高校も途中で中退しちゃってなんだかんだ疎遠になったりとかもあったし、お付き合いした人も居なかったし。

 というかタクのえっちなやつとかも、最初はよくわかんなかった……

 でも全部「姉」がタイトルに入ってて気になって中身覗いたら頭真っ白になったりで……


「で、そんなモモちゃんはどんな妄想したの? アタシに言ってみ言ってみ?」

「……いや、それは……なんか恥ずかしぃ……」


 てか、あつこママが言ってたことほとんどまんまだった……

 あつこママはわたしの心でも読めるのだろうかってくらいに恥ずかしい。


「まあ、モモちゃんも女の子だものねぇ」

「……お、弟に痴女だとか思われないかなっ?!」

「大丈夫よむしろ可愛いわよ」

「……そ、そうなの?」

「モモちゃん、人によっては普通に彼氏とのセックスがどうだったとか女の子同士で話したりするのよ? それに比べたらアタシからしたらモモちゃんは「ちゅーしちゃった! 子ども出来ちゃう?!」って言ってる子どもみたいなものよ。微笑ましいわ」

「わ、わたし……そこまで子どもじゃないよ……」

「みたいなもの、って話よ。そのくらいピュアな20歳なら天然記念物よ」

「せめて人でいたいんだけど……」


 そういえば高校1年生の時、クラスメイトの女の子に長谷川さんは天然記念物だねって言われた事あったけど、もしかしてそういう事?

 それってつまりバカにされてた?

 …………でも仕方ないか。


「となると、消去法的に弟くんの方が性知識とかは上そうだけど……弟くんも経験ないのよねぇ」

「う、うん。そこが心配で……。初めては痛いって聞いたことあるし」

「初めてはどうしても緊張するだろうしねぇ。処女膜も緊張したまんまだと破れちゃって血が出るだろうし」

「血はまあ、毎月出てるけど」

「弟くんは鼻血出してるからお互い様ってことで」


 だいぶ酔っ払ってるなぁ。

 普段こんな話なんてしないのに。

 あつこママだから話せてる感はあるけども。

 あつこママは性別・あつこママみたいなとこあるし。


「でもキスは気持ちよかったのよね?」

「……良かった」


 今でも思い出しただけでお腹の奥底がきゅんってする。

 子どもの頃に見たようなキスシーンとかあるわけだけど、こんなに気持ちいいものだってわからなかったってくらいだった。


 なんなら今朝のキスも、良かった……。

 わたしからしちゃった感あったけども。


「ならする前にたくさんキスして頭とろとろにしてもらいなさいな。それで濡れれば案外すんなり挿入はいるかもだし」

「弟くんのサイズ、聞かせてちょうだいね」

「……それはちょっと……」


 あつこママ、わたしのタクを狙ってない? 狙ってるよね? さすがにあつこママでもそれは無理!!

 てか椎名ちゃんとでも実際は複雑なんだから……


「あ、間違っても弟くんの弟くん見て「思ってたよりちっさい」とか言っちゃダメよ? 弟くん飛び降りるわよ?」

「大きいとか小さいとか言われても、よくわかんないんだけど……」

「大小結構サイズ差はあるからねぇ。でもあれよ、人によっては「こんなのは挿入るわけない!!」ってサイズとか」

「う〜ん……ピンと来ない」

「フランクフルトとか」

「フランクフルト? フランクフルト??」

「あと固さね。人によっては長さより固さだったり太さの方が重用って人もいるから一概には言えないけどね」

「……色々、あるんだね……」

「男と女は、深いのよ」


 流石は恋多きオンナ、あつこママ……

 なんか強者つわものっぽい顔してる。


「早くモモちゃんが女の顔してお店来ないかなぁ〜。アタシはそれがもう楽しみだわ。どんな表情するのかしらねぇ」

「……が、頑張る……うん」


 タクには「待ってて」って言っちゃったし。

 お姉ちゃんだし、タクを満足させられるようにしなきゃ。


「モモちゃん、貴女は空回りしそうなタイプだから弟くんに気持ちよくしてもらいなさいね」

「お、お姉ちゃんの威厳が……」

「筆下ろししてあげられるような経験ないんだから、威厳もなにもないわよ。それにドMだから無理よ」

「いやでもっ……そんなこともないかもしれないし?」

「そのうち弟くんの指先見ただけで発情するわよ」

「それは淫乱すぎないわたし?!」


 わ、わたしはドMじゃないと……思うんだけど。

 どうなんだろう。

 でもそもそもよくわかってないから、難しい。

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