第31話 *姉我好先生が異常なだけですご了承ください。

「お姉さんの全裸見た件についてkwsk」

「いやがっつき過ぎですからね?」


 姉我好先生は定期的に連絡を取っては会いにくるようになった。

 こっちはわりとバイトに文化祭の準備でそこそこ忙しいのだが、うっかり通話で姉ちゃんの裸を見た件について話してしまったのが運の尽きである。


 お互い姉好きシスコンというどうしようもない性癖の持ち主故に自身の姉のどこが良いのかの自慢合戦なわけである。

 秘密を共有している共犯者の如くシスコンという堅い絆が出来つつある。


「いいなーいいなー、私もお姉ちゃんの全裸見たいなー。しかも四つん這い状態とか眺め最高じゃないっすかぁ〜」

「言うても姉我好先生は女性じゃないですか、そんなにご自身のお姉さんの裸って見たいものなんですか?」

「そりゃもう見たいに決まってるじゃないっすか!! 何言ってんすかこちとらお姉ちゃんの全裸を想像して毎日PPPーしてPPさらにPPPPPですよええッ!!」

「……カラオケ来ててよかった……」


 俺もつくづく変態だと思っていたが、やはりどうしたって姉我好先生には勝てないようだ。

 世の中、どんな事にも上には上がいるらしい。


「女性同士ならお風呂とか一緒に入ったりしないんですか?」

「入んないっすねぇ。うちのお姉ちゃん恥ずかしがり屋っすから」

「それってもうバレてるンじゃないですか?」

「……たぶん、バレてない、はず……うん……たぶん」

「バレてないといいですね」

「2年前にプレゼントしたクマさんは今も部屋に置いててくれてるし」

「そうなんですね」

「カメラ仕込むの大変だったんすよぉ」

「…………そうなんですね」


 おまわりさんこいつです。と咄嗟に言いそうになったがどうにかこらえた。

 さすがに俺もそこまではしてないぞ羨ましいなおい。


 ……羨ましいじゃないんだよなぁ……

 でも姉ちゃんが実は日記とか付けてて、クスッて笑ったりしてたら可愛いだろうなぁとは思う。


「四つん這いって、えっちですよね」

「……はい。最高でした」


 やばい、思い出したらまた鼻血出そうになった。


「ぶっちゃけ、四つん這いって股開くよりえろいと思うんですよねぇ」

「なにしみじみとそんなこと言ってるんですか……いやわかりますけども」

「お姉ちゃんの四つん這いを想像してみたんすよ。全裸で恥ずかしがりながら胸が重力に負けて垂れ下がってて、いやらしい腰つきにオ」

「それくらいにしときましょう姉我好先生。姉我好先生が軽々しく描写したら俺はもう鼻血止まらなくなりますよ。血の海になりますよここが」

「むむっ。そうでしたねポン酢さん。ポン酢さんは絶賛思春期真っ盛りの男子高校生でしたね。ついうっかり」


 この人が本気出したら俺は立てなくなるからマジでやめてほしい。


「で、その後は夜這いとかはしなかったんですか?」

「当たり前ですよねみたいな顔で聞くのやめてもらっていいですかね。してませんよ……」

「じゃあ1人でお姉さんの裸を思い出したがらシたんですか?」

「してませんよ……鼻血出過ぎて頭クラクラしてましたし」


 手を軽く握って上下に振るのやめてくださいよ姉我好先生……

 ほんとデリカシーないなこの人。

 仮にも女性なんだしさ……

 手つきがいやらしいんだよなぁ……


「そしたら超絶欲求不満じゃないですか!!」

「カラオケだからって大声出していいと思うなよ?!」

「そのためのカラオケですから」

「歌う場所なだけで、防音でもないですからね?」


 ……この人と街中とか絶対歩きたくない。

 痴女みたいなもんだしなぁ。

 姉我好先生と高校生の俺と2人の構図ってどう見えるのだろうか。

 ……場合によっては俺が姉我好先生に買われているようなものか……

 こ、こわい……想像したくない。

 姉我好先生に買われたら一体どんな目に合わされるのだろうか……まともな精神ではなくなっている事だけはたしかな気がする。


「っは!! そうか!!」

「どうしたんですか急に」

「お姉ちゃんの部屋の前からお菓子を一定間隔に置いていけば、必然的に四つん這いなお姉ちゃんが完成する!!」

「……はあ。そうですか」

「胸チラならワンチャンある説!!」

「いやねぇよ」


 なんだろう、この人に敬語使うの馬鹿馬鹿しくなってきて遠慮なくタメ口でツッコミを入れている事に罪悪感が全くない。

 気を使わなくてもいい気がする。うん。


「なんならもう胸チラなくてもいい。とりあえず四つん這い状態のお姉ちゃんが見たいっ!!」

「……極まってんなぁ……」

「うむ、えっちだ」

「…………そうですか」


 エロゲのシナリオライターやってる人ってみんなこうなのだろうか……

 もう1人の世界入っちゃってるしさ。

 それともシスコン拗らせた先には俺もこうなるのか?

 だとすれば俺はまだシスコン道を極めていないということだろうか……道のりは遠いのかもしれない。


「嗚呼……シスコン狂の女神様……そうなのですね」


 ……こわい。

 急に手を握り合わせて涙を流して感動してるんだけど、まともじゃない……

 一体どこ見てるんだよこの人……

 何が見えてて何と話してるんだよぉ……


「ポン酢さん、共にシスコン狂を歩んでいきましょうねっ!!」

「……あ……はい」


 姉我好先生、鼻息荒いですよ……

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