第30話 こんな朝があってもいい。
昨日はとても良かった。
寝る前には何度も姉ちゃんの姿を想像しては興奮していた。
しかしそんな夜も明けるわけで。
「おはよう姉ちゃん」
「お、おはよタク」
姉ちゃんはどこか気まづそうに挨拶を交わした。
そりゃそうだ。
裸を見られているのだから、そうなっても仕方ない。
たまにチラっとこちらを見てくる姉ちゃんを他所にテーブルについて朝ごはんを頂く。
「姉ちゃん」
「なに?」
「次は裸エプロンでお願いします」
「変態っ!!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向かれてしまった。
耳も赤くなっていて、それが単純に可愛い。
勢いよくそっぽ向いたので胸が揺れたものポイント高いですねええ。眼福です。
「さすがに冗談だよ」
「タクの冗談は全然冗談に聞こえないからね?」
「2割は冗談、8割願望」
「ほぼ願望じゃん!」
姉ちゃんの裸エプロンだぞ?
そりゃ見たいに決まってる。
エロ漫画なりエロゲーであれば「私だけ見られてるのは不公平」とか訳分からない理論を持ち出されて弟が脱がされて結局姉が反撃を受けておせっせコースなわけだが、姉ちゃんはそんな事を言わない。言ってはくれない。
やはり創作と現実は違う。
そこは大変残念である。
いやべつに自分の体に自信があるわけじゃないが、なし崩し的にそっちの方向になるかもじゃん? って下心とかもちろんあるわけで。
「た、体調とか大丈夫なの?」
「むしろいい」
「……そうですか」
「そりゃ元気になりますわな」
「もうその話終わりッ!!」
まあ実際貧血気味でまだ若干フラフラはしてるけど、精神的に超元気なわけですよええ。
てかむしろ元気にならない方がおかしいわけで。
「……」
「…………」
姉ちゃんが顔をまだ赤らめつつひたすらに朝食をもぐもぐ食べていく。
そんな恥ずかしがる姉ちゃんを微笑ましく見ながら食べる朝食。
やっぱ姉ちゃんって可愛いよなぁ。
たぶん姉ちゃんは恥ずかしくてとりあえず咀嚼してるだけで味とかわかんないんだろうなぁとか想像してより可愛い。
裸の姉ちゃんはとてもエロかったし美しかった。
ピンク色もそうだが、豊満な胸にくびれ、そして腰つきとか完璧なプロポーションと言える。
全く目を話せなかったからなぁ。
なんなら目に焼き付いてるもんな。
「……タク……」
「あ、はい」
「またえっちな妄想したでしょ?」
「してましたはいすみません」
「……忘れて」
「……ごめん」
「あのね……なんていうか、嫌だけど、嫌じゃないというか……恥ずかしいし、その……」
複雑そうな表情から情報量が多くて読み取れない。
けど、少なからず姉ちゃんを嫌な気持ちにさせてしまったことに対して申し訳ない事をしたと思った。
あまりにも露骨だった。
そんな目で見られていい気分はしないだろう。
「わたしもね、タクの事は好きだし、女として見てくれてるの自体は嬉しいよ? でもこう、ちょっとこわい」
「……うん。ごめん」
親しき仲にも礼儀あり、とは言うが、俺はいくらなんでも姉ちゃんに対して甘え過ぎていた。
姉ちゃんなら許してくれるだろうと。
礼儀とはべつだけど、これではただの発情した猿と変わらない。
そんな自分に嫌悪した。
「タク」
姉ちゃんは俺の隣に座って手を握ってきた。
小さくて細い手。
「わたしも、タクの事を傷付けたいわけじゃないよ。だから、嫌いになられたかもとか、そういうことじゃないよ」
「うん」
優しく包み込むように握る姉ちゃんの手のひらにはあたたかみがあった。
少なからず姉ちゃんだって嫌な気持ちになっただろうに、それでも俺なんかを気遣う姉ちゃん。
姉ちゃんのこういうところは狡い。
「その……わたしだって、ちょっと、そういう事とか、想像しちゃったし……」
それ詳しく、と聞きそうになったのをぐっと堪えた。
自己嫌悪に
「昨日の事は、わたしが油断してたから悪い。だからタクを責めるのはおかしいし、責めたりもしない」
「……」
「もちろん、タクも男の子だから……そうなっちゃうのも仕方ないし、あれだけど……」
姉ちゃんの手が熱いのが伝わってくる。
繊細な姉ちゃんの指先が少しくすぐったい。
「その、近いうちにちゃんとするから、だから……」
姉ちゃんがなにを言いたいのかわからなくて困惑しつつも、真剣な姉ちゃんの眼差しから目を逸らせなかった。
「だから……心の準備が出来るまで、待ってて下さい」
「わかった」
見つめあったまま、お互いに小さく微笑み合って、気恥しいくて。
それでも少しづつ近付く唇は意識してしまって。
俺も姉ちゃんもその唇の距離を縮めて触れ合った。
姉ちゃんから入れられた舌に驚きつつもその熱を拒否すること無く受け入れる自分の単純さに理性も簡単にとけた。
絡まる舌先と連動するように握られた手も艶めかしく愛撫するみたいにゆっくりと力を込めてくる姉ちゃん。
繋がりを求めているのは姉ちゃんも同じだった。
それでも名残惜しくも離れていく唇にはまだ感覚は残ったまま。
「わたしにも、性欲はあるんだよ……タク」
そう言った姉ちゃんの顔は女の顔をしていた。
その顔にそこはかとない衝動を感じつつも残った理性をかき集めて押え付けた。
「わたしだって、タクとそういう……えっちな事とか、シたいし……されたいし」
赤面しっぱなしの姉ちゃんがより一層可愛く見えて仕方がない。
どうしようもなく姉ちゃんを好きだとはっきり言える。
「だからっ……その、待ってて」
「うん」
さっきと同じ事を改めて姉ちゃんは言って、俺の言葉を聞いて安心したような笑みを浮かべた。
「じゃ、じゃあわたし、もうお仕事行かなきゃだからっ!!」
「うん。行ってらっしゃい姉ちゃん」
「行ってくるっ」
時間を見て慌て出した姉ちゃん。
それでも「行ってくる」と言って俺のほっぺに刹那のキスをした姉ちゃん。
さっきのキスと順番が違う気がしたが、嬉しいのでそこは気にしない。
いそいそと家を出ていく姉ちゃんを見送って、さっきのキスを頭の中で思い出していた。
「ああ……やっば姉ちゃん可愛い……」
俺はどうしようもないシスコンらしい。
何を今更と思いながら、それでも毎日実感するのは本当にもう、どうしようもないのだ。
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