第33話 男子に無理矢理メイクするのは犯罪だと思うんです。
キョウハ、マチニマッタ、ブンカサイ。
「長谷川くん、やっぱ女装似合うわね」
「ドーモ」
わざわざ一人一人に合わせた特注仕様なメイド服。
楽しそうにぷりぷりしている委員長。
無理矢理着せられている俺。
姉ちゃんの為なら喜んでピエロにでもなる俺だが、文化祭という、言葉だけ見れば堅苦しい行事でなぜコスプレなのだろうか。
いやまあ確かにコスプレは今や日本の文化と言っても過言ではない。
発祥とかは知らんけど。
アニメ文化というのが世界よりもより一層強い印象がある。
……そのくせ世のオタクたちは姉より妹が好きという需要ゆえに大抵の萌え系には妹属性の方が多い(偏見)。
おまいら、もっと姉を愛せ。
「早くこの罰ゲーム終わらないかな……」
「は、長谷川くん、写真撮っていい?」
「いいわけないだろ」
黒歴史をデジタルに残したくないんだよこっちは。
いくらバイト先で世話になっている店長の妹と言えどそれは嫌である。
まあ、委員長が姉だったなら許していたが。
他人の姉でもシスコン狂なら愛するに値するのだ。
「お願い! お姉ちゃんも見たいって言ってたから」
「店長も文化祭行くって言ってたし、どうせ見られるだろ」
俺の女装メイド姿を撮影していいのは姉ちゃんだけだ。
「……そっか……」
「ほれ、あいつとかどうだ? 須川のメイド服姿撮ってこいよ。喜ぶぞ」
向こうでおちゃらけている田中太郎、もとい須川。
今の時代にまだ加藤ちゃんの「あんたも好きねぇ〜」をやってるあいつは何歳なんだよ。
いや俺はドリフは好きだから知ってるけどもさ。
しかもあいつのスカート短いなぁ。
「……楽しそうだから、須川くんは大丈夫かな」
委員長、その顔はダメだ。
顔に「うわぁ……なにやってんだこの人」感出てるぞ。
男子高校生なんて大抵あんなもんだ。アホなのだ。
許せ委員長。アホやれるのは今のうちなんだから。
「ほんとは長谷川くんには調理側に回ってもらいたかったんだけどね」
「俺もそっちの方がよかったけどな」
誰が好き好んでメイド服なんかを着なきゃならないんだよ。
メイド服はメイドさんが着るから意味があるのである。
メイド服コスプレはなんちゃって感が許せない。
姉ちゃんなら全然いいが、それ以外はダメだ。
なんなら姉ちゃんなら俺の残念すぎるメイド服姿を待ち受けにしててもいいまである。そうして何年経っても笑われて恥ずかしがるまでがセット。
「長谷川っち」
「……なに?」
誰? このギャル?
まだなにかあるのか?
いきなり絡んできたけどなんなんだ?
ギャルがむず痒そうにしながら両手の指先を奇妙に動かしている……なんか怖い。
「長谷川っち! メイクさせて!!」
「嫌です」
「瑠川ちゃん、やっぱそうだよね!! メイクとかもさせたいよね!!」
「委員長、乗るなよ」
瑠川と呼ばれたギャル。
派手な金髪ロングに着崩された制服。
俺がまず関わらないやつ。
今気づいたが、瑠川の口元にはホクロがあるんだな。クラスで目立つ奴なはずなのになぜ俺は今まで気付かなかったんだ……
口元のホクロと言えば姉物語のヒロインにしてお姉ちゃんの秋本しゅんじゃないか……
てか俺はあれだな、ほんとにクラスの奴らに興味なかったんだな。
……そういえば、クラスメイトと関わった記憶ってあんまり覚えてないな。どうやって過ごしてたんだよ。てかどうやったら記憶なく過ごせてたんだよ……
「ウチの美的センサーが言ってるんよ!! 長谷川っちにメイクしたら化けるって!!」
「……よだれ垂らしながらにじり寄ってくるの止めてくださいこわいです……」
スクールカースト上位者の特権、領域侵犯。
カースト弱者の領域に乗り込み破壊し侵略して意のままに空気を操る。
更に周りを巻き込み
「いんちょ、長谷川っち抑えてて」
「お、おいやめろ……」
「ふふふっ。長谷川くん、逃がさないよ?」
いつの間にか俺の背後にいた委員長が俺を羽交い締めにして逃げられないようにされてしまった。
本気で逃げる事はできる。
だが流石にに力ずくだと委員長が怪我をする可能性がある。
店長の顔がチラつく分、どうしても抵抗力を削がれる。だがわりと本気でメイクは嫌だ。
漢としての大事な何かが失われてしまう気がする……
昨今のイケメン勝ち組男性はメイクをしたりもすると聞くが、俺としてはどうでもいいのだそんなこと。
おい須川、見てないで助けろよ!!
なにが「……羨ましい……委員長の胸が……」だよふざけんな!!
姉ちゃんの胸じゃなきゃ意味が無いんだよ俺には!!
「長谷川っち、可愛くしたげる」
「……結構です」
「結構ですって事はおっけーってことだよね?」
「ちげぇよ」
確かに「結構です」って本来は肯定するような言い回しだとかは聞いたけど、こいつが知ってるわけない。
あれか? 「はい」しか結局選べないやつか?
「ち、近付くな……」
「だいじょぶだいじょぶ♪ 痛くしないから♪」
悪魔はそう言っていやらしく笑った。
そこからしばらく、俺の記憶は無い。
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