第27話 青春とかいう毒物。

「長谷川くーん、ちょっと料理で聞きたい事があるんだけど」

「ん、ああ」


 バイトに文化祭の準備で忙しい。

 店長に頼んでシフトを減らしてまでこうして放課後わざわざ残って文化祭の準備をするはめになっている。


「長谷川って料理得意とか意外すぎウケる」

「バイトで慣れてるだけだ」


 委員長に連れられてメニューの調理法について聞かれ、クラスのギャルに笑われているのは納得いかん。てかこのギャルの名前も俺は知らない。

 ……あんまりにも興味無さすぎじゃないかとは思うが、姉ちゃんじゃないなら正直どうでもいい。


「私にも料理とか、教えてほしいな。長谷川くん」

「委員長は料理よりメイド服だろ? 遊んでる暇ないだろ」


 他人に教えてる暇は俺にもない。

 それに、べつに俺は料理が姉ちゃんほど得意なわけではない。

 姉ちゃんの為におつまみとか作るのは好きだし、晩御飯も当番制だから食べられる物は作れるってくらいなだけで。


「用が済んだらなら俺は作業戻るぞ。作るもんが多くて忙しいし」

「あっ……うん」


 こっちはバイトで抜けがちだから白い目で見られる事もある。

 なので準備ができる日くらいはやっとかないと後々面倒だ。


 率先して準備してる奴らは青春よろしく男女仲睦まじく仕事してるのに、そのくせバイトやらで抜けるとサボってるとか言い出す。

 こっちは労働してるんだぞ?しかもほとんどを生活の足しにしてるわけで。


 親元でぬくぬく育てられてるほど余裕なんてないんだよこっちは。

 まあ、そもそも俺はクラスメイトに仲のいいやつとかいないし、どうでもいいけどな。

 ……まあそれで椎名が引っ付いてくるわけだが。


「おい長谷川ー。委員長とイチャついてないでこっち手伝えよ」

「イチャついてない」


 誰だお前。そもそも。

 委員長のせいでサボってる認定されたよ速攻で。


「長谷川は手先器用だから期待してるんだぜ?」

「べつに器用じゃない。普通だ」

「いやいやオレが作ったのとか見てみ? ぐちゃぐちゃだぜ?」

「……それはもう少し真面目にやった方がいいぞ」

「これで大真面目にやってんだって!!」


 まじかこいつ……こんな踏み潰されたみたいな花の折り紙を真面目に作ったというのか。

 それなら仕方がないか。不器用なやつも世の中いるもんだ。名前も器用さも知らなかった田中太郎くん。


「……でよ、実際どうなん?」

「なにが?」


 飾りを作っている中で小さな声でニヤニヤしながら中身の分からない質問をしてきた田中太郎。

 名札とか付けててくれると助かるんだけどな……


「なにって、そりゃ幼馴染と委員長、どっちだって話だよ〜」


 ニヤニヤしながら肘で小突くなよ気持ち悪いな。

 なんてゲスい顔してるんだよ。

 てか俺はいつからお前と恋バナなんてする仲になったんだよ……


「椎名なら言いたい事はわからなくはないが、委員長とはべつに普通だろ。ただのクラスメイトだ。さっきだって調理班のフォロー頼まれただけだしな」

「わかってねぇなぁ!! 違うだろそこはさぁ!!」

「…………なにが?」


 田中太郎は「あちゃー」とか嘆きながら教室の天井を仰いだ。

 ……こいつ、人生楽しそうだな。


「なにが? じゃねぇよどう見たって長谷川の事好きじゃん?!」

「なんで? べつに仲良いわけでもないし、そんなに喋ったりもしてないぞ?」


 や、やべぇ……名前も知らないとか言えねぇ。


「絶対そうだって! おいおいどうすんだよ色男ぉ〜」

「……あんまり興味無いしなぁ」

「今俺らの中で掛けてんだぜ? 学園1の美少女・七島椎名か委員長の幸村初芽ゆきむら はじめかってな」


 委員長、そんな名前だったのか。知らなかったな。

 いや正確には覚えてなかったわけだが。

 まあ、3秒先まで覚えている自信はないけども。


「で? ちなみにお前はどっちに賭けてるんだ?」

「俺は二股。大穴狙い」

「……そうか」


 憎めない顔してどうしようないとこに賭けてるとか救いようがないなこいつ。


「もう名前をカイジって名前に改名したらいいんじゃないか?」

「俺の人生一気に波乱万丈はらんばんじょうになっちまうだろ。須川良人すがわ よしとのまんまでいいんだよ俺は」


 こいつ、田中太郎じゃなかったんだな。

 まあどうでもいいか。

 脳内リソースを姉ちゃんの笑顔フォルダでほとんど使ってるからな。覚える必要はなさそうだ。


「……でもさ、実際委員長、胸はデカいし顔もいいじゃん? どうなんだよ〜」

「興味無い」

「バッサリじゃんか!」


 こいつはたぶんあれだな。

 俺が二股するに賭けてるから是が非でもくっつかせようとしてるんだろうな。

 大穴なんて狙うからそんなことになるんだよ残念な奴だ。


「なぁ頼むぜ……長谷川だって男だろ? 両手に花じゃんか〜。な?」

「な? じゃねぇよ何気軽に二股進めてんだよ」


 賭け事はやはり人をダメにするのだな。

 もしくはダメな奴が賭け事をするのかだが。

 まあどちらにしても健全ではないだろう。


「てかそもそもお前らの勘違いだろ。同じクラスなだけで、今までそんなに接点なかったんだし、そうなる理由がわからん」

「いやいや、前から噂はあったから」

「そうなのか」

「七島さんがいっつも長谷川の傍にいたからアレだったが」


 ……たしかに今は椎名も椎名で自分とこのクラスの出し物の準備で忙しいから俺のことに来る頻度は減ってるけども。

 だが俺の疑問のなぜ俺の事を好きなのかについては解決してない。


 そもそもなんで俺なんだよって話だしな。

 現状、天地がひっくり返っても委員長とは無いな。

 姉ちゃんの事考えるだけで十分満ち足りているのだこちらは。

 なので考えるだけ無駄だろう。


「自分の財布の心配するのはいいけど、手が止まってるぞ」

「仕事みたいで嫌だなぁ」

「ならより一層馬車馬の如く働け。そっちの稼ぎ方の方が健在だぞ」

「働きたくねぇ〜楽して稼ぎてぇ〜」

「お前やっぱ名前改名しろ」


 そっちの方が覚えやすそうだ。

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