第25話 幼馴染が泊まりに来た③~大我慢大会~
「なぁ……」
「ん? なによ?」
「なんで3人で寝てるんだよ?」
「椎名ちゃんがそうしたいって」
「俺は姉ちゃんとふたりで寝たい」
「シスコンめ」
「ド直球過ぎるっ!!」
トランプを終えて眠る準備を整えて今、なぜか俺の部屋に3人で川の字になっている。
わざわざ布団を持ってきてテーブルを
意味わからんし、姉ちゃんも居るしで眠れる気はしない。
「拓斗が桃姉を襲わないようにする為にはこれが一番なのよ」
「いやいやそれなら姉ちゃんとふたりで椎名が寝てればいいだろ?」
てか去年までは普通に姉ちゃんの部屋で椎名は寝てたんだし、例年通りそれでいいんじゃないのか?
「まあまあいいじゃんタク。3人仲良くさ」
「小学生じゃないんだぞ姉ちゃん?」
「拓斗、うるさいわよー」
「……なんで俺が悪いみたいになってんだよ……」
あれか、なんかの試練か?
こんなの普通は我慢できなくて手を出すシチュエーションだろ? 夜這いってやつだ。
しかも姉ちゃんに手を出してて幼馴染にバレないようにするパターンのやつだ。
大きい声を出したら起きてバレるからお互い声を殺してヤるやつだ。
……最近、なんかエロマンガとエロゲーに思考を侵喰されている気がする。
逮捕されないようにしないとな。
ドミネーターとか向けられたらヤバいんだろうなぁ……
「……」
椎名の考えていることがよくわからない。
姉ちゃんの考えてることもわからん。
どうしてこうなるのか。
カーテンの隙間からわずかに月明かりが部屋をうっすらと照らしている。
その暗がりから聞こえる姉ちゃんと椎名の呼吸。
なんとなく姉ちゃんたちの方を向けなくて、2人に背を向けるようにして窓を見た。
なんなんだ今日は。
性的欲求を我慢する修行かなにかなのか?
だとしたら鬼畜過ぎる。
なんで姉ちゃんも姉ちゃんで普通に眠れてるんだよ……
弟である俺に襲われる可能性だってあるんだぞ?
いやまあ同じ家にそもそも住んでるんだし今更感はあるかもだが、同じ部屋はまた話が違ってくるわけで……
「ねぇ拓斗」
「なんだ?」
「そっち、行っていい?」
「いやなんでだよ」
姉ちゃんの呼吸が安定してきた中での椎名の申し出。
それを当然許可できるわけもない。
なにせ俺はシスコンなのだから。
「だめ?」
「よくはないよな」
「いいじゃん」
珍しく年相応に拗ねているように見える椎名。
怒るわけでもない。
大人しいのは隣に姉ちゃんがいるからだろうか?
「べつに、拓斗はあたしが隣で寝ててもなにもしないでしょ?」
「……たぶんな」
「……たぶん、なんだ……へぇ」
暗がりでもわかる椎名のしたり顔を若干イラつきつつも、その可能性があるのを隠しきれない。
思えばさっきからなんだかんだ悶々としてしまったまま今に至る。
「ちょっ……おいっ?!……」
姉ちゃんが寝ている為、大きな声を出せない。
そんな中、椎名は俺にまたがって垂れた髪を耳に掛けながら見つめてきた。
雌の顔をした椎名。
じっとりとしつつもどこか甘い視線はどうしても釘付けにした。
「桃姉とは、キス……したんでしょ?」
「……ああ」
「じゃあ、キスだけ。だめ?」
椎名のその申し出に、俺は思わず目を逸らした。
そして同時に俺が姉ちゃんにしたように、姉ちゃんの葛藤を想像した。
キスは気持ちがいい。それは知っている。
それはたぶん、椎名としても似たような感覚にはなるのだろう。
姉我好先生の言っていた事も脳裏を掠めていく。
「……キスだけだ。それ以上は」
「それだけも、今はいいよ」
再び椎名の目から離せなくなった。
仰向けの俺に覆い被さるように椎名は顔を近付ける。
吐息のかかる距離は椎名の緊張を感じ取れて、それがまた自分への緊張になっていく。
俺の両耳を掠めるように置かれた椎名の手が逃げ場をなくしていく。
鼻先をくすぐるように椎名の唇と重なった。
触れるだけのキスでも、もう戻れないのだとわかった。
どうしたってもう、俺にとって「ただの幼馴染」ではなくなってしまう。
ここから先、なにかを間違えればもう幼馴染のままでは居られない。
それはどこか怖いと感じた。
姉ちゃんとは、どうしたって姉と弟だ。戸籍がそれを証明してくれる。データが、情報が、遺伝子が証明してくれる。
けれど、椎名との繋がりは記憶と思い出だ。
国は椎名との繋がりを「幼馴染」なんて枠で証明なんてしてくれない。
「あたしの初めてのキス」
椎名はそう言って涙を流した。
嬉しいのか、それとも苦しいのか。
あるいは両方か。
椎名からのキスの重みを感じた。
嫌に思ったわけではない。
でも、それを背負えるのかと不安には思った。
たぶんどうしたって姉ちゃんを優先してしまうだろうから。
「いいよ……1番じゃなくても」
「っ……。ごめん」
「わかってるから」
「顔に書いてあったか?」
「うん。幼馴染だから、わかるわよ」
そう言って椎名はまた唇を重ねてきた。
求めるように舌を入れてくる椎名を、俺は抵抗もなく受け入れた。
椎名の涙が何度も俺の頬を濡らした。
甘えるように少しずつ椎名が身体を預けてくる。
控えめな胸も押し付けられるようにして肉感と鼓動が服越しに伝わってきた。
「んんっ」
切なそうに縋り付く椎名の下半身がどうしようもなく身体を奮わせて否応なく反応してしまう。
椎名もそれをわかってて、それでも絡ませる舌を離してはくれない。
溶けていく理性は心地よくて、自分がどうしようもないほどに、嫌気が差すほどに男なのだと感じさせられる。
「……はぁ……はぁ……はぁ……」
お互いに息を切らして離れた唇からは糸を引いた。
その糸が俺の口元に垂れてきて、でもそんなことはどうでもよかった。
目を逸らすことなく真っ直ぐ椎名を見つめたままでいた。
「……あたしは、いつでもいいけど」
その言葉の意味が一瞬わからなかった。
でも、そういう意味だとわかった。
椎名の表情はどこか諦めているような表情で、でも期待はしてるみたいな、そんな矛盾した声でもあって。
「決めてるんだ」
「……うん、知ってる」
「ごめん」
「いいよ。わかってるから」
今、この一線を超えるわけにはいかない。
自分でもどうしてそこまで拘っているのかわからなくなっているくらいには理性は溶けている。のに、「決めている」という言葉だけで椎名に伝わっているのは椎名が幼馴染だからだ。
「こんだけ反応してるのに、意固地だよね」
「……ああ、全くだ」
お互いに小さく笑った。
幼馴染という関係性もまたやはり歪なものだと思った。
「じゃあ、おやすみ」
「……おやすみ」
そうして椎名は自分の布団に戻っていった。
さっきまでのお互いの熱を忘れてるわけじゃない。
冷めない感覚に苛まれながら、でももうお互いに動けない。
俺は鎮まるようにひたすら目を閉じた。
でもその後眠れるようになるまではひたすら長かった。
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