第24話 幼馴染が泊まりに来た②~腕立て伏せってえろいよね~

「絶対拓斗には負けない」

「ババ抜きってもう少し人数居てこそ面白いと思うんだが」

「椎名ちゃん、負けず嫌いだからね……」


 姉ちゃんたちが風呂から出て、俺もささっと風呂に入ってゲームを開始した。

 だが椎名はゲームが弱い。あまりにも弱い。

 その為俺は椎名をボコボコにしつつ姉ちゃんに接待プレイをするというプレイスタイルで挑んでいた。

 そしたら椎名がコントローラーを破壊しようとしたのでトランプになった。


 椎名は頭も良いし運動もできるのに、ゲームは弱い。なのに負けず嫌いだからもう怖いのなんの。

 ちなみに姉ちゃんはすでにババ抜きで1抜けしてるので俺と椎名のタイマンである。

 ものすごい睨んでくる。威嚇してくる犬みたいで怖い。


「椎名、ひとつ賭けをしないか?」

「なによ?」

「もし椎名が勝ったら椎名の言うことをなんでもひとつ聞こう」

「いいわよ。で? 拓斗が勝ったら?」

「ん? ……そうだな。じゃあ腕立て伏せ50回とか?」

「お風呂入ったばっかなのに汗かくじゃない?!」

「椎名、負ける前提なのか。それは仕方ないな」

「絶対負けないし? あたしに負けてどんなお願いされるか恐怖してなさいよね!!」


 たまに椎名が心配になる。

 椎名が女戦士なら「くっ……殺せ!!」な展開とか簡単なのではと思うことがある。

 勉強はできてもプライドとかそういうのが色々邪魔をしているのだろう。可哀想に。


 お互い手持ちのカードは残り数枚。

 椎名は顔にすぐ出るので当たりを引くのは容易であるが、表向きには拮抗きっこうしているように見せる必要がある。じゃないと椎名がうるさい。


「俺は残り3枚だなぁ」

「タク……めちゃくちゃ煽るね……」

「あたしだって!」


 ニコニコしながら見守る姉ちゃん。

 鬼の形相で俺の持っているカードを睨む椎名。


 睨むのはいいんだけどさ、さっきから椎名の胸にちょっと目がいくのが困るんだよな。

 キャミソールにショートパンツだから肌面積多いし、噂のBカップさんが前かがみになるたびにちょっと見えそうになってて困るのだ。


 胸が見えそうな前かがみや谷間というのはある種のロマンでありミニスカートのパンチラ寸前の高揚感と同種のものである。

 チラリズムとも言えるだろうか。

 見えそうで見えないというのがとても良いのだと思う。


 というか見えないからこそいいのである。

 男のロマンとは常に未知なる先へ進もうとする冒険心に他ならない。


 この先に一体何が待っているのか。

 この先に進めたなら、どんな景色が待っているのか。


 それを追い求めるように男は出来ていると俺は思っている。

 そしてそれは例え控えめな椎名の胸と言えど感じるものはある。

 ただの幼馴染の先を見たいと思うのは、そうでもないと見たいとは思わないだろう。

 つまりは女性の胸には夢と男のロマンが詰まっているわけだ。


 ……要するに、世の女の子は不用意に前かがみになるのはやめてくださいということである。

 男はどうしたってついつい見ちゃうからね?


「あとワンペアで俺の勝ちだな」

「ま、まだよ! まだ終わってないわ!!」

「主人公みたいなカッコイイ事言うじゃないか椎名」

「ここから椎名ちゃんの逆転とかあったら熱いね」

「だが姉ちゃん、それはないぞ」

「絶対あたしのお願い聞いてもらうんだから……」

「怖い。椎名の執念が怖い」


 姉ちゃんがこの部屋に居る以上、俺は負けることはない。

 俺は姉ちゃん以外には容赦しないからだ。

 それがシスコン道というものである。たぶん。


 まあそもそもお願いを聞いてやるというのも単に椎名を焚き付けて遊んでいただけのことであり、椎名に負けるはずがないからそんな事を言っただけである。


 人は欲を前にすると目が曇る。

 人間というのは実に浅はかな生き物である。


「う〜んババ引いちゃったか〜」

「ふふん。そのまま拓斗はあたしに負けるのよ」

「それはどうかな?」


 ちょろい椎名は顔に出るからババかどうかはすぐにわかる。

 今はあえて引いておいたのだ。

 なぜなら椎名がババを引いた顔が見たいからである。


「ッ!! ……ぐっすん……」

「し、椎名ちゃん、頑張って」


 ババを引いて泣きそうになっている椎名に思わず姉ちゃんが声援を送った。

 そんな優しい姉ちゃんが好きですはい。


「これで終わりだ、椎名」


 そんな涙目な椎名の手札から容赦なくカードを引き抜き、俺は椎名に勝った。我ながら鬼畜なのではと思ったが、勝負とはそういうものである。


 俺が椎名の事を好きだったならば、花を持たせてやる事もあっただろう。

 だがしかし、椎名は幼馴染なのである。

 負ける訳にはいかない。


「……すん……」


 半泣き状態の椎名。

 普段は椎名の泣き顔なんて見たくはないが、負けて悔しくて泣く分には可愛げがある。


「では腕立て伏せをやってもらおうか」

「タ、タク。せめて25回とかにしない?」

「姉ちゃんがそう言うならそれでもいい」


 我らが女神、姉ちゃんの慈悲に感謝するといい椎名。

 姉ちゃんの慈愛に歓喜の涙を流しながら腕立て伏せをやるのだフハハハッ。


「や、やればいいんでしょ?! わかったわよ!」

「うむ」


 悔しそうにしつつもうつ伏せになって腕立て伏せを始める椎名。

 椎名のお願いがどんなものかは知らないが、こっちは健全な罰ゲームであり、なんならただの筋トレである。

 俺はド変態だが鬼畜な罰ゲームはさせないのだ。

 これがエロゲーなら「自慰行為しろ」とかいうシチュエーションをぶっ込んでいるところである。


 俺って実は紳士なのでは?


「せっかくなら3の倍数の時にアホな顔とかも追加すればよかったかな」

「……タク、鬼畜すぎ。そしてなんでそれ知ってるの……」

「ムカつくぅぅ……」


 目じりに涙を浮かべて腕立て伏せを続ける椎名。

 不意に椎名の胸が見えそうになっている状態を作り出している事に気付いて俺は目を逸らした。

 考えてみれば、腕立て伏せなんて前かがみもいいとこである。見えそうどころの話ではない。


 ……俺はどうやら紳士ではなかったようだ。


「……くぅぅッ……んんっ……」


 苦しそうにしつつも懸命に腕立て伏せをしている椎名。

 ただそれだけなのになぜこうもえろい声を出すのか?


 なんか、このままでは色々といけない気がする。

 段々と椎名の呻き声があえいでいるように聞こえてきた。

 ……思春期も末期になると列記とした病気らしい。


「椎名、あと10回残ってるが、コントローラー壊そうとしてごめんなさいって言うなら許してやるぞ」

「タクが優しい」

「まあな」


 いや単純にえろい気分になりそうだったので自重しただけなんですお姉様……

 こんなどうしようもない弟でごめんなさい。


「コントローラー壊そうして、ごめんなさいッ!」

「よし。許してやる」


 ぐへっと床に力なく倒れる椎名。

 なるほどこれが「わからせ」というものか。いや多分違うけど。


 けどあれだな、ヘトヘトになってる椎名はなんかえろいな。

 あれ? 段々と俺は椎名を女の子として見ている気がする。……病気かな? 病気ですねこれは。お薬出しときますね。あ、はい。


 かくして俺らのゲーム大会は幕を閉じた。

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