第23話 幼馴染が泊まりに来た①

「そろそろ文化祭ね〜。桃姉は来れる?」

「有給取って行く予定だよ」

「拓斗のとこ、女装メイド喫茶するみたいよ?」

「それは楽しみだなぁ」

「姉ちゃん、残念ながら俺は文化祭サボるからそれは無理だな」

「大丈夫よ桃姉。あたしが拓斗引きずってくから」

「よろしく椎名ちゃん」


 本日は我が家に椎名が泊まる日である。

 この時期になると椎名の両親は2人だけで旅行に行くのである。

 結婚記念日であり、2人だけで楽しんできてほしいという椎名の意向もあり毎年恒例となっている。


 そして幼馴染の俺と姉ちゃんの家に泊まるわけだ。

 年頃を娘を流石に自宅に1人は物騒だということなわけだが、同じく年頃の男である俺がいるのにそれはいいのだろうかと毎年疑問に思うのだが、七島夫妻はなんとも思っていないらしい。


「ご馳走様でした」


 椎名が泊まりに来るといつも姉ちゃんと椎名は2人仲良く一緒にいる。

 本当の姉妹みたいに。


 なので俺は早々に晩御飯を食べ終えて部屋に籠る。

 女のそのに男の居場所はないのである。


「拓斗、今日はゲームするから部屋に籠らないでよね?」

「いつも2人は長風呂してるだろ? その後なんて流石に寝てるぞ俺」

「タク、一緒にやろ?」

「やりますお姉様」

「かわりみ早すぎ……」


 そりゃ姉ちゃんに可愛くおねだりされたら簡単に頷くに決まってるだろ何言ってんだ椎名は。

 シスコンってのはそんだけで色んなことができる力を持ってるんだよ。


「じゃあ、そういうことだから起きててよね」

「寝てたら起こしてくれていい。姉ちゃんが」

「その倒置法は悪意があるわよ拓斗?」

「悪意なんてないぞ。要望を言っただけで」

「うちのタクがごめんね椎名ちゃん」

「全くよ。桃姉、お風呂行こ」

「うん」

「拓斗、覗かないでよね?」

「安心しろ、覗いても姉ちゃんしか見ないから」

「それはそれでどうかと思うよタク?!」

「シスコンめ」


 まあ、覗かないんだけどな。

 姉とのふたり暮らしにおいて、俺が頑なに守ってきたことである。

 常に湧く性欲と向き合い続け、俺は屈強な理性を獲得しているのである。


 ……いや正直毎日誘惑されてるようなもんなんだってマジで。

 お風呂上がりの姉ちゃんとかヤバいから。

 湯気と一緒にアルファ波と色気がね、すごいのよ姉ちゃん。

 首筋とかから絶対フェロモンとか出てるってマジで。


「とりあえず部屋に戻っ……」


 部屋に戻ろうとしたのだ。だが、つい耳に入ってくる会話に思わず立ち止まってしまった。


「桃姉、去年よりまた大きくなってない?」

「えーっとぉ……はい、そうです」

「なんでよ?! ちょっとくらいあたしに頂戴?!」

「でも椎名ちゃんも去年より大きくなってない?」

「……多少はそうだけど」

「Bはあるでしょ?」

「う、うん。でも拓斗がちっぱいちっぱいって」

「こうやって寄せると……」


 おい嘘だろ……椎名の胸ってBカップなのか?!

 AAカップなのかと思ってた……

 いやだって椎名の胸ってそんな対して……

 アニメとかマンガのサイズと違くね?

 いや「DT乙www」とかやめてクレメンス。


 まあでもBでも貧乳には違いない、だろうか

 だが、俺の中ではBはちっぱいではない。

 そういう定義が自分の中にはある。

 だからもう椎名をからかうことが出来ない……

 これは大問題である。


「Bって……後ろからなら揉めるのではないだろうか……」


 そんなことを考えながら部屋へと戻る男子高校生はいかにも思春期だなぁと客観的に思いつつBカップについてふける。


 男はどうして胸に目がいくのか。

 何故女性の胸に夢を抱くのか。

 男の本能と言ってもいいだろう。


 そもそもは揺れる物や点滅する物に対して反応するように出来ているという。

 文明というものもまだ無いような時代、狩猟を主にしていたような時代では木々が揺れれば獣や敵が物陰や茂みに潜んでいるかもしれないと警戒する。


 暗がりで月明かりだけの中、わずかな光が反射する瞳が瞬きをすればその光は点滅しているかのように見える。

 そう言った警戒心は昔から備わっているのだろう。


 だが女性の胸やピアスはどうだろうか?

 女性の胸が揺れたとしても恐怖を抱くことはおそらく難しい。

 耳元で煌めくピアスに静かな殺気など微塵も感じない。


 となると女性のそう言った胸やピアス、ファッションは男が思わず目にするものを本能的に理解して身に付けているものである可能性は大いにある。


「よし、とりあえずFPSでもしとくか」


 性について考えたところで悶々とした道が続いているだけである。


「……」


 寝てても起こしてくれるとはいえ、ガチ寝してしまう可能性もある。

 姉ちゃんにほっぺつんつんされながら起こされるなら大歓迎だが、椎名に蹴られる可能性の方が高い。


「…………」


 しかしこのアバターの胸はどのくらいのサイズ設定なのだろうか?

 FPSゲームはリアルよりなキャラが多い。

 日本アニメなどのオタクコンテンツにおける女性キャラの胸は相当盛られているということになる訳だが、そうなると日本のオタク男性たちはどんどん胸に対して目が肥えていくのではないだろうか?


 女性の胸には夢が詰まってるとかいうが、その詰まっている夢の先が創作や2次元になっている現実というのは日本の未来が心配にもなるものだ。


 ちなみに俺はお姉ちゃんなら胸の大小はあまり関係がない性癖なので問題はない。

 豊満ならそれはそれで良き。小さければ恥ずかしがっているお姉ちゃんを愛でるのみ。

 大事なのはお姉ちゃんであると言うことのみであるわけで……


「って集中できないっ!」


 敵の女性アバターの胸を執拗にスコープて狙ってるとかFPSの趣旨と違うじゃねぇか!!

 ド変態だな俺!! ……いやまあそうだけどさ。

 悶々とするじゃん。どうしたってさ。


「FPSはある意味無心でできるからいいのに」

「拓斗!! さぁゲームよ!!」

「勢いよくドア開けるなよ壊れるだろ?」

「コソコソなんかしてるかもしれないから驚かそうと思って」

「思春期男子に対して鬼畜な事しないで下さいお願いします」


 エロマンガなら勢いで押し倒してそんな展開に持って行って誤魔化すところだぞ?

 よくあるよねそういう展開のやつ。


「そういうの、結構気を使うよね。うんうん」


 あの、お姉様、頷くのやめてください死んでしまいます……

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