第13話 姉物語の原作者はやばい奴。

 姉物語。

 一部ファンから圧倒的支持を得ている人気エロゲである。

 俺が1番好きな姉ものエロゲであり、この作品のシナリオを担当の人のSNSは唯一フォローしているほどである。


 もちろん姉ものエロゲの神作はいくつかある。

 だが、姉ものエロゲにおいて姉物語は最も俺の性癖に刺さる。

 妙な艶めかしさやリアリティを感じるのだ。


 そしてそんなシナリオライターの人からのまさかのDMが俺のアカウントに来ていた。


 姉我好妹子あねがすき いもこ

「突然のDM失礼致します」


 姉我好妹子。

 もう名前からして姉ものエロゲに人生捧げてそうなペンネームから溢れ出すシスコンっぷり。

 いつもフォローしているアカウントからのDMである為、正直驚いている。


 姉我好妹子

「実はお陰様で姉物語が5周年を迎えることになりまして、ファンの方からお話をお聴きしたいと思いご連絡させて頂きました」


 確かに姉物語は今年で5周年を迎える。

 僕のような熱狂的なファンも多く、次回作を期待されている作品でもあるし俺もその1人だ。


 今起こっている事をまとめると、原作者がファンに話を聴きたい。そういうことである。まあそうだ。そういうDMだ。う、うん。


 だが、少し考えてみれば普通はおかしな話である。

 ネットでわざわざ個人的にDMをしてくるというのは。

 アカウント乗っ取りだったりするのだろうか?


 ポン酢

「ご連絡ありがとうございます。まさか姉我好先生からDMを頂けるとは思ってもいなく驚いています」


 とりあえず当たり障りのない事を言っておこう……

 俺自身、わりと今テンパっている。

 俺からしたらある意味神から連絡が来ているわけである。童謡だってする。

 ちなみに姉ちゃんは天使。だけど神より上。

 姉は全てを超越するのだ。


 ポン酢

「お話のご要件は理解しましたが、なぜ僕なのでしょうか?」


 もちろん俺は姉物語の熱烈なファンである自信がある。

 コンプ率100%であり、バッドエンドすら味わう鬼畜のシスコンである。


 姉我好妹子

「本来、このような事をファンの方に、というのもあまり宜しくはないことは承知しております。ですがポン酢様のフェチズムが姉物語のシナリオライターとして非常に刺さると言いますか、普段の呟きがあまりにも「本物」だったものですから親近感、とでも言いましょうか……」


 いやまあ確かにこの「ポン酢」というアカウントは趣味垢であり、本名を使ったアカウントでは決して言えないようなマニアックな感想を呟いていたりはする。

 このアカウントはあくまでもシスコンとしてのガス抜きみたいなもので、シスコン過ぎて頭がおかしくならないように煩悩を垂れ流しているアカウントでもある。

 エロ垢や裏垢とも違う煩悩アカウントなわけである。


 姉我好妹子

「ポン酢様のツイートはいつも溢れ出す「姉」への欲求をまるで体現したかのようなエロスを感じます。とくにバッドエンドすら嬉嬉としてツイートしていてゾクリとくる感想をされていました。おそらく私が書いたシナリオを最も深く理解して楽しんで頂けていると思い、正直いつもポン酢様の感想を楽しんでいました。

 バッドエンドで姉を犯して罪悪感と背徳感にさいなまれつつも壊れつつ姉を犯して楽しむプレイヤーのド変態性をツイートから楽しんでいるのです。

 実の姉がいる分、それは決してやってはいけない。フィクションに縋ってしか楽しめない人間の罪。そう言った己の黒く禍々まがまがしい変態性に私は心惹かれたのです。

 私自身、実の姉がいる妹なのですが、どうして私には竿と玉が無いのだろうかといつも悲しんでいる身としては、ポン酢様の煩悩や変態性をより深く理解してさらなる物語を書きたいという欲求もありetc」


 ……長いわこのDM。

 そして変態変態言いやがってそんなに褒めるんじゃねぇ恥ずかしいだろうが。


 ま、まあとりあえずわかった。

 やっぱり姉我好妹子先生は俺と同じ、同じ穴のムジナというやつなのだろう。

 それ故にシンパシーを感じてわざわざいちファンにDMを送ってきたのだろう。


 詐欺などの可能性もなくはないのだが、姉我好先生のド変態性は本物であり、姉我好先生の頭の中が真っピンクな事はわかった。


 姉我好妹子

「長々とした文面ですみません。

 個人的には1度会ってお話をしてみたいと思ったので、このようなご連絡をさせて頂いた所存です。

 てか、姉に対する変態性を語り合える仲間が欲しくて死にそうです助けクレメンス」


 最後の文面に思わず吹いてしまったが、そのあまりにも切実な気持ちはよくわかる。

 世の中色々な性癖やフェチズムを持っている人はいるが、姉が好きというのはやはりどうしたってマニアックな部類と言っていい。


 本来生命は近親での性行を好まない。これはある種DNAに刻まれていることであり、それは奇形児や発達障害などのリスクを遠ざけるための安全システムである。


 だが世の中、そう言った倫理感が狂った俺たちのような変態もいる。

 俺は少なくとも俺がおかしいのを自覚している。

 そしてそれ故にある種の孤独でもある。

 だから姉我好先生の気持ちはとてもよくわかる。

 俺たちはただ、好きなものを語りたいだけなのだ。本質的には。


 なので俺は姉我好先生に返信をして、会うことにした。

 夏休みになり、お互いのスケジュールを合わせて会うことになった。

 こちらは学生の身分であり、もしなにかあればそういう対応をさせてもらうということも告知した上でだ。


 そして姉我好先生との待ち合わせ当日。


「もしかして、ポン酢さん……ですか?」

「あ、はい。姉我好先生、でお間違いないですか?」

「はい。初めまして。姉我好妹子です」


 そこに居たのはゆるふわパーマの黒髪に黒縁メガネを掛けた女性がいた。

 お互い自己紹介を終えて、なぜか姉我好先生はハンカチを取り出して嗅ぎだした。


「すみません。姉のパンツを嗅ぐと落ち着くものでして」

「……筋金入りだな……」


 この人、ただもんじゃない……

 やっぱり通報するべきなのだろうか……



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