第12話 幼馴染が俺をダメ男にしようとしている件。
「終わったぁ〜」
「テストの手応えはどうだったの?」
「椎名が教えた事がガッツリ出てたな」
「でしょ? あたしに感謝しなさいよね」
定期テストを終えての帰り道。
椎名と帰りながら俺はスーパーへ向かっていた。
バイトもないし、今日は俺が料理当番なので食材を買いに行くのである。
「てか椎名、お前はテスト終わりの打ち上げ? みたいの行かなかったのか?」
「行かないわよ。拓斗と帰らなくちゃいけないもの」
「お前友だちとかいないのか? 俺はそっちの方が将来心配なんだが?」
「心配なら嫁に貰ってよ。後で婚姻届渡すからサインしといて。そしたら出してあげるから」
「……お前、この間の件以来さらにあけすけになったよな」
「こうなったら拓斗を洗脳するしかないと思って」
「ナチュラルに怖い」
椎名はヤンデレというのに進化した。
前に1度だけ姉ものエロゲで姉を攻略しないというプレイを吐血しながらやっていたが、最終的に作中の姉に手足を縛られてバイアグラを飲まされて首を締められながら逆に犯されて死ぬというバッドエンドになった事がある。
あれは姉だからギリ俺の性癖に掠っていたが、姉以外だとほんと怖い。
どうか椎名が闇堕ちヤンデレ幼馴染になんてなりませんように……
「この時間って桃姉いるんだっけ?」
「ああ。今日は10時から18時のシフトだ」
「きっちり時間把握してるのキモイ」
「なんでもは知らないぞ? 知ってることだけだ」
「……もしかして、いやなんでもないわ」
おいなんだその目は?
ゴミを見るような目はやめろ。
「おいなんだよ、言いたい事があるなら言ってみろよ?」
「いえ、やめとくわ。答えも聞きたくはないし。女の子として」
「……まあいい」
椎名の表情筋の豊かさにはいつも驚かされるばかりだが、それもどうでもいいこと。
いつもはバイトのない学校帰りにスーパーによってから料理を作るが、今日はテスト終わりで時間もある。
姉ちゃんに喜んでもらえるような料理を作りたい。
「今日はあたしもバイト休みだから、拓斗の料理楽しみだな〜」
「お前の分はついでだ。俺はあくまでも姉ちゃんの為に作る」
「そこんところブレないのがほんとにムカつく」
「椎名、それは同族嫌悪ってやつだ」
「知ってるわよ。だからよ」
変な話だと思う。
この特殊な三角関係で、それぞれ好意の矢印を知っていて、それでも関係は続いている。
普通は気まづくなって疎遠になったりとかして、鈍く遺る傷になる。
でもその傷が
「で? 幼馴染ものは買ったの?」
「……買うわけないだろ」
「ちっ……」
「舌打ちすんな。顔がブサイクになるぞ」
「ならあたしの舌打ちをご褒美と感じる性癖にでもなりなさいよ」
「もうお前がどこに向かってんのか俺はわからん」
どこの世界に幼馴染もののエロゲを買ったどうか聞く幼馴染がいるんだよ……世も末だないよいよ。
てかこれはもう一般の高校生の男女2人が下校時に話す会話じゃない。
「やっぱ最近は物価高でキツいなぁ……」
「主婦みたいな事言ってるわね」
「今日は主夫だからな。安く良い食品を手にしつつも姉を喜ばせる為に粉骨砕身するのが弟の役目なんだよ」
「シスコンめ」
「それは名誉な罵倒だぜ」
スーパーについて食品を見て回る。
基本的には安い食品を選んで作れる料理を作るが、今日は姉ちゃんの好きなものを作りたい。
「桃か……」
「変態」
「否定はしないが、単純に桃は好きなんだよ俺は」
「否定してよせめて」
「まあ、桃を見ると姉ちゃんの谷間を思い出すかガハッ?!」
「谷間が無くて悪かったわね」
桃の旬の時期も近い為、この時期になるとどうしても食べたくなる。
だが桃がもっとも美味しい時期はもう少しだけ先である。
ここは我慢である。うん。
「タク、椎名ちゃん。いらっしゃい」
「姉ちゃん」
「桃姉。お疲れ様」
エプロン姿の姉ちゃんもいいなぁ。
エプロンの何が良いってさ、腰とか胸とかが強調されるとこだよな。あと新妻感があっていい。
椎名がエプロン着ても調理実習って感じするし。
「姉ちゃん、今日は何食べたい?」
「う〜んそうだなぁ。……あ」
「ん?どした?」
「ううん! あ、そうだタク。わたし筋トレしようと思ってるから、タンパク質たくさん摂れるのがいい」
「おーけーだ姉ちゃん。まかせとけ」
「桃姉、筋トレするの?」
「夏だからねっ!」
「あたしもしようかな」
「じゃあ椎名ちゃんも一緒にする? 最近仕事終わりにジム通ってるけど結構楽しいんだよ」
椎名と姉ちゃんは普通に仲がいい。
姉妹みたいだといつも思う。
顔が似てるわけじゃないけど、なんだかんだ一緒に居ることもこれまでは多かったわけだし、やっぱり俺にとっても姉ちゃんにとっても椎名は家族みたいなものだ。
「じゃあ桃姉、お仕事頑張ってね」
「頑張れ姉ちゃん」
「おうっ! お姉ちゃん頑張る!!」
控えめに言っても天使。
姉ちゃんの為なら死んでもいい。
「やっぱ姉ちゃん可愛いわ」
「それはあたしも同意するわ」
買い物を終えて帰り道。
今日は椎名もいるのでいつもより多めに買い物をしてしまった。
お買い得は主夫にとっても有難いので遠慮なく椎名をコキ使うが俺は鬼畜ではない。
「ほんと、なんであたしは拓斗の事好きなんだろうね」
「知るか」
「拓斗の好きな人が桃姉じゃなかったら殺してたわあたし」
「……マジな目で言うのやめて怖い」
実際、姉ちゃんじゃなかったらという事に嘘偽りはないのだろう。
さっきも普通に会話していたし、楽しそうだった。
勉強会の時にエロゲがバレた話からさらに白状されられてキスをしたという話をしてしまったが、それでも姉ちゃんに対しての態度は変わっていない。
いやほんと椎名さんの取り調べって怖いんですよマジで……
「桃姉の事好きなら、あたしの事も好きになってくれてもいいじゃん」
「……って言われてもな……」
こういうのは、たぶんどうしようもなくて。
そういうものでしかない。
「べつに2番目でもいいからさ」
「……それは俺がクズすぎないか?」
「あたしはクズでも愛せるからいいよ。全然」
「ダメ男製造しようとすんな。俺がクズだと姉ちゃんが可哀想だろ」
「たぶん桃姉ならそれでも養ってくれるよ」
「さらっとクズオプション追加すんな。ヒモで二股とかいよいよ俺の将来がやばい」
「それでもいいから」
なんで、椎名はそんなことを平気で言って微笑んでられるんだろうか。
きっと椎名はテコでも動かないのだろう。
俺が筋金入りのシスコンであるのと同じく。
「俺らはほんとどうしようもないな」
「ほんとにね」
こんな関係はラブコメではない。
青春でももちろんない。
そんなキラキラしたようなものではない。
でも現実はたぶんこんなもんで、たくさんの
「でさ、谷間の何がそんなにいいの? オス的には?」
「その呼び方は酷くないか?」
どんどん遠慮がなくなっていく幼馴染。
底が見えないのがより怖い。
「いいか椎名、谷間ってのはパンチラと同じだ。ロマンだ」
「…………」
「おい自分から聞いといて引くな」
「やっぱ死ね」
この幼馴染、口が悪すぎる。
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