第7話 幼馴染の洞察力はすごい。

 愛妻弁当。

 ではないのだが、俺はいつも姉ちゃんが作ってくれているお弁当を高校では食べている。


「なんか、今日の拓斗のお弁当いつもより美味しそう」

「姉ちゃんが作ってくれるんだから当たり前だろう」

「シスコン」

「ああ。シスコン弁当だ」

「幼馴染弁当でも喰らわせてやろうか?」

「お前からなんか貰うと怖いからやめとく」

「食中毒疑ってる? あたしだってそこそこ料理は出来るんですけど?」

「いやそうじゃない」


 椎名は別クラスなのだが、わざわざ俺の所に来て飯を食う。

 もちろん椎名が料理がそこそこできるのは知っているし、たまに家に来る時に姉ちゃんと一緒に作ったりもしてくれている。


 問題なのは、わりと美少女な椎名からお弁当のおかずを恵んでもらうというのが一部男子陣からしては面白くないという話なのである。

 なのでその辺はすごく面倒臭い。

 ラノベや小説みたいに高校の屋上なんて都合よく使えたりはしないし、陰キャでも陽キャでもない俺が便所飯なんてなおさらしたくない。

 そしてどこに居ても椎名は俺を探すし電話も鳴らすので諦めているところはある。


「てかあれよね。今日はなんだか拓斗はご機嫌よね?」

「ん? そうか?」


 いやまあ昨日の件で内心はそりゃもうご機嫌なのだが、それを表に出すような事はしていないはずだった。

 俺は椎名みたいに感情の起伏が激しい方ではない。

 なのでそれを感じとれる椎名はやはり幼馴染として相当レベルが高いのだろう。こわいな。


「なに? もしかしてうっかりラッキースケベで桃姉の胸でも揉んだ?」

「お前はどんだけ胸に執着してんだよ」

「……ラッキースケベの類いではないみたいね。だとしたらうっかり覗いてしまったとか」

「俺を段々と変態ってことにしようとするな」


 毎日覗きたい衝動を抑えながら慎ましく生きてんだよこっちはさぁ。

 そもそも教室でする話じゃないだろうが。


「でもだとしたらあれよね。桃姉がわざわざキャラ弁にしたりしないのよね……」

「俺の弁当見ながら考察始めるのやめて?」


 姉ちゃんがいつも作ってくれている弁当。

 だがたしかに今日はいつもと少し違う。

 白米の部分にクマさんいるし、その他のおかずもちょっと凝っているのである。

 思春期男子高校生としてはわりと恥ずかしいのだが、それよりも姉ちゃんの弁当を毎日食べれる幸せを噛み締めたいという欲求の方が勝つので俺は今日も堂々ど教室で弁当を広げるのある。


「桃姉はそもそも料理美味いのはわかるわ。だけどこの気合いの入りようは……ね、ねぇ拓斗」

「なんだ?」

「桃姉となんかあったの? てか絶対なんかあるよね? なに? 相思相愛にでもなった?」

「姉弟だぞ?」


 流石にド直球に「はいそうですディープキスしました」なんて言わない。

 だから事実の一端だけを言って誤魔化す。

 面倒事が増えるのはごめんだ。

 てか学校でこの話はしたくない。


「ふぅ〜ん」


 ジト目でじっと俺を睨むようにしてウィンナーを咀嚼する椎名。

 なんでほんとこいつは俺のこと好きなのか、未だにわからん。

 自惚れているわけじゃないが、よくわからん。

 俺が惚れることはあっても、外見の偏差値的に釣り合ってないように思う。


「まあいいわ。桃姉を尋問すればすぐにわかりそうだし」

「発言がいちいち怖いんだよ」


 とは言いつつも、椅子に手足を縛られている姉ちゃんを妄想する。

 さらに勝手にちょっと涙目になっている姉ちゃんがオプションとして追加される……

 うん。これはいいな。萌えるぞ。


「てか椎名、お前も居酒屋バイトやらないか? 今わりとまじで人手足りてなくてさ」


 これ以上の詮索を避ける為に話題を切り替える。

 椎名が俺の好きな人を知っているのもこいつのねちっこい詮索と洞察力で姉ちゃんだとバレているわけである。

 なのでその場しのぎとしての話題であるが、人手が足りてないのも事実で実際大変なのでまえから誘ってみようとは思っていた。


「それはちょっと考えてはいたのよね。拓斗もいるし」

「店長も女性だし、働きやすい方とは思うぞ。人手が足りてなくてそこは大変だが」

「女性店長? も、もしかして美人だったりする?」

「ん? まあ美人な方だとは思うぞ。胸もあるし」

「死ね」

「怖い。怖いですよ椎名さん」

「まさかもしかして拓斗、桃姉を諦めてその店長さんを……」

「別に俺は歳上好きなわけじゃない」


 姉ちゃんが好きなだけであって、そしてそれは姉ちゃんが俺より歳が上なだけという事実でしかない。

 歳がどうこうよりも「姉ちゃん」であることが最も重要なのである。

 例えコミカルに姉ちゃんがロリになろうが熟女になろうが俺は姉ちゃんに変わらずに好きだと言える自信がある。


「あたしの危機感知センサーが反応してる……これはまずい」

「お前の頭の中どうなってんだよ」


 店長はたしかに可愛いとは思うし客からの人気もある。

 従業員にも慕われているし人柄も良い。

 だが俺は例え店長が全裸で縛られていたとしても襲う事はないだろう。

 なぜなら姉ちゃんではないから。

 それはお姉さんであって姉ちゃんではないのだ。

 それでは意味がない。


「ちょっと前向きに検討するわ」

「お、おう」


 正直身内を過酷なバイト先に入れたくはないが、椎名は戦力として期待できる。

 なので個人的にはバイトしてくれると助かる。

 俺としても居酒屋越前は潰れてほしくはない。


「拓斗」

「ん? っ?!」

「あげる」


 不意打ちで俺の口にだし巻き玉子をあてがってきた椎名。

 思わず口にしてしまったが、やはり美味い。

 そして周りの男子陣からの殺気が怖い……


「……美味い」

「店長さんにも桃姉にも負けないわよ」

「…………そうか」


 少しムキになっている椎名を他所にだし巻き玉子の旨みは口の中に広がった。

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