第6話 ファーストキスはチョコの味。
「んんっ」
姉ちゃんとのキスにそこはかとない背徳感を感じつつも、求めるものは姉ちゃんの熱だけだった。
舌を入れると姉ちゃんはそれを受け入れつつも矛盾したように俺の弱々しい力で押し返そうとしていた。
俺は触れていた姉ちゃんの二の腕から肩へとゆっくり撫でながら姉ちゃんとのキスを続けた。
自分の中でみるみるうちに理性が溶けていくのを感じて謎の恐怖が頭の中の隅っこで警告を
しかしそれでも絡まっていく舌の感覚は脳を痺れさせていた。
「んはぁっ……はぁ……はぁ……」
お互いに苦しくなって唇を離すと
姉ちゃんは目尻に涙を滲ませながらも見つめ合うままで、その顔が堪らなく愛おしかった。
でもこれはきっと歪んでいるのだろう。
わかっている。
だがこの罪がより姉ちゃんに対しての気持ちを大きくより熱くさせていた。
ソファにもたれかかる姉ちゃんに
「姉ちゃん」
「タク……」
お互いにまた吸い寄せられるように近づいていく唇の距離。
どこまでも堕ちていってしまいそうな気がした。
先ほどまでは僅かながらの抵抗をしていた姉ちゃんも今では俺の首に手を回し始めていた。
そして今度は姉ちゃんから舌を入れてきたことに驚きつつもそれに答えるようにお互いに絡まり合う。
姉ちゃんの口の中に残ったチョコレートの甘みは唾液に溶けて俺の舌に絡みつく。
姉ちゃんの抱きしめる力が少しずつ強くなってさっきよりも豊満な姉ちゃんの胸の肉感が服越しに伝わってくる。
姉ちゃんの肩を握っていた俺は肩から背中、そして腰へと撫でつけるように滑らせていく。
「んんっ♡」
姉ちゃんの声にならない
そして俺の肩をしっかりと掴んだ。
それは縋るようでもあって、姉ちゃんの意志を感じた。
「こ、これ以上は……だめ。……絶対に、だめ……」
そう言って姉ちゃんは俺を抱き締めた。
肩に擦れる姉ちゃんの熱にどこか安心した。
戻れなくなりそうになっていたのを自覚していたからだった。
それでも気を抜けば簡単にまた求めてしまいそうになる。それだけ名残惜しい甘美なキスだった。
「わたしね、嫌じゃないんだよ。戸惑ったけど、けど嫌じゃなかったの」
「ああ」
抱き締めてくれる姉ちゃんから母性みたいな優しさを全身に感じる。
あたたかいと感じた。
お互いに悶々としていて、なんなら暑いはずなのに離れたくないと思ってしまう。
「でも、いきなり最後までとかは、たぶん無理。どうしようもなくなっちゃいそうで、それがこわい」
「……俺も。姉ちゃんとのキスの最中、頭のどっかで、こわかった。溺れていきそうだった」
「うん。わたしも」
再び見つめ合い、姉ちゃんは慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
そうして姉ちゃんは俺の頬に優しく触れた。
高鳴っていた心臓が少しずつ静まっていく。
理性が元に戻っていくような感覚に安心感を憶えた。
とりあえず姉ちゃんに跨っていた俺は姉ちゃんの隣に座り直した。
「タク」
「ん?」
姉ちゃんは俺の名前を呼んで手を握ってきた。
姉ちゃんの手は軟らかく細くて小さい。
女の子なのだから、それはそうだと昔を思い出した。
「わたしもね、タクの事は好きだよ。でもね、まだ男女の仲にはなりきれない」
「わかってる」
「だからね、ルールを決めよ?」
「ルール?」
「うん」
恋人繋ぎはどこか少し
けれどそれだけでも楽しい。
「わたしたちはこれからも家族。ふたりだけの家族で姉弟。でも友だち以上恋人未満。セックスはだめ」
「ああ」
「たぶん、この一線越えたらもうやばい。お互いの為に、これは守ろう」
「セックスってのは、この場合は挿入? それともさっきみたいに触れ合うのも?」
セックスの定義なんて調べたことはないけど、漠然とキスより先はセックスだと思っている。
愛情表現としては、さっきのキスなんて充分すぎるほどの行為と言える。
でも俺はさっきファーストキスを終えたばかりだし、セックスを語れるような経験値はない。
「……そ、挿入のこと。……キスまではセーフ。てかキスはしたい。気持ちよかった」
赤面しつつもそんなことを言う姉ちゃんに再びキスをしたくなってしまったが気合いで押し込めた。
ほんっとなんなんだこの姉は……ある種の拷問に等しい。
「じゃあ、その……胸揉んだりとか、咥えてもらうのは?」
「…………む、胸はその、恥ずかしぃ……く、咥えるってその、お口でタクのをってことだよね……うーん…………そ、それはのち、のち? わたしだって経験ないからわかんないよ」
うん、全く姉ちゃんの許容基準がわからん。
けどわりと前向きに考えてくれている事だけはわかった。
「ででででもっ!! 今日はもうだめっ!! わたしお酒入ってるし、たぶん次ああなっちゃったらほんとヤバいからっ」
「……姉ちゃん、それは裏を返すと押し倒されたらなし崩し的に簡単に最後までイけるって事だからな?」
こんなの、襲ってくださいって言ってるようなもんだろぉぉ。
だが、我慢だ耐えろ俺。
姉ちゃんを傷付けるリスクをこれ以上は犯せない。
こんなに考えてくれてるだけでも奇跡に近いのだから。
「い、いきなり最後までとかまず無理だよっ?! そもそもわたし処女だしっ!」
「……たしかにさっき経験ないって言ってたけど、まじ?」
「ま、まじです」
俺は心の中でガッツポーズをした。
なんでこんな美人な姉ちゃんが未だに処女なのかは知らんが、俺が姉ちゃんの処女を奪える可能性があるという事実があるだけで俺にとっては生きる理由となる。
「将来的に、姉ちゃんの処女を貰える可能性は?」
そう聞くと姉ちゃんはさっきよりも顔を赤らめて両手で顔を隠した。
顔を隠しても真っ赤な耳は恥ずかしかっているのを隠しきれてはいない。
「……タクに、あげる。将来的には。……てか、もうタクにしかあげたく……ない」
「やばい。姉ちゃん大好き」
「……恥ずかしくて死にそ……」
姉ちゃんは恥ずかしがるほど可愛いのでどんどん恥ずかしがってもらって。
「わ、わたしお風呂入ってくる!」
恥辱のあまり姉ちゃんは勢いよく立ち上がりそう宣言した。
勢い故に胸も大きく揺れて眼福だった。
「ぜ、絶対覗かないでよっ?!」
「それはフリ? あと2回言ったらフリだよこの流れ?」
「調子に乗らないのぉ」
「痛い。痛いですお姉様。鼻を摘まないで下さいすみませんでした」
人間、引き時は大事だと実感した16の春の終わり。
ファーストキスはチョコレートの味だった。
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