第10話銭湯と恋バナ
「もうこんな時間か…ライス、そろそろ人間界の両親たちに…」
「本日は仕事でニューヨークに向かったので、留守ですの。したがって、遅くなっても平気ですわ。すぐに運転手を来させますので。」
「ジュレも今日はバイトで遅いから、私も遅く帰ってもいいかな。」
「あたしはパパが泊まり込みで撮影中だし、お兄ちゃんも東京でのバイトが遅くなるって…」
その言葉を聞いたガレットは、あることを思いついた。
「それなら、みんなで銭湯に行く?10日前、この近くにスーパー銭湯できたんだよねー♪」
ガレットの鶴の一声で、
「何で知ってたの?親父…」
「
受付に入り、今回の支払いはアンニンが行った。
「今日は祝いの席だから、請求しないでおくわね?」
「ここでも銭ゲバっぷり見せつけるんじゃないわよ…」
階段を上がり、それぞれ男女に分かれ、
「お前らは今、「女湯」に入らないとダメーっ!!!」
ガレットは、一悟と雪斗を男湯の暖簾から追い出した。
「えーっ…」
「勇者たる者、セクハラを誘発しないこと!!!」
勇者でなくとも、そりゃそうだ。
しぶしぶと女湯に入った一悟と雪斗は、シュトーレン達と並んで早速サン・ジェルマン学園中等部の制服を脱ぎ始める。赤子の時に女湯に入った経験はあったようだが、一悟にとってはまったく記憶にない。それに、初めての銭湯に混乱している者たちも…
「こんなところ…初めて…」
「小学校の修学旅行は、ゴタゴタで行けなかったので…」
「あ…憧れの…公衆浴場…」
雪斗は弓道の合宿で外泊した経験はあるものの、殆ど個室のシャワールームしか使っておらず、あずきは小学校6年生の時、
「一悟、目を伏せるか、鼻にティッシュを詰めときなさい。」
下着姿になった一悟は、両手で鼻を押さえつつ、洗面台のティッシュに手を伸ばし、ティッシュで紙縒りを作り、それを鼻に詰めた。昨日はシュトーレンと一緒に入浴していた為、少しはシュトーレンの裸に対する耐性がついたが、ましてや大勢の女性が入浴している場所…そこら辺の男子中学生よりも女性に免疫のない一悟にとっては、一番危険な場所なのである。
「………」
「あんた…外し方、わかんない?」
シュトーレンの言葉に、雪斗が黙って頷いた。どうやらブラのホックの外し方がわからないようだ。
「いちごん…外し…」
一悟を指名しようとしたが、突然雪斗の人格がユキに入れ替わる。
「もーっ、僕が出てこないとダメなんだからっ!!!」
付け方に至るまでマカロンに教わっていたようで、ユキは慣れた手つきでブラのホックを外す。そして制服を入れたロッカーに脱いだ下着を入れ、今度は髪を結んでいたリボンを解き、湯船に髪が付かないように髪をまとめる。
「マカロン…ユキさんを大事にされていたのですわね…」
「僧侶様…そのスケッチブックは?」
「ちょっと心眼返しをね…」
既に一糸まとわぬ姿となり、髪をまとめ終えたアンニンは、涼しい顔をしてスケッチブックにサインペンで文字を書いている。
一方男湯では、既に服を脱いだココアとムッシュ・エクレールが心眼で女湯の脱衣所を覗いている。
「98…77…89…76…90…95…一悟とライスは置いといて、眼福だなぁ…」
「ライスに対する言葉は聞き捨てならんが、1メートル近い物体と彼女の勇ましさの比例っぷりは眼福だなぁ…」
「やっぱり、おっぱいと勇ましさは反比例よりも、比例だよなー♪」
「…ん?なんだ?アンニンがなぜスケッチブックを?…「エクレール、後ろー!後ろー!」?」
心眼から見えたスケッチブックが95のGカップを隠した途端、ムッシュ・エクレールとココアの背後に黒いオーラが漂う。
「セーラは俺の自慢の娘だからねー♪顔立ちと体格は、俺のカミさんと瓜二つ♪娘を褒めてくれて、嬉しいなぁ♪」
めちゃくちゃ嬉しそうな表情をしながら、黒いオーラを漂わせるガレットだった。シュトーレンを褒める2人を持ち上げた刹那、ガレットの表情は一瞬にして険しくなる。
「…って、勇者がそれだけで済ませると思った?誰に断って、人の娘の脱衣シーンを覗いてんの?勇者であっても、娘を性的な目で見られるの…結構不快なんだけど?」
そもそも、現在のムッシュ・エクレールは公務員である。コレがバレれば大問題だ。
「おやっさん…俺っちは悪いライオンっス…姉御の脱衣シーンだけに限らず、着替えまで毎日といっていいほど見てるんスけど…」
1人のエルフ族と精霊をたしなめる勇者に、トルテはおずおずとシュトーレンに対する懺悔を始めた。
「お前はセーラのペットだろ?ペットがセーラの脱衣も着替えも見えてしまうのは不可抗力だし、仕方ないっしょ。合法、合法♪」
「あーーーーーーーーーっ!!!トルテ、ずるいっ!!!!!」
ペットであることを理由に懺悔を許されたトルテを見て、ココアはブーイングを放つ。
「勇者が本気で制裁する前にー、心眼でセーラの脱衣シーン覗いた奴らはー…」
「1時間、サウナにこもってもらいまーす!!!!!」
サウナというものを知らない2人には、過酷な罰である。のぞき行為、ダメ、ゼッタイ!
髪もまとめ終わり、一悟達は大浴場へ入った。様々な浴槽を見て、シュトーレンはどことなく嬉しそうだ。
「浴槽に入る前に、身体を洗いなさいね?」
そう言いながら、アンニンは蛇口からお湯を出す。たまたま6人分空いている列があったので、一悟達は1人1つ使うことにした。
「それから、さっき言い忘れたけど…ガレットさん、娘に対して結構過保護な所があるから気を付けるように。ましてや背中の流しっこなんて…」
「しれっと一悟と意識入れ替えるな、親父いいいいいいっ!!!!(男声)」
アンニンのセリフを遮るかのように、シュトーレンの叫び声が響いた。みるく達がシュトーレンの方に目を向けると、そこには笑いながらシュトーレンの背中を洗う一悟の姿…なのだが、中身はどう見てもガレットだ。
「背中の流しっこなんて、セーラが12歳の時以来だなぁ~♪」
「だから言ったでしょ?娘に対して過保護だって…」
そう言いながら、僧侶は一悟の外見をしたガレットの頭に風呂桶を降りかざす。
「ねっ!!!!!」
「パッカーーーーーーーーーーーーーーーン!!!」
「ってぇ~…いきなり男湯でトルテと並んでいたと思ったら…」
「ごめんね…一悟…親父が意識入れ替えちゃって…」
父親の失態を謝罪する勇者の胸を、雪斗が人差し指でつつこうとするが…
「今度はそっちに意識入れ替えたか…親父…」
「また父親が意識を入れ替えた」と判断した勇者は、雪斗を睨みつける。
「いや…ユキが突っぱねたみたいで…」
今度は失敗したようだ。男湯では、トルテの真横で犬神家の一族と化したガレットが気絶している。
「その…いちごんって…ど、どういう女性が…好みなんだ?みるくみたいに…ほわほわした子?それとも…」
「???」
雪斗の思いがけない質問に、一悟の思考回路が停止する。
「一悟、好きな女性のタイプって…」
「見た目も態度もゴリラじゃねぇ奴!」
恋愛について一切考えた事もない一悟にとって、好きな異性のタイプを聞くのはムダに等しいようだ。その言葉を聞いた雪斗、シュトーレン、あずきは盛大にコケた。
「いっくん…それ、「ちかちゃん以外なら誰でもいい」ってことだよ?」
「ちかちゃん」…それは一悟の姉・
「それもそうか…まぁ、料理が上手くて、信念が強くて…包容力がある子がタイプ…かな?」
「それ、シュトーレンも当てはまるってことよね?」
僧侶はそう言いながら、あずきと意識を入れ替えていたガレットの両頬を引っ張る。
「それじゃあ、勇者様のタイプは?あたしは、勿論いっくんみたいな人。」
「あ、あたしは…ちょっとバカな所もあるけど…頼りがいが…って、ライスと意識入れ替えてる親父の前で言えるワケないでしょ!!!!!」
「よし、意識抜けた!まぁ、あのイタリア人のインターポールではないのは確かね?」
赤面する勇者の真横で、勇者の幼馴染の僧侶はうんうんと頷いた。みるくは、勇者の発言に心当たりがあるようだ。
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