第9話勇者シュトーレンと勇者ガレット
「♪~」
運転中の車からスマートフォンの着信音が鳴り響く。そのスマートフォンの持ち主は運転席で車を運転しているため。助手席で運転を指摘している青年が代わりにスマートフォンを手に取る。
「…私だ。お前に頼みたいことがあるんだが…」
「アンニン姉さん、どうしたんスか?姉御は今、運転中っス。」
「おや…あのデミオ、遂に納車されたのか。手短に言う。カフェ「ルーヴル」、17時から「
「17時から「首藤和真」名義…っスね?りょうか…」
「ギャギャギャギャギャギャ…」
トルテのセリフを遮るかのように、シュトーレンが運転する真紅のデミオはドリフトをかましながら、バイパス沿いのコンビニの駐車場に入り、大型トラック専用スペースに横転寸前になるほどダイナミックに停車した。突然のドリフトに驚いて、トルテは半獣人化している。
「姉御っ!!!!急ハンドルからのドリフトは危険ッス!!!!!」
「おや…納車したばかりの車で、さっそく群馬の峠でも走ってたのか?セーラは…」
「瀬戌みなみモールで買い物しただけっス…」
「とにかく、
アンニンの電話が切れた。
「ねぇ…親父の本名…思い出せる?」
「カルマン・ガレット・ブラーヴ・シュバリエ…でしたよね?おやっさん…」
シュトーレンに彼女の父親の本名を確認されたトルテが、淡々とある名前を読み上げた直後、シュトーレンはトルテの肩をぽんと叩き…
「運転…代わって?」
トルテは仕方なく半獣人化を解いて、シュトーレンと運転を交代した。人間界にやってきて、日雇いバイトをやりながら大型車までの運転免許を取得したので、トルテは普通自動車くらいなら余裕で乗りこなせる。シュトーレンのいる手前、いたって模範的な安全運転だ。
無事、木苺ヶ丘にあるカフェ兼住居に戻り、買ってきたものを下ろす。そこへ噂の人物がバイクでやってくる。
「後ろ姿…母さんに似たな…」
聞き覚えのある声に、シュトーレンは不意にバイクの青年の方を向いた。青年がヘルメットを外した刹那、炎のような赤髪が宙を舞い、歴戦の戦士のような勇ましさが漂う緑色の瞳を見た瞬間、思わず勇者は肩を震わせる。
「大きくなったな…セーラ…」
スイーツ界に於いて、勇者の本名及び、真名を家族や身近な者以外の者が呼ぶのは禁忌とされている。アンニン、アントーニオ以外でシュトーレンの本名を躊躇いもなく呼ぶ…それは紛れもなく…
「親父…」
そう…それはシュトーレンの父親で、彼女の2代前の勇者・ガレット…勇者の父は、久しぶりに再会した娘に抱き着こうとするが…
「ドサッ…」
そんな感動の再会も虚しく、シュトーレンが車から取り出した荷物を持たされた。
「今からアンヌが一悟達連れてくるから、荷物を2階のリビングまで運んどいて。」
「やっと再会した父親に対して酷くなーい?セーラちゃーん…」
「しれっと仕事辞めた挙句、8年近く子供達ほったらかしにしといて、娘を「ちゃん」付けするなっ!!!!!(男声)」
「姉御、何モタモタしてるんスかー!!!早くしないとアンニン姉さ…って、おやっさん!!!??」
「おー、トルテ!相変わらず人間態はチャラいなー…」
そう言いながら、ガレットは玄関から出てきたトルテの背中を叩く。
「トルテにちょっかい出してないで、さっさと運ぶの手伝え…(男声)」
「ちょっとぉー…父親に向かって、男声で怒るのやめてぇー?」
そう文句は言うが、ガレットは
「ねぇ…親父…「首藤和真」って…まさか…」
「俺の人間界での時の名前♪「カルマン」だから「和真」って名前にしたってばーさんが言ってた。」
案の定、
アンニンの言葉通り、一悟達も一緒だ。無事だった一悟達の姿を見て、シュトーレンは安堵の表情を浮かべる。そして店舗の電気を点け、一悟達を店の方へと案内する。身内だけなので、男の姿に変身する必要はない。シュトーレンは炎のような真紅のロングヘアーを頭頂部でポニーテールにまとめ、白いエプロンをつけ、トルテと共に料理を作り始めた。
一悟達は雪斗をブラックビターから取り戻し、雪斗も再びマジパティに変身する事ができた。雪斗は一悟を助けたいがため、マジパティに覚醒したものの、一悟から拒絶させるかもしれないという恐怖、それでも一悟に認められたいという気持ちで、本来の目的を知らないまま、マジパティ・ソルベとして戦っていたとのことだった。みるくがプディングに覚醒し、一悟と一緒に活躍している事が公になってからは、焦りもあり、ソルベの姿で修業に明け暮れることもあった。それが、ソルベの姿でみるくに襲い掛かった事に繋がった。
「ねぇ…親父…」
カウンターから一悟達と話す雪斗の姿を見ながら、シュトーレンは父親に話しかける。
「アタシ、雪斗から一時的とはいえ、マジパティとしての資格をはく奪して…本当に良かったのかな?あの子はただ、一悟と仲良くなりたかっただけ…でも、父親と祖父母からの虐待によるトラウマで、どうやって接していいのかわからなかった。そんな矢先に、マジパティとして覚醒してしまった…やりすぎだったのかな?」
「セーラ…後悔は家族相手にだけにしとけ。虐待されていた云々以前に、雪斗にもそういう制裁は必要だった。勇者たる者、力を使い誤った者には正しい方へ導く。雪斗の親がやらなかった分の教育は、セーラ達が引き受ける!だから、お前は間違ってない。最終的にはカオスから取り戻し、雪斗は一悟達と和解してマジパティとして再び覚醒した。それでいいんだ…」
父親からの言葉に、シュトーレンはほっと胸をなでおろす。
「俺の時のソルベ、変身前は「ネロ」って名前だったんだけどさー…ネロも他のマジパティと比べて、最初は誰とも心を開かずにつんけんしてたよー?でも、戦争で家族がピンチの時…ネロは俺達に頭を下げ、「家族を助けてほしい…」って言った。戦争の原因作ったのネロだったし、俺は戦争の原因作った責任を取らせる形で、マジパティにさせなくしていた。でも…」
「この通りです!!!勇者様…私の家族を…助けてくださいっ!!!」
戦火の激しい街の中、ネロは2人のマジパティと勇者の前で土下座をしている。魔界に性別の概念はないためか、ミルフィーユはピンク色のツーサイドアップの少女で、プディングに至っては、ミルフィーユより長身の少年だ。
「どーする?勇者様…俺は反対だね?コイツは俺のおふくろをソルベの姿で攻撃した…唯一の肉親を傷つけた奴の家族を救えなんて、俺は嫌だね!!!」
「ボネ!!!こんな一大事でそんな事言わないの。私・グラッセはネロ…あなたを許します。でも、その判断は勇者様に任せます…それでもいいですか?」
魔界のミルフィーユは、ネロを諭した。そして、ミルフィーユは勇者に視線を移す。
「ネロ…この戦争の原因を作ったのが、お前だって理解しているか?」
「はい…あの時の私がカオスイーツではなく、プディングの母親にソルベアローを向けた…それが、カオスイーツを街に進行させる要因となってしまった。プディングが怒るのも無理はないです。」
「それだけじゃないよね?ボネのおふくろにソルベシュートを放ったし、お前が逃がして街を襲ったカオスイーツにトドメを刺したミルフィーユとグラッセの親父に罵声を浴びせた。スイーツ界に残した俺の大切なセレーネに対しても、ボロクソに言った…俺もミルフィーユも、ホントは怒ってるんだよ?ホントに家族を助けてほしい?」
ネロは黙って首を縦に振る。
「家族を傷つけられたり、罵声を浴びせられたりする事がどれほど心痛いものか…勇者様…今の私に…できることは…」
「街を…家族を助けたいのなら、心を開け!!!この戦争を鎮められるのは、勇者の知性が必要になる!!!お前の意志が本物ならば、勇者の知性は再びお前に力を与える!!!!!」
ガレットの言葉と共に、ネロの持っている石化したブレイブスプーンが光を放つ…ネロを再び勇者の知性を司る者と認めるかの如く…
「ネロは自分で
「戦争…って…」
「あの時は人間界とは比べ物にならない程の負のエネルギーが魔界に充満していたからさぁ…毎日どこかで戦争三昧よ。」
壮絶なスケールに驚く娘を見ながら、魔界で戦った勇者は娘がさし出したコーヒーをすする。
「あとはセーラと一悟達次第だ。もう雪斗は1人じゃない。心を開いた勇者の知性は、無限の可能性を持つ。」
「そっか…」
「てなワケで…さっきスピード違反で免停食らったから、ここに住まわせてー♪」
そうねだる父親に対し、シュトーレンは父親の前にある皿をさっと取り上げる。
「例え勇者でも…働かざる者、食うべからず!!!!!(男声)」
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