第3話氷見雪斗は謝りたい

カオスソルベの声しか聞こえなくなって、どれだけの時間が経過したのだろう…カオスソルベが戦った感覚は、確かに感じた。カオスソルベは冷斗れいととみかんと喋っていたし、みかんに抱き着いていた感覚もしたけど…冷斗達の声は聞こえなかった。


カオスソルベは誰かと話しているようだが、誰と話しているのかはわからない。カオスソルベと話している相手の声が…聞こえない…


「そうだよ…僕は氷見雪斗ひみゆきとの身体を媒体ばいたいとして、お父様に力を分け与えられて生まれた。媒体のことはミルフィーユの事しか覚えてなかったけど、大体はマカロンお姉ちゃんとティラミスから聞いてる。傲慢で、自己中で、素直じゃない癖に、マジパティとしては最弱だって…そんなんだから、勇者様からマジパティとしての地位をはく奪されたんだ。」

「違う!僕は傲慢で自己中なんかじゃないっ!!!」

暗闇の中、僕は叫んだ。だけど…

「やかましい…媒体は媒体らしく大人しくしてよ。ウザいんだよ…」

僕の言葉に向かって、カオスソルベはそれを一蹴した。

「氷見雪斗の失踪事件が全国に知らされたのは知ってる…でも、変に強がり続けてずっと1人ぼっちのままでいる奴なんて、もういなくなっていいと思う。レイトとミカンには悪いけど…」

カオスソルベの口から冷斗とみかんの名前が出てきた途端、僕は思わず暗闇の中から身を乗り出そうとした。


「だったら、早く僕の身体を返せ!!!」

「返さないって言ってるでしょ!!!!!」

カオスソルベは声を荒げ、僕の頼みを一蹴した。

「僕はお前と違って、ミルフィーユとケンカするつもりなんてない!!!ただ「トモダチになりたい」、「一緒に戦いたい」って言えば済む話を、ここまで引っ張った分際で…だから、お父様の力がカオスイーツを強める力であろうとも、僕はミルフィーユと一緒に戦うもん。媒体は引っ込んでなよ…」

そう言いながらカオスソルベは変身を解いた。悔しいが、彼女の言葉は紛れもない事実…何も言い返せない。


初めて変身した時…あの時…いちごんの手を突っぱねていなければ…


「カオスソルベ…明日、一緒に学校へ行こう!!!お前に…話したいことがある…」


突然、いちごんの声が聞こえてきて、辺りを見回す。だけど、いちごんの姿は見えない。

「このままだと俺も…お前も…前に進めない…」

「前に…進めない?」

「アイツのことで、思い出したことがあるんだ。頼む…俺を…千葉一悟ちばいちごを…氷見雪斗と話をさせてくれ…」


い…いちごんが…僕と話がしたい…って!?ぼ、僕…こ、今度こそちゃんと…言える…よな?


「いいよ?でも、媒体はまた突っぱねるかもしれないよ?それでもいい?」


もうそんなことしないっ!!!

いちごんとしゃーべーりーたーいー!!!!


「それでも構わねぇ…学校のある高台のふもとに、「フェアリーマート」ってコンビニがあるだろ?そこに7時50分集合、それでどうだ?ムッシュ・エクレール同伴にはなっちまうけど、みるくとあずきも協力してくれ!!!」


…え?ムッシュ・エクレール?…って、あの高飛車のことかーーーーーーーーーっ!!!なんでしれっといちごんと一緒に学校に行ってるんだよ?あの男はーーーーーーーーーーっ!!!

「あの英語教師の事でしょ?一度話してみたかったんだー♪7時50分に「フェアリーマート」…ね?りょーかいっ♪媒体の事は何とかするから、それじゃまったねー♪」


元気よくいちごんに挨拶するカオスソルベ…僕も…彼女みたいに…いちごんの前で笑っていられたら…


「今…羨ましいって思ったでしょ?」

突如、僕の目の前にカオスソルベが現れた。恐らく、僕の意識の中に入り込んできたのだろう。カオスソルベは勝ち誇ったような表情をしている。

「べ、別に羨ましくなんて…」

「失踪する前は、ファンクラブの子達に囲まれていたんだってねー?でも、失踪したと同時にファンクラブは解散同然…いいチャンスだねー?ミルフィーユと一緒に居ても、やかましい奴らが近寄ってこないよー?」

「な…何が言いたい!!!僕はもういちごんを突っぱねたりしないっ!!!いちごんに謝りたい…いちごんと…話が…したい…もう一度…いちごんの顔が…笑顔が…見たい…」

涙で言葉が詰まる…いちごんの声が聞こえるたび、どんどんといちごんに会いたい気持ちが募る…でも、僕がもう一度いちごんに会うには…カオスソルベの力を借りないと…


「ドサッ…」


急に体の自由がきいた途端、カオスソルベは突然僕の事を押し倒してきた。

「覚悟…できてるって事だよね?ミルフィーユに会いたいって願ってるって事は…僕を受け入れるって事だよ?つまり…僕を受け入れない限り、もうミルフィーユとは会えなくなる…ずっと…このまま…」


「覚悟は…できてる…」


「それなら…決まりだね?僕が見た景色…聞いた音…嬉しさも…いとしさも…痛みも…悲しみも…僕が感じたすべての感覚は、これでお前にやってくる…」

そう言いながら、カオスソルベは勢い任せで僕の下腹部に馬乗りになってしまった…


「うっ…ぐっ…」


全身が張り裂けるような痛み…もう2度と味わいたくなかった…でも…もう一度いちごんと笑って話せるくらいなら…僕はカオスソルベの痛みを全て受け入れてみせる…

「全部…入っちゃったね…?」

僕の上で身体を揺らしながら、彼女は僕に顔を近づける…

「大丈夫…ここはお前の意識の中…お前の身体には、お前と僕のこの契りが行われた形跡は残らない…」

そう言いながら、彼女は…カオスソルベは、己の唇を僕の唇に重ねた。


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