至高の姿

 言っていることがおかしい。容姿を褒めた後、

「容姿を変えないか」

 と提案してきたのだ。頭が追いつかないのも無理はない。


 でも、それでも、この人みたいな、小顔で、小さい口、柔らかな髪に、華奢な手、長い足に、禁忌の果実。

「変えます! 」

「というか、どちらにせよ、見た目を変えようが変えまいが、肉体の構造を作り変える上で、体をいじるのよねっ(ニコッ)」

 どちらにせよ、らしい。

 私の理想の姿……何回も考えたことあるけど、意外と思い浮かべろ、と言われると、思い浮かばないものだな。


「思い浮かんだら、その姿を強く思い浮かべて、念じるの。」

「はい」

 思い浮かびません。


 私の理想の姿……

 あの推しキャラみたいな瑠璃色の髪、二重で右が亜麻色と左が闇色のオッドアイ。身の丈はもう少し欲しいし、鼻も高い方がいい。

 目を閉じる。正しくは視界が狭まっていく。

 見えるようになったかと思えば、第一の感覚として、肩が重い。そして、背が少し伸びただろうか。

「これが禁忌の果実……」


 彼女が鏡を持ってきて私を映す。

「まじか。これが私か。」

 そこには、誰もが羨む美貌が立っていた。

「70点、と言ったところね。」

 随分とまあ辛口だ。


「おやおや、先ほどの揚羽さんではありませんか。全く違う姿になりましたね。」

 すごい、「髪切った? 」より違いが大きいので、すごい複雑。分からないくらい姿の原型がないのになぜ分かるのだろうか。

 これがイケメンなので、神という特権を生かした一種の『免罪』なんだろう。

 と、妄想をはたらせていると。


「さて、職場だが。」

 そうそう。元はと言えば私が『胡蝶の選び手』というものに選ばれたから、ここにいるわけだ。

 月詠についていく。5分ほど歩いた先には、綺麗な建物が立っていた。

「ここが貴方の仕事場です。神々の意向、返答を伝える役です。そちら側では、

『参拝する』『イタコ』とかに近いかも知れませんね。そちらの仕事として近いものはコールセンターの受け子みたいな感じでしょうか。」

 やっぱりこの人、こちらの世界慣れしすぎではないか。わかりやすいからありがたいけど。


「ちなみに私は、伝える側ではなく、情報を作る側だ」

「では、行ってまいります」

「あと、私は形としてあなたの上官だ。私と二人なら、ともかく、人前では、月詠様というように。これは私の部下全員に言っていることだ。」


 このやりとり、「恋愛漫画とかで、『2人の時では名前で呼び合おう。敬語も禁止な。』みたいな感じだった。

 名前で呼び合おうなんて言っていないけど。タメ口は許可されていないけど。

「……頑張るか。」

 そう言って、建物の中に入っていく。

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