黒揚羽蝶の夢
碧井詩杏
憂しあやかし胡蝶の夢
貴方は胡蝶の夢というものを知っているだろうか。古代中国の思想家荘子が……と話せば長くなるだろう。
「って、誰に紹介してんだろう」
最近同じ夢を見る。始まりは確か千紫万紅の森に佇む銀朱や群青の鮮やかな建物の中の真ん中に燐光を纏う一輪の死人花に触れ目が醒めた。辺りを見渡すと、推しのぬいぐるみ、ポスター。紛れもなく自分の部屋だ。鮮やかな色のポスターを見て、あの森を思い出す。夢で見たあの森の方が綺麗だ。ふと、強烈な眠気に襲われる。今日は土曜日だ、思いっきり二度寝してやろう。
そして気づけば私は綺麗な呂色の長髪の青年におぶわれていた。「美男子」と言われる類の容姿に溢れる気品とオーラ。
「あ、目を醒ましましたね」
一挙手一投足に人ではない神聖さを感じる。
「あ、はい。こ、この状況は? 」
そういうと、私を優しく降ろす。華奢な指からは中性的なものを感じる。
彼に尋ねる私。
「規定条件を満たした上で、『胡蝶の選び手』になることを定められた。まあ、籤引きした結果だ。分かりやすく言うと、そちらの世界の、裁判員制度、みたいなものだろうか。とりあえず、ついて来てくれ。」
連れて行かれた先にやわらかな二つの果実を下げた大人の女性の魅力を詰め込んだような人が彼に何か話しかけている。どの言語とも違く、読み取ることができない。
「そういえば、名前を聞いていなかったな。私は
「羽田
「アイドルかのような自己紹介だな」
柔かに微笑む彼はなんかやけにこちらの世界に詳しい気がする。
刹那、彼の表情が険しくなる。
「下がっていろ。」
彼が構えをとったと同時にその前に緑青色の着物を着た白髪の青年が月詠の首に刃を向けている。月詠もまた喉仏に三日月の形をした短剣を押し付けている。
「クソ、時間か。」
と言って、刀を鞘にしまい、消えていく。
「今のは……」
「何、ただの喧嘩だ。」
と言い、私の両側に式神と思われる大きな兎で私を囲った。
「着いたぞ。」
と言い、両側の兎は光になって消えた。
「お、月詠やん! おひさ! 」
「
「容姿はそんな短期間に変わるもんでも無いやろ! 」
月詠と反対的に黄金色の肌をした活発な印象を覚える。
「てか、この子は? 」
ぺこりとお辞儀をする。
「彼女は『胡蝶の選び手』だ。」
このちょくちょく出てくる『胡蝶の選び手』という言葉はなんなのだろう。
「はあ〜またお前は随分と上物を……」
上物とはどういうことだろうか。
「まあ、大変やろうし変な人やけど、いい人やから頑張るんやで! 」
「喧しい。黙れ。」
尊死しそうな会話を聞いていると、
「もう良いかな? 」
と、怒りのこもったような声でこちらに話しかける女性がいた。
「この子です。では、私はここで。」
と言い、消えてしまった。
「え、あ、どうも」
「綺麗な瞳ね。お名前は? 」
「羽田揚羽です。」
「揚羽か。ここは私の提案なんだけど、容姿を変えて見ないかしら? 」
「え? 」
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