第一章
1 (0) 『死後の世界』
一
(えー、こほん)
はじめまして!こんにちは!
私、シャトー!シャトー・ブリアン!
素敵な名前で女の子やってます!15歳です!
自慢できることは、頑張って腰元まで伸ばしたサラサラの金髪と、家事全般が得意なことと、人並み以上に魔術が使えること!悩みは背が小さいことと、それ以外に悩みが数え切れないくらいあること!
そんなただの15歳、それがシャトーです!もっかい言います!シャトーです!つまり“城”です!よろしくです!
(ちなみに王国では15歳で大人だわよ。おほほ)。
お仕事はシスターをしています!フラン・ガロ王国南部の超ド辺境にポツンと建つ、見た目が完全に廃墟なオンボロ小教会を一人で管理しています!
超ド辺境シスターです!
…って、自慢気に言いましたけど、実はココだけの話、私、シスターって言っても、野良なんですけどね!
というのも、私、事情があって神官長様からシスターを行う上で必要な認可を貰えていません!だから、私は無免許の闇医者ならぬ、無認可の闇シスター!故に私、世間的には無職!それを体現するかの如く、教会庁から一銭も給料を貰ってないし、誰かの冠婚葬祭に携わってお布施をいただく機会もありません!ゴミー!
本職での稼ぎゼロ!必然!我が家はもれなくクソ貧乏!幸か不幸か…、
…いや、間違いなく不幸か。私にはもう、唯一の家族すらいなくなっちゃったんだから。
…孤独になっちゃった私は、もう、誰かを養う重圧と歓びに、悩みたくても悩めないんだから。
…(ごほん)。えー、失礼!ちょっとボーッとしてしまいましたが、話を戻して…、あっ!そう!私には欲しい本、服、アクセサリーがいっぱいあります!
年頃ですもん!
けど、貧乏だから、何一つ買えていません!マジで、気がついたら全部夢見るだけに終わってます!へへへへ!
というか、日々は夢なんて甘いもん見てられるほどお気楽じゃないです!ヤバいです!我が家の家計は年中火の車!生活費を捻出するので精一杯!おかげで自宅でもある大事な小教会は劣化しても碌に修繕できず、そのせいで雨漏りアホほどするし、床軋むし、雨戸どっか行きっぱなしだし、夜風めっちゃ寒いし、カートゥーンアニメかってくらい壁にネズミ穴空きまくりだし、何よりも唯一神ガロの石像の右手が捥げっぱなし!(それは流石に神職者としてどうなのって意見は聞きません。直してほしけりゃ先ず私の貧乏を何とかしてみろってんだバーカ神様のバーカ)。
生計は、最寄りの村の田畑を一日中手伝って雀の涙より少ない駄賃を貰ったり、夜間に街に出て仕事して、中抜されまくったショッペぇ日給を稼いだり、二日に一度、街頭で行っている、誰も聞いてやくれない布教活動の際に面白半分で(主に顔に)投げつけられた小銭を渋々拾い集めたりすることで何とか成り立てています!
正直クソしんどい!穴が空いた下着でも捨てずに履き続けなきゃだし、明日食う食べ物にも苦労しているし、ホント辛い生活!
でも、めげない!就職しない!歯ぁ食い縛ってシスター続けてます!だってそれが、それこそが、私がお義父さんに拾われた意味で、シャトー・ブリアンである意味だから。
二
…そんな、実質ただ体裁が良いだけの落伍者な私に、先日、転機が訪れました!なんと訳あって、フラン家当代当主たるレジティ女皇から直々に、処刑され亡くなられたフラン家面々のご遺体の処置と埋葬をご依頼いただいたのです!
物凄い大命!だって、フラン家といえば、このフラン・ガロ王国に存在する貴族の頂点に君臨する最高位の貴族で、フラン家の当主…『皇(すめらぎ)』の地位は、国王にも匹敵する権威なんですよ?そんな御方々のご遺体の処置と埋葬なんて、本来なら、首都シテにあるガロ教最大の聖地、大聖堂にてお勤めなさる高位神官様方の手により責任をもって行われるべき大業です。それなのに…(対する私は辺境貧乏無職闇シスター。端的に言ってカスぅ)。
それでも!たとえ分不相応な辺境貧乏無職ド底辺クソカス闇シスターだとしても!私は全力の尽力と敬意をもって御方々を弔いました!(いやらしい話、報酬めっちゃくれるっぽいし…)。レジティ様の方で事前に用意いただいた墓石を大切にお運びしました!マントルに届くほどド深い墓穴を掘りました!お供え用の花は一ヶ月ほど断食して見繕ったお金で瑞々しい綺麗なものを購入しました!(断食生活二週間目から、空腹のあまり幻覚が見えましたが、なんとか堪えました…)。
御方々…、ファンド・モロン・ド・フラン前代女皇、リヴィジョン・モロン・プロイヴェーレ・ゴーニュ殿、そして、お二方のご息女のラディカ・ソロリス・セヴァディオス・フラン様(カタカナ多っ)のご遺体全て、どれも、頭が無くて滅茶苦茶グロかったけど、抜かりなく丁寧に処置、お清めしました!初めてだったけど超良い出来!しっかり超強力な防腐の変性魔術もかけたから完璧!
…最終的に、準備に四ヶ月ほどかかりましたが、本日はいよいよ埋葬の決行日!先んじてファンド女皇とリヴィジョン殿の埋葬!お二方を入れた棺桶(めっちゃギュウギュウ)を墓穴の底に安置した後、土で完全に蓋をして、固く均した上にピカピカの墓石をがっしりと置く!そして花!一ヶ月分の食費!よし!全て抜かり無く完了!感動的な仕上がり!やったね私!埋葬は一度やったことあったから本当によくできました!
そして、いよいよラディカ様!ラディカ様だけは、レジティ様のご希望により別の墓穴に埋葬する必要がありました!
ですが、何分、埋葬に手間取ってしまい(墓穴深く掘り過ぎた…。埋めるのにメッチャ時間かかった…)、気づけば日が暮れちゃってました…。なので、御方の埋葬は明日にすることにしました!
さぁ!大役もいよいよラストスパート!最後まで気を抜かず頑張れ私!だから今日は早く寝よう私!コンディションを整えよう私!相変わらず金ねぇから晩飯は抜きだけど!うん!寝ろ!水たらふく飲んで寝ろ!
…ってね。
意気込んでたんですけどね。
その気概は、気づけば無駄になっちゃってました。
三
…その夜、晩夏の夜、熱を忘れた風が気持ちいい時分。私は礼拝堂にて、ラディカ様のご遺体を入れた棺桶を磨いて過ごしました(礼拝堂に棺桶があるのは、正直そこくらいしかウチに棺桶を置くスペースがなかったから。そこ以外だと野ざらしになるよ。いいの?)。めっちゃゴシゴシしました。疲れました。でも、おかげで最高にピカピカになりました。ですが、気づけば時刻はてっぺんを回っていました。早く寝なければならないのに、私ったら細かな汚れを落とすことに夢中になってました(凝り性ってヤツなんですねー)。
それでも、私にはまだやるべきことがありました。ご遺体の最終的な状態のチェックです。それは依頼された者としての責務でした(プロ意識カッコいい)。だから私は、心の中で「だりぃー」と思いつつ、疲れで脱力したフラフラの身体を酷使して棺桶を開け、ねむねむな眼で中を覗きました。
…もう一度言いますがそれは責務でした。しかしそれは、ファンド女皇とリヴィジョン殿を葬る前日にも行った、何の変哲もない、事務的な作業でした。ぶっちゃけ、やろうがやるまいが大差ないイベントでした。だって、この日以前から何度もご遺体の状況は確認してるんですから。四ヶ月見続けたご遺体をもう一度見るだけです。だから、どう考えたって、ここでアクシデントが有り得るなんて、有り得るはずが有り得ない、有り得ない、有り得ないことでした。
…なのに、事態はアクシデントを軽々と超えてきやがりました。
覗いた先は変哲で溢れていました。
…身体が強張りました。眠気が一気に吹き飛びました。その後、私は驚きのあまり腰を抜かし、へたり込みました。失禁さえしたかもしれません。とにかく私は、しばらくの間、何が起こったのか分からず、怖くて震えました。
しかし、比較的理性的に生まれてきてしまった私は、時間が手助けをしてくれるほどに冷たい合理性を働かせ、現下の非現実的な現象に対し、持ち得る全ての情報を照合させ、分析し、理解することが出来ました。
私はすぐさまラディカ様を棺桶から引きずり出しました。次いで、そのご遺体(?)をズルズルと引きずって階段を登り、果てにリフォーム必須のオンボロ小教会の中で最も綺麗(というかマシ)な客室のベッドに辿り着き、御方を横たわらせました。
「これで…良かったんだよね…?」
…跳ね上がる心臓を押さえつけようと、必死で深呼吸しました。しかし、いざ、眼前に横たわる”なんの変哲もない”ラディカ様という異常を視認するほどに呼吸は途絶え、過呼吸をぶり返しました。
「なんで…、なんで…、なんで…?」
私は脳に、不可解の欠片もないラディカ様という不可解を焼き付けるほどに、“先程の光景”をフラッシュバックさせました。パニックを再燃させました。身体がガチガチ震えるようで、脳がシェイクされていくようで、もう、自分がどんな形をしているかさえ、分からなくなったようで。
…挙げ句、私はその場で嘔吐してしまいました。
「なんで、よりにもよって、ラディカ様なの…?」
あぁ、今でもフィルムを眺めるように思い出せる。
目の前の狂気。ラディカ様の狂気。そして、伝染して私の狂気。
本当は思い出したくもない。
遺体の胎動。全身の蠢き。目の前で開かれる、不合理が過ぎる超常現象。首元、断面からポツリと生える、春先のつぼみのような”頭”の芽。そこに、どこからともなく現れた骨組みが足され、肉が足され、芽はスクスクと成長していく。骨、肉、脂肪、血、皮。内側から外側へ。徐々にグロテスクさを失っていく。やがて、毛と感覚器が完備され、芽は異形の欠片もない人間の最上部と化す。
開花する。
再生。
…ラディカ様の生首は、記念品としてシテの王立博物館に飾られていると聞く。ならば、目の前で顕現した“コレ”は、世に二つ目の生首なのだろう。
…有り得ない。有り得てたまるか。しかし、現に再出する血色。時が巻き戻ったように脈打つ身体。
不可能だ。どれだけ優れた回復魔術でも、損壊した死体の修復は出来ても、生命の修復は出来ない。“外層”は直せても、“内層”は治せない。それはもう、嫌という程に分かりきったことなんだ。
諦めたことなんだ。
死者は蘇らない。
それがこの世の理。
しかし、平然と始まる、遺体だったものの呼吸。
私は嗚咽を漏らして寝た。
四
…気分を害されたらごめんなさい。でも、これは事実なんです。ため息ついちゃいますよね。分かります。こんな奇跡が世に在るなんて、嫌だなーって思うけど、そう思ってる私が一番おこがましくて嫌。私も、そんな気持ちでした。
こんな手遅れなクソ希望、否定したい。でも、出来ない。
本当、どうしたらいいんでしょうね。
でも、神は薄情でケチだから、私に考え込む時間すら与えてくれません。私は、心許ないまま、決断を迫られました。
…迷った末、私は、翌日の予定のキャンセル、つまるところ、埋葬の取り止めを決めました。まさか、こんな状態のラディカ様を埋めるわけにはいかないと、倫理に従い、最終的に判断したからです。
次いで、私は、この異常事態をレジティ様にご連絡しようと領市監査本局に駆けつけました。しかし、どういうわけか、御方との連絡は叶いませんでした。今まではこまめに連絡取れてたのになんで…。
そのために、私は、身動きが取れなくなってしまいました。私はもう、この驚嘆と戸惑いを自分一人の胸だけに抱えたまま(…埋葬の報酬は貰えないまま)、悶々とするしか出来なくなりました。
しかし、御方の生命活動は健在で、生理現象も活発です。放置するわけにはいきませんでした。だから私は、“死人のように”お眠りになるラディカ様を、まるで寝たきりの老人のように介抱する日々しか、過ごすことが出来なくなりました。
あの日から、私はずっと不自由で、ずっと心に闇が落ちたようでした。
その生活は、三週間続きました。
しかし、それは今、終わりました。
…どうやって終わったの?って?
レジティ様と連絡取れたのかって?
いっそのこと生き埋めにしたのかって?
それとも、吹っ切れて介護殺人かって?
違う違う。
そうじゃなくて、そうじゃなくてね…?
なんでかな…
…貧乏だけど頑張る辺境無職闇シスターこと私、シャトー・ブリアンは今、突如お目覚めになったラディカ様に股間を蹴り上げられているんです…!!!
「んぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」
…王国の辺境、小教会に響き渡る、可憐で健気な修道女の野太い叫び声と悲鳴。
それこそが、死した悪女、ラディカ・ソロリス・セヴァディオス・フランの人生の続編の開始を告げるゴングであった。
──────────────────────────
【人物紹介】
『シャトー・ブリアン』
15歳。身長150cm。体重35kg。
恵まれない暮らしながら、愛に恵まれてすくすく育った。
愛用している修道服は少しオーバーサイズで、どこもかこも縫い跡まみれパッチまみれでボロい。
丁寧に整えられた自慢の金髪が腰元まで伸びている。愛嬌がある顔立ち。ほっぺがぷにぷに。目の下に努力のくまがある。砂岩のような赤黒い瞳の中は、キラキラとした夢で溢れている。白馬の王子様がマジでこの世に存在していると思っている。可愛い。
正直こっちを主人公にしたい。
『ラディカ・ソ(以下略)』
19歳。身長188cm。体重70kg。
ド美人。膝下まで伸びる超ロングな銀髪。性格を物語る釣り上がった目、碧眼。人の話を聞く気のない小さな耳。悪言と暴言を言うことに慣れた尖った口。ザ・女性な豊満シルエットに対して脳みそが幼稚。取って付けたですわ口調。
大体の願いが叶うけど愛もクソもない環境でぬくぬく育った。あらゆる努力から逃げてきた。快楽主義者。
白馬には乗ってないけど王子様が友達。面白半分でいきなりケツ蹴っ飛ばして泣かしたことがある。カス。残念ながらこっちが主人公。
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