第8話 これはロボットのコックピットだ!


「……ん……んん……」

 ゆっくりと目を開ける。まばゆい光を浴びた影響で視界がぼやけている。どこからか、ケルビアの声がした。

『大丈夫か』

「ケルビア?」

 その声は随分近くから聞こえた。すっと脳までダイレクトに伝わってくるその声は、まるでヘッドホンから聞こえているようなそんな感覚だった。

 段々と視界もクリアになっていく。ほのかは周囲を見渡し、その状況に戸惑った。

 複雑な機械や何に使うのかわからなレバーが所狭しと並べられている。目の前には大きな円形状のモニターがあり、周囲の映像が映し出されおり、所々道路がへこんでいるが、いつも見ている街並みがそこにはあった。

 ふと手元に固い感触を感じた。ボタンがついたレバーだ。まるでアニメでみたロボットの操縦桿だ。足元にはペダル。これまだアニメでみたようなぼビジュアルをしている。

「え、これって……えぇぇぇぇぇ!」

 思わず声がでた。間違いない。いつもシミュレーションだけはいっぱいしてきた。いつか乗りたいと思っていた。よくアニメで見るそのまんまのビジュアルだ。プラグスーツもファイティングスーツもパイロットスーツもきていない、パジャマのまんまだが、間違いない。

 ――これはロボットのコックピットだ!

 よく見るとモニターに文字が書かれている。

 ――コネクト完了……どういう意味?

『ほのか、聞こえているな』

「ケルビア⁉ これってどういう状況?」

『説明は後だ。一撃で決めるぞ』

 物騒な響きだが、先ほどケルビアが食らった攻撃を思い出すと、それぐらいの気持ちで挑まないとこちらがやられてしまう。

 ――あいつに勝たなきゃ後もないもんね……

 どういう仕組みかわからないが、レバーを握るとなぜか操作方法がわかった。まるで自分の身体を動かすように、レバーを動かし、先ほどのロボットを視界に入れた。

 そのボディは先ほど目の前に立たれたときより随分小さく見えた。その視界の高さから推測するにほのかの乗っているロボットは全長三メートル程だ。レバーを前に倒し、少し近づく。不思議なことに衝撃を全く感じない。相手のロボットも警戒しているのか、向こうから仕掛けてくることもなかった。まるで何かに怯えているようにも見える。

 そのとき、モニタからピピっと小さく音がなった。

『今だ、右手のボタンを二回押せ』

「え、これ?」

 言われるがままにほのかはボタンを押した。モニタに照準のようなものが映し出され、それが目の前のロボットを捉える。一度目のボタンで照準が合い、二度目のボタンで光が放たれた。

「うわ!!」

 先ほどロボットが放ったエネルギーを何倍にも増幅したような光。それが文字通り光の速さで飛んでいく。当たった瞬間は確認できなかったが、先ほどまでいた黒いロボットは既にどこにもいなかった。ロボットがいた場所はこれまた球体上にえぐられており、その威力の高さが伺えた。

「……はぁ……はぁ……これでよかったの?」

 全身を疲労感が襲う。急に息が上がってきた。

『あぁ、上出来だ』

 瞬間、周囲を包んでいた霧がパァと晴れていく。それと同時に複雑な機械たちも光の粒子となり、またほのかを包み込んでいった。

 ――もう、今日こんなのばっかだ……

 ふと足元の感触が変わる。固い地面をスニーカーで踏みしめている。手にはケルビアを抱えて。周囲を見渡すと先ほどのロボットとの戦闘の跡はどこにも見られず、全てが元通りになっている。穏やかな土曜日の朝だ。球体上に削れた地面もすっかり元通りになっており、まるで先ほどまでの出来事が全て夢だったんじゃないかと思えてくる。

『夢ではないぞ』

「心の声につっこみをいれるのやめてくれる?」

 ほのかはそう言いながらケルビアの身体をぺちぺちと叩く。先ほどへこんでいたボディもすっかり元通りになっている。そこには綺麗な丸みがあり、ほのかは安堵した。

 しかし疑問は残る。あの黒いロボットはなんなのか。先ほど自分が乗ったロボットは何なのか。何故、街並みやケルビアの傷が元通りになっているのか。そもそもケルビアは一体何なのか。

 ――まったく、わからないことだらけだ……でもロボットに乗って戦うのは少し、わくわくしたな……あ、あれ……?

 足から力が抜けていく。恐怖と緊張かた解放された反動か、身体中に力が入らない。ほのかはその場に再びぺたんとへたり込んでしまった。ほのかは深いため息を吐く。

「……せっかくの休みだったんですけど」

『それは悪かった』

「いいよ、自転車は明日持っていくか―……でもちゃんと説明してよね」

『わかった。ほのかが理解できるかはわからないが、善処する』

「今のは完全に馬鹿にしたよね」

 相変わらず感情に乏しいケルビアの態度を見て、なんだかおかしくなる。昨日の土砂降りが嘘だったかのような快晴が頭上に広がっていた。そのどこまでも広がっていく大空の下、同級生であんなロボットに乗ったことのある人間はいないだろうなと思い、まるで自分が主人公になったような、そんな気分をほのかは感じていた。

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水出ほのか、十五歳。神社でサイバーフレームを拾う。……いや、サイバーフレームって何⁉ との @tenmaruuuuuu

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