第0話【2】

 君と出会ったのはなんてことのない日だった。


 暑くも寒くもない日。


 君は花を世話しながら「まぁ腰掛けるといい」なんておもむろに紅茶を淹れだした。

 美しく映ったものだから、と思わず声を掛けてしまう。所謂、不可抗力と言う奴だ。


 君は目を丸くさせながら渇いた声で「ありがとう、嬉しいよ」と紅茶と共に花を差し出してきた。


「いい匂いだろう?」

「……まぁ」

「釣れないねぇ」


 頬杖を付きながら君が言う。


〝そんなじゃ、車掌じゃなくて唯の子供にしか見えないよ〟と。


 余計なお世話だと思いながらも何故だか目が離せなかった。目が離せなかったのは君が花を大切に眺めていたから。


 まるで花を誰かに見立てているかのような。


 そんな表情かおで見つめるものだから。


「──ご馳走様、また来るから」


 カタンと椅子を引き、君から離れようとした。君は引き留めようとはせずに「またのご来店をお待ちしております」と言って扉を開けた。外では星が命を燃やしているかのように瞬いていた。

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