第10話


「だから言ったろう?僕は『車掌』だって」

「あっ!」


 響の脳裏に駆け巡る少年との会話の数々。


 今まで不透明だった欠片ピースが嵌っていくのが分かる。


 そうか、そう言う事だったんだ──。


 響を労りながら想い人が少年に礼を言おうとした。その時だった。トンッとかかとを響かせた響が前に出たのは。


「…ありがとう、小さな車掌さん。私を、彼の元に届けてくれて」


 少女の言葉を少年は何を言うでもなく聞いている。やがて春の桜のような笑みを湛えながら礼をし、言ったのだった。


「星空列車をご利用頂き、誠にありがとうございました。どうかその手を離さいませんよう」


 少年の言葉に二人は顔を見合わせると笑う。

 まるで痛みなど知らないと言うふうに。


 二人は並び、漂う。暗い海の底で。


 けれどふたり一緒だから寂しくはないねと笑うだろう。少年はそんな二人を思いながら花を贈る。寂しくはないようにと。


 心を込めながら。ふたりの、……いいや。

 還っていった者達の『幸』を願いながら。

 何度でも。願うだろう。


 星が、幾重にも瞬くように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る