第8話


「ど……して……?」


 泣きそうになりながら、訊ねる。

 少女の問いに目の前の男──否、想い人は微かに笑うと、答えた。


「響は正義感が強いから。だから悪いのは俺だってちゃんと言わなきゃなって」


『悪いのは俺だって』。


 と言う言葉に肩を跳ねらせた。

 瞳はひび割れたように揺らめいている。


「……がう」

「響…違くない。だってあの日、俺は──」


『心から願って落ちたんだから』


 風が二人を攫ってゆく。


 海よりも深い、沈黙。


 心が軋み、口から言葉では無いものが出そうだと思った。けれど、それでは駄目だ。

 駄目なんだと必死に塞き止めるも、溢れきってしまった想いは止まらないのだと悟る。

 そうして次に出た言葉は想い人を傷つける為の言葉だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る