第5話


「本日は星空列車にご乗車頂き、誠にありがとうございます。間もなく発車致します。危ないですので白線までお下がり下さい」


 少年の車内アナウンスに心を踊らせているのか乗客は皆、嬉しそうに笑う。

 少年はそんな乗客達を見渡すと車掌室へと入って行った。唯一人、恐怖の淵に立たされた少女は力の入らない手を握り締め、窓に視線をやる。外には漂う雲と星が少女を元気づけるかのように瞬いている。


 だが元気など到底出る筈もなく。

 少女は重い溜息を吐くばかりだった。

 やがて扉が閉まり、機械音が轟いてゆく。


 いよいよ、出発するのか。


 乗客は皆、矢張り心を踊らせている。

 中には涙を浮かべている者もいる程。

 ゆっくりと発進してゆく列車。めくるめく景色。 どれも幻想的だ。

 しかしそれでも少女の心は晴れない。鉛の如く重いまま。映る景色を見ても満たされない。あんなに乗りたいと焦がれていた列車だと言うのに。一体、どうしてしまったと言うのだろうか。


「……断ち切れない」


 ふと少年が放った言葉を呟く。


『断ち切れない』とは。


 何を示すのか。大方、想像はつくが断ち切っている筈だ。なのにどうして──。


 きゅっ、と返して貰った切符を握り締めながら考える。けれどいくら考えても分からず。

 握り締めていた切符を眺めようと開いた瞬間、息を呑んだ。

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