第4話
「嘘……」
少女は漸く合点がいったのか、掠れた声で訊ね出した。少年は矢張り何も言わずに笑みを浮かべている。言いたい事が、聞きたい事が沢山あるのに言葉が出てこない。少女は再び唇を噛み締め、俯いた。
だが俯いたのが間違いであったと気付くのである。少年の髪が視界に映ったからだ。
「顔を上げて。大丈夫だから」
「……信じたくなかった」
少年の言葉に答え、聞きたい事があると意思を持っていた筈だった。それなのに。
少女は後ずさりながら椅子へと腰掛け、か細く息を吐いているではないか。そうして少年を見つめると続けて言った。
「貴方が車掌なんて、信じたくなかった」
言葉とは裏腹で中身を開けるまで分からない鍋である。少年は黙って少女の言葉を聞いていた。やがてバツが悪そうに視線を逸らすと聞こえるか聞こえないかの声で謝罪した。
「騙していた訳じゃないんだよ」
その声が少女に届いているかは怪しい。
少女は少年を見ることなく、続ける。
「なら、どうして」
『どうして』と少女は吐いた。──筈だった。何故、筈だったのかと言えば。
その先を少年が紡いでしまったから。
それに過ぎない。
「どうしてなんて野暮な質問をするね」
嫌いじゃないよと言う少年の瞳には光がない。
「それ、は」
「分かっている筈だ。ここは〝断ち切れない者〟が乗る列車、そして僕は車掌だって」
少年の瞳が少女を捕らえた。
少女の額からつうと汗が一筋、流れる。
自分の勘を信じるべきか、この少年を信じるべきか。倦ねていたからだ。沈黙が少女を包んだ。後にはもう引けないと始めから理解していた。理解していたからこそ、乗車したと言うのに。
──怖い。
明確なる恐怖が少女を襲い、這った。
しかし、這っていたのは恐怖だけではないと悟るのである。この少年から漂う雰囲気は常人の『雰囲気』とは違う、何かであると。未だあぐねている少女を前にしても動じない少年、その瞳が見据えているのは少女か、それとも空か。溜息を吐き、少年は少女を一瞥した後、車内を歩き出すと共に告げた。
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