とある旧放送部の日常2 〜もはや実家のような安心感〜


「大丈夫だって。ちゃんと真面目に書いたやつもあるし」

「そうだぞ。今のはオレたちなりの照れ隠しというやつだ」

「……ほんとだろうね?」


 俺たちにジト目を向ける更級。

 

 そして、また紙をめくった。


『さらっち』


「おお、これはかわいいかも……確かに真面目に書いたやつもあるみたい──(ペラッ)」


『洋モノ』


「ちょっと!? これどういう意味!? 絶対アウトだよね!? 私17だよ!?」

「洋モノってなんだ? 俺にはさっぱり……」

「さあな、オレも……」

「カマトトぶるなぁああ!」


(この意味分かるってことは……)

(我が妹は純粋無垢に見えるけど意外とそっちも……)

((ああそうか、留学してたんだからむしろ──))


「そこぉ! 目で会話しない!」




 ◇




「はあ、はあ、ようやく終わりが見えてきたよ……」


 テーブル上にはあと2枚しか残っていない。


 ここまで色々な案が出てきたが、どれもいまいちピンときていないご様子。


(意外に更級も打たれ強くってなってないか?)

(オレたちと一緒にいることが慣れたからだろうな。まだ泣き出す気配が見られない)


 更級は残り2枚のうち片方をめくると──


「誰!? これ書いたの!! これだけは絶対に突き止めるから!! 絶対根に持つからね!?」


 涙目で叫ぶ更級。彼女の手に握られた紙には──


『ぼっち』


「……」

「……」


「絶対逃がさないからね!」


 部室の扉の前で腕を組んで立ちはだかる。


「さあ! 不届き者は名乗り出るんだ!」

「……」

「……」


(二宮、ここは……)

(分かってる、必勝法を使うぞ!)


「オレたちは黙秘権を行使する」


 ──黙秘権。

 それは沈黙を理由に不利益を被ることはないという権利であり、国際的に認められている権利である。


「そう来ると思ったよ。でも何もしゃべらないんだったらずぅーっとこのままにらめっこだよ?」


 完全な膠着状態というわけか。


「どんな理由があっても名乗り出るまでは絶対にここを通さないからねっ!! 絶対だから──」

「あ、俺そろそろ委員会の時間だわ。ちょっと通して」

「え、そっか、ごめんごめん──ってそうはいかないよ!?」

「いやでも行かないと」


 無理やり押し通ろうとする。


「だめ! 絶対逃がさないから!」

「でも怒られるの俺なんだけど……」

「あとで一緒にごめんなさいしについていくから! それでいいでしょ!?」

「母親かよ」


 大人しくテーブルに戻る。


「じゃあ、これを書いた人、挙手!」

「……」

「……」


 当然どちらも手を上げない。


(白崎、分かってるだろう?)

(ああ、黙っている限り情報は全く引き出せないからな。黙秘を続行するぞ!)


「ふーん、それなら私も条件を出すよ。私には分からないけど二人はどっちがこれを書いたか分かってるんでしょ? 書いてない方は書いた人をかばって黙っているってことだもんね!」


 その通りだが、どうする気だ……?


「黙っているのも罪だからね、どっちがこれを書いたのか最初に教えてくれた人を許すことにするから! 最後まで黙っていた方を一生恨むから!!」

「「なっ!?」」

「ふっふっふ……どうやら動揺が隠せないようだね!」

「さあ! 白状してっ!」


 勝利を確信して高らかに宣言する更級。


 正直この手は全く予想できなかった。

 流石だよ更級。

 お前はいつだって俺たちの予想のななめ上をいく大物だ……!


「「……」」

「どうしたの!? 早い者勝ちだよ!」

「「……」」

「え、ちょっと、ねえ……」

「「……」」


 ──誰も名乗り出なければ、最初も最後もないということに気が付かなかったのだろうか?


「うぅ……仲間割れを誘ういい作戦だと思ったのに!」

「甘いぞ更級。俺たちが仲間を裏切るわけないだろ?」

「そうだ、オレたちは仲間を見捨てない!」

「私もその仲間だよね!? 思いっきり見捨ててるよね!?」


 黙秘の前にはいかなる情報も引き出せないのだ。


「もういいもん!! こうなったら二人とも犯人だ!」


 ──更級がとんでもないことを言い出す。


「おい待てよ!?」

「それは横暴だろう!?」

「疑いがあるんだがら“疑わしきは罰せる”でしょ?」


 ……いつのまにか日本は法治国家じゃなくなっていたらしい。


「更級が理数科みたいなこと言ってんだが」

「妹よ、それはきっと”疑わしきは罰せず”だ……」

「もういいよ! なんか疲れちゃったし犯人探しは諦めるよ……」


 更級はテーブルに突っ伏してうなだれた。


「やっとお前の頭でも勝ち目がないことが分かったか」

「そう言うな白崎。妹はこれから賢くなっていくんだからな」

「……あたし年上なんだけど」


 もはやその年上設定も怪しいところだ。

 中学生でも違和感ないかもしれない。


(そういえば二宮、お前はなんて書いたんだ?)

(ん? そっちの話だろう?)

(え……)


 ……


「じゃ、じゃあ俺! 委員会行ってくる!」

「オ、オレも! 今日はこれで帰らせてもらう!」

「え? 二宮君も? う、うん。じゃあ、また明日ね」




 ◇




 ──白崎と二宮が部室を去った後。


「あっ! 忘れてた!」


 更級はテーブルの上に残った最後の1枚の存在に気付く。


「もう1枚あったんだ……これはどんな──(ペラッ)」



『ぼっち』



「Guilty!!!!」


 更級裁判長から判決が下された。




─────あとがきのこーなー!──────

part1


「懐かしのコーナーだな……!!」


『妹たちよ……久しぶりだぞ!!』


「リスナーの声援に応えるべく久々の新作!」


『妹たちからの愛がizumiに大きな影響をもたらす。どんどん感想をよろしく頼むぞ!』


〈今後もこんな感じで更新していくから、フォローしてない人は絶対フォローだよ!!〉


「……」


『……』


〈……なんで黙るの!?〉


「いや……」


『いるのだなあと……』


〈あとがきでも仲間外れは駄目だと思うな!〉


「おいおい、このコーナーは、箸にも棒にもかからない無名時代から俺たち二人が頑張ってきた場所なんだぜ?」


『やはり下積み時代を分かち合った者にしか分からんものもあるということだ』


〈ねえあたしも混ぜてよぉー!〉



part2

「……(何このメンツ……)」


『……』


〈……〉


「あ、あの……どうしてここに?」


『……随分白々しい事言うじゃん。大事な話があるから帰ってきてって言ったよね?』


〈ソラさん、わたしも来週のゲストとして告知してますのでお忘れなく〜〉


「ま、まあ、それはおいおい……」


『……へえ?』


〈お待ちしておりますね〉


「……(いてほしい時にあいつ更級いねえな!?)」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る