第4回放送 〜ラストダンス〜 2


「あとリスナー、いきなり大嘘は早いって……こういうのは徐々に真実に嘘を混ぜ込んでいくパターンじゃん? こいつアホの娘だから大嘘でもすぐ信じちゃうけどさ」


『え!? 今の嘘だったの!?』


「たりめーだろ」


『…………』


「ほら……! リスナーがいきなりぶちかますから、更級引いちゃってんじゃん……久しぶりの放送だからってテンション上げすぎだって。もうちょっと手加減してやんないと……」


『いや──むしろ白崎くんのアドリブ力に引いてるんだけど……』


「そっちに!? ……まあいいや、じゃあ次のメッセージは俺読むわ……CN:”cubeのサインが欲しい”から』


『そんなに人気なんだ……』


「【紅葉ちゃん! 私がso cubeの概要を教えてあげますね!】」


『それは助かるけど……次は嘘じゃなくて本当だよね……?』


「【まずはパーソナリティの一人がリクさんです。cubeの代表を務める彼は全国に散らばる全妹に愛を注ぐ熱い男です! 過去にcube公式SNSに投稿した写真がイケメン過ぎると話題にもなり、全国に彼のファンがいます】」


『これは本当っぽい……! 二宮くんのイメージ通りだもん』


「【そして、次はcubeのブレーンを務める、我らが参謀、闇堕ちロリコンことソラです。彼に敬称は不要。雑に扱えば扱うほど、不思議な魅力が燦然と輝く柊木学園が誇る逸材です】」


『ひどい言われようなんだけど……これほんとかな……?』


「【彼は旧部OBに放送中に土下座させたり、全国放送のラジオに急遽出演したり、さらには1対1000のリアルファイトなど、数多くの伝説を残しており、先日のあやのんのラジオの出演を機に、柊木のおもちゃから全国のおもちゃへとクラスアップを果たしました。彼の悲痛な叫ぶ姿が見られる回=神回という等式が常に正となり、放送時には笑いの神も毎回降りてくるのがめんどくさいのか、もう常駐しています】」


『いやいや……これは嘘でしょ、流石にちょっと現実離れしてて騙されない──って白崎くんがさめざめと泣いてる! えっこれほんとなの!?』


「……【ちなみに、これまでの放送で彼の残した語録が有志たちの間でWikiにまとめられており、その一部を紹介すると、3年生全員に言い放った

”お前らなんて全員、寿命で死ねばいいのに”

や、あやのんに心境を聞かれた時に放った、全国の度肝を抜いた伝説の第一声

"率直に言うと──帰りたいですね"

他にも──】ってなんだよこれ!? めちゃくちゃいじってんじゃん!?」


『……参謀って大変なんだね。でもこんなに仲間内でいじってもらったら皆と仲良くなれそうでいいなあ……!』


「いじるってそんな生易しいもんじゃねーんだよなあ……仲間どころか敵としか思えない」


『そうかな? だって昨日の敵は明日の友って言うじゃん!』


「じゃあまだ敵だな」


『あれ? なんかおかしい……?』


「おっ、紅葉ちゃんに質問が来てるぞ。CNはねーな」


『質問?』


「【cube新メンバーの紅葉ちゃんの性格を知るために心理テストをしたいです! いいでしょうか?】」


『それぐらいなら全然いいよ』


「【あなたの恋人と親友が目の前で溺れています。どちらか一人しか助けられません。あなたなら──どちらを選択しますか?】」


『うわあ……どうしよ……!』


「【紅葉ちゃんなりに真剣にその状況を想像して考えた答えを聞かせてください】だってよ。まあよくある質問だな。で、紅葉ちゃんの答えは?」


『うーん……うーん……』


「だいぶ迷ってんなあ……お前ほんとに律儀っていうか真面目だよな……! この時点で性格伝わってると思うわ」


『だってその状況を想像してって言われても、ちょっと現実味がなくて難しいんだもん!』


「いや真面目か!」


『だってぇ……』


「まあ確かに知り合いが目の前に溺れている状況なんてないから、状況を想像しづらいとは思うけど」


『そうそう──恋人も親友もいないからその状況が想像できなくて』


「……」


『……』


「……心理テストってそんな人間の闇をあぶり出すテストじゃないから」


『に、人間の闇ってひどい……! じゃあ白崎くんだったらなんて答えるの!』


「俺? いや別にこれお前への質問だから……」


『【あなたの恋人と親友が目の前で溺れています。どちらか一人しか助けられません。あなたなら──どちらを選択しますか?】 ほら答えて! ほら早く!』


「愚かだな……状況を真剣に考えたら正解は一つだってのに……」


『……え?』


「溺れてるってことは多分海とかじゃん? で、そこに恋人と親友どっちも溺れてるんでしょ? 俺が溺れてないってことは、俺はその2人と一緒に行動してなかったってことだろ?」


『うーん、まあそんな感じだとは思うけど……それ重要?』


「重要だって。その時点で答えもう出てる」


『どゆこと?』


「いやだって、もう完全にこれ浮気現場に居合わせてるでしょ」


『……』


「状況的にこんなの絶対、俺に隠れて二人でイチャコラ海デートしてんじゃん。もう言い訳しようがないほどのクロでしょ。怪しいなと思って2人を泳がせてみたら、まんまと逢瀬を重ねて溺れたという……なんとも良くできた話だな」


『考えすぎでしょ! あと最後はちょっとだけ上手い!』


「これは簡単な心理テストに見せかけて、いかに物事の本質を捉えているかを試す問いかけだったってわけだな」


『いや真面目か! 真剣に考えすぎだって!』


「俺を薪として燃え上がった二人の愛を冷ますにはちょうどいい仕打ちだな。というわけで選択としては、なぜ一緒にいるのか尋ねる、というのがこの問題の正解だな」


『違う違うこれ心理テストだから! 正解とかじゃないから!』


「な、まさか違うだと……じゃあ、溺れていた二人をなんとか助けた後、それでも意識が朦朧としている二人の意識を確認するのが正解ってわけか」


『……なんでそうなるの?』


「二人の意識を確認するために俺は大声でこう呼びかける──

”意識ありますか!──浮気の意識、ありますかー!”と」


『紛らわしい! あとさっきから絶妙に上手いのが腹立つ!』


「まあ正解はこんなとこだろ。これが正しい心理テストの答えだな」


『……心理テストってそんな人間の闇をあぶり出すテストじゃないから』


「一字一句違わぬ言葉を返された」


『ほんと白崎くんはしょうがないね。やっぱりお姉さんがついていないと』


「ってか俺の話はいいんだよ。今回の放送の趣旨がブレないようにしねーとな」


『……放送の趣旨?』

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