革命前夜。
……凛の乱入という思わぬハプニングにも見舞われたが。
今思えば、突如始まったso cubeも全てはこのためにあったのかもしれない──というのはさすがに言い過ぎかもしれないけど、まあでもそんな意味を無理やり見出すことはできると思う。
さて──これからしようとしていることはso cubeがあって初めて成り立つ行為だからだ。
──結局のところ、更級の閉塞した状況を打開するのはとても簡単。
ただシンプルにクラスメイトに更級さらという人間の
別にクラスでいじめられているわけでもなければ、無視されているわけでもない。
──更級と同じクラスの知り合いに、「更級ってどんな感じの人?」って聞いてみたら
「……すっごい大人しい美人さんって感じ?」
……果たしてそれは誰の話をしているのだろうと耳を疑った。
「ちなみにそいつ、バカだったりしない?」
「いや、どっちかって言うと頭良さそうだけど?」
「ますます怪しいんだが……そいつ、金髪でサファイアみたいなキレーな青い瞳してるよな?」
「それはあってる」
という言葉を聞いて初めて、どうやら本当に更級のことを言っていると確信が持てた。
きっとシンプルに、突如クラスに編入してきた相手にどう接していいか分からずに、みんな様子見してしまっているだけだと思う。
しかも学園長の孫って言われたらちょっとビビるのもわかる。
正直なところ、更級が抱える悩みはきっと何か一つでもきっかけがあれば、ごく自然な形でいつの間にか解決してるような問題の類だ。
後から振り返ってみるとなんであんなことに悩んでたんだっけ、みたいな感じであきれて笑うか、悩んでいたことすら忘れているかのどっちかだろう。
学生時代の友人関係の始まりのきっかけを全て覚えている人はいないし、一緒の空間にいるだけでなぜか仲良くなれてしまうのも学生時代の特権だ。
でも──ぼっちと言われて思わず泣き出してしまうほど、更級はこの現状に苦しんでいるという事実。
泣いている人を見たら、誰だって手を差し伸べたくなるのが人情ってやつだ。
……とはいえ、これからすることはただの自己満足なんだけど。
天真爛漫で金髪碧眼の美少女なんて。一緒におしゃべりしてみたい女子やお近づきになりたい男子もいるはずだ。
本来なら部活だとか学校行事だとか委員会とか、そういった共通する体験、もしくは同じ状況を作ってあげるのが一番良いと思うが、あいにくそんな都合のいいものはない。
──しかし偶然にも俺の手札には、少々手荒だが、確実で即効性がある良いものがある。
というわけで更級には──クラスの人がつい哀れんで話しかけたくなるような、かわいそうな被害者になってもらおう。
そして、被害者がいるということは──当然加害者がいるわけで。
今回において加害者はもちろん俺になる。
……これは良い機会だ。
自分で言うのも何だが、so cubeで勝手に表舞台に駆り出されて、あれよあれよという間に放送をやってきた結果──俺の意思とは関係なく、cubeの参謀のソラというキャラクターはリクに負けず劣らず、なかなかの好感度になっていると思う。
そして、謎に上がってしまった好感度の使い時が今なんじゃないかと思っている。
好感度の牢獄に囚われて身動きが取りづらくなるくらいなら、好感度なんてない方がましだしな。
ここらで好感度調整しておくのも悪くない。
──ピーンポーンパーンポーン……。
『お知らせします。旧校舎の耐震工事につき……』
あらかじめ更級に頼んでおいた、偽のお知らせ放送が始まった。
「いよいよ始まったか……!!」
……。
──ドクン……ドクン……と胸の鼓動が一段と早くなるのを感じる。
この放送は旧校舎から新校舎に向けた放送となっている。
以前、更級が旧部に入部する前に新校舎に向けてやっていたお知らせ放送は、新部から放送していたものだ。
だが今回は旧部から新校舎に向けて放送を行っている。
新部と旧部はそれぞれ新校舎と旧校舎で活動範囲も分かれているが、実際には互いにどちらの校舎にも放送することができる。
今回の旧部による新校舎への放送はあきらかなルール違反なので、後で新部から色々と文句を言われるだろうが……まあその時はその時だろ。
「ふう……」
軽く息を吐いて、呼吸を整える……。
so cubeアカウントの放送告知に、雪乃宮先輩づてにかつて更級とクラスメイトだった2年生への情報共有など、やるべきことはやった。
後はもう──マイクの前に座ってバカ話をするだけだ。
ってか冷静に考えてみればただバカ話するだけなのに……話す内容とか構成わざわざ考える必要なくね?
……。
いや、まじでほんとそうだわ。
俺はなんて愚かなことをしてたんだろう。
これまでの3回の校内放送と来崎さんのラジオ突撃の経験で学んだはずだ。
──こんなもんは頭を使った方がバカを見ると。
どうせ制御不可能なんだから、必死に準備したものでフル装備で挑むより、その場の流れに身を任せて着の身着のままでやったほうがいい。
というかそっちの方が楽しいに決まってんじゃん……!
ノープラン、アドリブ、出たとこ勝負──めっちゃ良い響きじゃんかよ……!!
……そういえば『あやのんと!』に出る直前もこんな感じだったかも。
この……もう何がどうなってもいいような、足元がおぼつかないほどの高揚感……!
そして、徐々に頭のネジが飛んで無茶苦茶な思考回路に染まっていくこの感覚……っ!!
「よし……いっそぶちかますか!!」
懐かしい胸の高鳴りとともに──俺は勢いよく放送室のドアを開けた──
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