兄と妹の兄妹喧嘩 3


 これは……一体どうなったんだ……?


 先生が戻ってきたので自由時間は強制的に終了となったわけだが……クラスメイトの様子が不気味だ。

 誰も何も言葉を発していない。


「よし、じゃあ前回の授業で教えた加法定理の語呂合わせ、覚えてる生徒は手を上げてくれ」


─────────────────────

sin(α+β) = sinαcosβ+cosαsinβ

─────────────────────


 そ、そうだそうだ。数学の授業中だったんだ。

 頭を切り替えないと。


 慌てて俺は手を挙げる。


「おっ、じゃあ白崎、言ってみてくれ」


 えーと、確か加法定理の語呂合わせは──


sinαcosβ咲いたコスモス+cosαsinβコスモス咲いたです」

「正解だ──ってお前らどうした?」


 なぜかクラスメイトたちが、手を下げずに上げ続けている。


『先生、もっと良い語呂合わせを思いつきました』


 と、手を上げているクラスメイトの一人が発言した。


「おお、なるほど、より覚えやすい語呂合わせがあるということか?」

『はい』

「いいだろう、覚えやすかったら今後はそちらを採用しようじゃないか。言ってみろ」

「はい──sinαcosβ白崎コロス+cosαsinβコロセ白崎です」

「おい待てやコラァ!!」


『先生、さっき白崎くんが凛たんに会えて興奮してました』

『先生、さっき白崎くんが凛たんと手を繋いでました』

『先生、白崎くんのことが妬ましいほど殺したいです』


「聞いたことない表現だけど意味は切実に伝わってきやがる……!!」


 だが、こんな暴挙は流石に先生が──


「語呂合わせはインパクトが何より重要だからな。採用しよう」

「──先生!? インパクトよりも生徒の命が重要では!?」


─────────────────────

sin(α+β) = sinαcosβ+cosαsinβ

─────────────────────


「では、こちらの語呂合わせは覚えているか?」


cosαcosβコロセコロセ-sinαsinβシラサキですね』

『いや、cosαcosβコロスコロセ-sinαsinβシバくシバけじゃなかったか?』

『待て待て、cosαcosβコロスコロセ-sinαsinβザキザラキの間違いだろ?』


「うーん……どれも捨てがたいな……」


 ──俺はすっと手を上げた。


「先生、ちょっと頭痛が痛いので保健室行ってきます」



 そうして俺は逃げるように──教室を飛び出した。



 ──あとで高橋先生は滅茶苦茶怒られたとか。

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