兄と妹の兄妹喧嘩 1
俺の真後ろに立っていた彼女は、元々均整の取れた顔立ちがナチュラルメイクによって更に際立っていて、凛々しさを感じさせる大きな瞳とそれを縁取る伏せられた長いまつげの組み合わせが、どこか神秘的な儚さを醸し出している。
そんな彼女の服装は透け感のある黒のブラウスに、ふんわりと広がってフェミニンなシルエットを浮かべるシックなフレアスカート。
そしてなにより薄鈍色の綺麗な編み込み髪に目が奪われる。
どこか西洋の彫刻のような気品ある美しさを感じさせる佇まいから一転、一度微笑みを浮かべれば打って変わってまるで満開の桜のような温もりのある優雅さを放つ。
なんだろう、この……まるで物語からそのまま出てきたような完全無欠な完璧美少女兼──妹の姿は。
(以上、『兄と妹の未来 3』から抜粋)
『おおおおおお!!!』
『まじかああああ!!』
『生で見ると100倍可愛いんだけど!!』
『やべえええええ!!!』
クラスメイトは総立ち。
とんでもない熱狂の渦に包まれる。
二宮を見ると「生凛たん……神は実在したのか……!!!」と、なぜか号泣しているが、今はそれどころではない。
俺の真後ろ2mほどのところに……巨大な爆弾を抱えた美少女が静かに佇んでいる。
……とにかく落ち着け。
考えろ。
冷静になれ。
やばい。
死にたくない。
とにかく……頭を動かせッ!!
この状況──立ち回りを誤ったら即死。
些細な失敗も許されない。
今はただ──この死線を乗り越えることだけに集中しろ!!!
集中。集中。集中……。
……。
……。
……。
すると、世界の
これがゾーンってやつか!
よし、これから俺はどう立ち回るべきか──
──深い思考の果てに数千、数万通りのシミュレーションを終え──俺はこの場における正解を導き出した。
よし──やるしかねえ!!
覚悟を決めた瞬間──止まっていた世界が動き出す。
とにかく最初が肝心──
「──神月さんの兄って誰なんすか!? 教えて下さいよお!」
俺は大声を張り上げる。
クラスメイトに会話をさせるとまずい。
だが流石のクラスメイトも、いきなりの生の神月凛に「うおおお」とか「やべええ」とかしか言えていない。
芸能人に話しかけよう、という一つステップを登る決心がつく前に──俺が適切に会話を主導してこの場を処理する!!
「俺たち凛さんの兄が羨ましくてぶっ飛ばしたいんすけどお! 全然口を割らなくて困ってるんすよ! だから誰か教えてください!!」
……保護者の方々が引いているが、そんなものは命に比べれば安い。
こんなことを言えば、おいそれと凛は自分の兄が誰であるか明かしづらくなる。
自身のイメージを損ねるからだ。
それに、あえて問いただす側に回ることで暗に俺は神月凛のお兄ちゃん候補から外れるという、この完璧な立ち回り──
「え? なに言ってるのおにi──」
「──いいいいいyeah!!」
…………こいつっ!!!!
とぼけ顔で容赦なく俺の逃げ道を叩き潰そうとしてきやがった!?
性格悪っ!?
とっさにyeahって大声で叫んだせいで、訳わかんないパリピみたいになりましたけど!?
どうしよこの空気…………。
……。
……。
『白崎のやつ……凛たんが好きすぎて壊れちまったか』
『あんな至近距離であの可愛さを食らっちまったら無理もねえよ』
よかった……クラスメイトたちが都合の良い解釈をしてくれている。
バカで助かったぜ……。
『あ、あの……凛さんの兄がこのクラスに居るっていうのは、ほ、ほんとですか!?』
クラスメイトの一人がついにその質問をぶつけた。
すると、凛は気前よく愛想のいい笑顔を振りまきながら、
「ええ。いつもうちのりku──」
「──うううううyeah!!」
…………こいつっ!!!!
今、凛空って言おうとしてやがった!!
……2回目のS・トリガーともなれば、言葉に合わせて片手を天に突き上げるくらいには余裕があった。
『白崎……気持ちはわかるがちょっと落ち着いてくれよ?』
『お前の興奮は十分伝わったから』
クラスメイトが俺を見て若干引いているが、先程の質問に対して気を逸らすことは成功したようだ。
『ちなみに凛さんは兄のどんなところが好きなんですか!』
と、クラスメイトからの質問が飛んでくる。
凛の兄へのガードが固いとわかった途端、ちょっと角度を変えた問いかけになっているが、実質的には兄が誰かを絞ろうとしている魂胆が透けてみえる。
これは危険な質問だぞ……!
「そうですね……照れ屋なんですけど、なんと意外にも校内でho──」
「──おおおおおyeah!!」
…………こいつっ!!!!
今、校内で放送って言おうとしてやがった!!
そんなの実質答えなんだが!?
そしてもう3回目ともなれば、両手を天高く突き上げるポーズもバッチリ。
おかげで完璧なカモフラージュになっているはず。
『白崎……興奮しすぎだからちょっと黙ってくれるか?』
『お前……興味ないふりしてそんなに凛たんのこと大好きだったんだな……』
『お前も同志だったか』
……なんかもう後戻りできない橋を渡っているような気がするのは気のせいだろうか?
けど──この命には代えられないんだっ!!
しかし……流石にこれ以上凛の答えを遮るのも不自然。
ぐっ……もう俺の生殺与奪は凛さんのご機嫌次第。
凛がその気になれば、俺を煉獄の底に蹴落とせる状況。
もう……俺に打つ手はないのか……?
仮に、凛がこの場で俺が兄であることをバラしたら──いや、そんな事を考えても意味がない。
文字通り俺の人生が終了するだけだ。
──そんな俺をよそに、凛は優しく笑いながら、
「いつもうちのお兄ちゃんがお世話になっております」
と、頭を下げたその時──
「──メッセージ見て」
一番近くの俺だけが唯一聞き取れるぐらいの声量で、確かにそう言った。
どうやら他の生徒には聞こえていないようだ。
メッセージ……?
スマホのメッセージを確認しろってことか?
『お兄ちゃん思いの凛たんかわええ……』
『てえてえ……』
『兄殴りてえ……』
興奮冷めやらぬクラスメイトたちのリアクションを横目に、俺は自然な素振りでポケットからスマホを取り出して覗き込む。
……一体どんなメッセージが来ているんだ?
──スマホのメッセージアプリを開くと、授業が始まる直前にメッセージが来ていた。
※少し更新が遅れがちですが、何卒ご容赦を……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます