更級さらのお悩み
──旧校舎。部室にて。
「「クラスに友達がいない?」」
更級の告白に俺と二宮は素っ頓狂な声を出してしまう。
ちなみに部室では眼鏡とパーカーは装備していない。
こちらが素ということだろう。
「……なんでそんなことになってんの?」
「リクおにーちゃんが相談に乗ってやろう」
「あ、ありがと……」
……更級レベルの女子を女子はともかく男子は放っておくか?
碧眼金髪美少女(巨乳)ってだけで最強だと思う。
少なくとも理数科なら放っておかない。むしろ更級をめぐって血の雨が降ることは確実。
「お前1年留学行くほどコミュ力絶対高いわけじゃん? 誰とでも仲よくなれるタイプだろ?」
「留学帰りで9組に編入してから数日しか経っていないとはいえ、すでに友達の一人や二人いるのが普通だろう?」
既に9月中旬。
2学期が始まってしばらく経っているが、クラスの新入生にとっては最初が肝心なことは言うまでもないだろう。
最初にすんなりとクラスに馴染めれば問題ないが、時間が経てば立つほどどんどん馴染むのが難しくなってくる。
「あたしだって分かんないよ! 留学は誰とでも仲よくなれたのに……友達ってどうやって作るの!?」
ちょっと涙目で叫ぶ更級。
「ちなみにさ、クラスメイトからはなんて呼ばれてんだよ?」
「“更級さん”」
「おう……」
「妹よ、クラスメイトの言葉遣いは?」
「敬語」
「oh……」
(なかなかの距離感っぽいぞ……まあ一応年上だしな……)
(だが嫌われているというより、シンプルにどう接していいかクラスメイトたちもよくわかっていないのだろう……)
「ほんとに何のアドバイスにもなってねーんだけど……更級ならまじでいつもの感じで接すれば絶対に仲良くなれると思うぞ?」
「ほ、ほんとに……?」
更級は不安げに潤んだ青い瞳を俺に向けてくる。
でもこれに関しては心から嘘偽りない本心だ。なんてったって──
─黙っていれば金髪碧眼美少女。
─喋っていれば愛すべきバカ。
このアンバランスな二面性が癖になる。
性別問わず誰だって仲良くなれる素養があると本当に思う。
むしろ羨ましいくらい。
「紅葉ちゃんは凛たんに並ぶ最高の妹だからな。自身を持つが良いぞ」
「うーん……でも緊張して固くなっちゃって……逆に想像してみてよ? いきなり出来上がったクラスの中に入っていくのって意外にキツくない!?」
「そうか?」
お前本当に留学行ってきたんだよな……とは思いつつ、まあ確かに言うとおりなのかもしれない。
実際に経験しないとわからないものではある。
「よしじゃあはい二宮。転入生に大事なつかみの自己紹介よろしく」
俺の呼びかけに応じて、
「オレの名前は二宮陸! 好きなものは妹! 今期の妹推しアニメについて熱い考察を交わそうではないか!」
二宮が流暢に自己紹介を行った。
「た、確かに一部の男の子とはすごい仲良くなれそうだね……」
「な? こんな感じで適当にやっとけばいいんだよ」
「次は白崎、お前の自己紹介見せてやるがいい」
二宮からのパスが来た。
「どうも、白崎凛空です。ゲーム好きだから昼休みはみんなでスマヴラやろうぜ! 俺本体持ってくるから誰かコントローラー頼むぞ!」
「確実に隣にいるであろう先生に怒られるだろうけど、みんなから気に入られそう──っていやいや! 二人ともこんな自己紹介ほんとはするわけないじゃん! 私のことからかって楽しんでるよね!?」
「何を言う? オレたちはこれを4月の自己紹介でそっくりそのまま言ったんだが?」
「え、これ、ほんとに言ったの!? ほんとに!?」
「そうだけど?」
唖然とする更級──そして一言。
「薄々気づいてはいたんだけどさあ……二人ともメンタル強すぎない?」
「「?」」
◇
「クラスに編入した時の自己紹介とかはしたんだよな?」
「も、もちろんちゃんとやったし!」
「転校生イベントも最初が肝心でそこでキャラの方向性が確定する。実際にやった自己紹介を今やってみてくれないか?」
「えー、なんか恥ずかしいなあ」
と言いつつも、こほんこほんと咳払いをする更級。
たしか俺たちと初めて会ったときは、「楽しいことなんでもやりたい!」みたいな感じの自己紹介だった記憶がある。
あれはなかなかの好印象だった。
「こほん、えーと──更級さらです。柊木学園の留学プログラムで1年間、アメリカで学んでいました。今日からこのクラスでみなさんと一緒に勉強させてもらいますので、よろしくお願いします」
……。
「……硬くね?」
「……うむ」
「だよね!? やっぱそうだよね!? クラスのみんなの反応見た時、皆の中で『あ、この人はできる人なんだ!』みたいなハードル上がった感じしたもん! あーもうほんとに失敗したっ!!」
更級が当時の自己紹介を思い出しているのか、目をぎゅっとつぶって悶えている。
「それにさ! 担任の先生も『留学に行くぐらいだから勉強に困ったら何でも聞くといいぞ』って言っちゃってさ!」
「お手本のようなフレンドリーファイア」
「4倍弱点を突かれたか」
「うぅ……あたしバカなのにぃ!!」
……バカってちゃんと自覚あったんだ。
「ハードルが上がっちゃったから、休み時間とかも必死に授業の予習復習してたらおしゃべりする時間もなくなっちゃって……!」
「それで距離を詰めるタイミングを失ってしまったっつーわけか」
「うわぁん……なんてあんな自己紹介しちゃったんだろ……せっかくおじいちゃんも陰から様子見に来てたのに」
…………むしろそっちが原因では?
俺と二宮は互いに目を合わせた。
一生徒の自己紹介に学園長がこっそり様子を見に来たら、クラスメイトも何事かと思うだろう。
もしかしたら学園長の孫娘ということがクラスメイトに知れ渡って、距離を置かれてもおかしくはない。
……あ、なるほど。
クラスメイトと全く喋ってなかったから、so cubeの存在とか知らないのか。
ようやく合点がいった。
「まあ……自己紹介で失敗したとしても休み時間に雑談するだけで仲良くなれるだろ? 昼休みとか一緒にご飯食べてゆっくり話せる絶好の機会じゃん」
「それはまあ、そうなんなけど……」
と、何故か浮かない表情を見せる更級。
「……さてはお前、今まで昼は部室来たり、雪乃宮さんとかの2年の知り合いと絡みに行ってたりしてたんだろ?」
更級はバツが悪そうに黙ったまま首を縦に振った。
「妹よ、それはその場しのぎにしかならんぞ? むしろ自分を苦しめてるとも言える」
「うっ……そうだよね……」
「まあまとめると、更級は初っ端のつかみに失敗した結果、クラスでぼっちに──」
「うわああぁあん!(ガシッ)」
「へ?」
更級が俺に抱き着いた。あまりにも突然のことで──
「ぼっちって言われたぁぁあ! それだけは絶対言っちゃ駄目なのにぃぃ! ぼっちって……ひっぐ、ひっぐ……」
「「……」」
「い゛い゛も゛ん゛!!」
「「……」」
「別に気にしてなんかないし!!」
「「…………」」
「あたしには二人がいるがらぁあ!! う゛わ゛あ゛あ゛ん゛!!」
「「………………」」
「……」
「「………………」」
「何゛か゛言゛え゛よ゛お゛お゛!!!」
「「………………」」
透き通った悲しき咆哮が旧校舎に響き渡った。
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