パンドラの箱

「流石にそろそろcubeの活動を更級にちゃんと説明したほうが良いんじゃね?」


 学園長室を出た後、二宮にそう持ちかける。


「ふむ……いよいよその時が来たか」


 二宮が近日中に番組出演するならその前に説明しておかないとな。

 過保護な学園長が更級にSNSなどは一切やらせてないようなので、二宮がSNS上でイケメンだと支持を集めているのも知らないだろう。


「じゃー部室行くか、多分更級そっちにいるだろ」


 ──と思われたが、実際に行ってみると誰もいなかった。


「あれ? てっきりこっちにいるかと思ったけどな」

「ならば、おそらく教室だろう」


 ──二宮のファン対応も程々に、1年1組の教室前までやってきた、


「さてと……あれ、金髪少女はいないな……?」


 教室のドアの小窓から覗いても、教室内に金髪碧眼の少女はいない。


「……確かにおらんな」


 二宮も見てみるが、やはりいないようだ。


 となると、他の場所に行ってしまったかか……と思ってこの場をさろうとした時──



「──む、待て」


 と、二宮に呼び止められる。

 二宮の方を見ると、ドアの小窓からどこかある1点を凝視している。


「どしたんだよ?」

「一瞬見間違いかと思ったんだが……一番後ろの窓側の席に座ってる女子を見てくれ……」


 二宮に言われた通りにその方向を見る。


 ……。


「……見間違いか? オレの目には妹に見えなくもないんだが……」

「……いや、俺も確かにそう見える……そう見えるんだけど……」


 二宮が確認を求めたのは無理もない。


 そこには──普段の部室の様子からは全く想像がつかないほどかけ離れた彼女がいた。


「……妹の身に一体何が?」


 ──ぽつんと一人で俯きながらお弁当を食べる、ポニテ眼鏡女子の姿。


 金髪を目印に探しても見つからなかったのは無理もない。

 彼女は9月でまだ暑い時期だというのに、まるで金髪を隠すようにパーカーを深く被っている。


 その様子は普段の彼女からは到底想像がつかないほどのものだ。

 精神年齢幼めの陽気で無邪気な普段の姿はなく、無口で大人しい陰気な女子の姿がそこにある。


 更級の表情が伝える感情は虚無で、何も読み取れない。

 ただ黙々と時間が過ぎるのを待っているかのような様子だ。


「おい白崎……とりあえず見なかったことにして戻る、というのはありだと思わないか?」

「……ありかもしれん。なんかこの扉を開けるにはまだ早い気がするわ」


 何か……見てはいけないようなものを目撃してしまったような気がする。


「俺……とりあえず今日の部活、あったかいものでも用意しとくわ」

「ならばオレは……いつも以上に明るく盛り上げるとしよう」


 それぞれ謎の気遣いを見せながらその場を去ろうとした時──更級と目が合ってしまった。


「──やべっ!?」


 更級は少し驚いた顔をした後、


 ──にぱあぁっっ!


 まるで迷子になった子供が親を見つけたような、はじけた笑顔を見せて席を立った──


「──やべえやべえ目合った!! バレた! 更級こっち来る! ど、どどどうする?」

「と、とととりあえず、間接的にたった今来たことを伝えるんだ! オレたちは何も見ていないことを暗に示して妹の面目を守るんだ!」

「お、おっけおっけ! さりげなく今来ました感を演出しろってことか──」


 ──更級はガラッと教室のドアを開けた。


「1組に来るなんて初めてだよね! どうしたの?」

「……ちょっとな。ところで俺ちょうど今来たんだよ。だから大丈夫だよ」

「……オレもたった今来たところだ。何も見てないぞ、安心してくれ」

「──部室いこっか?」


 彼女の目は笑っていなかった。




 ◇




 ──一方その頃。


 マネージャー「凛さんどうしたんですか? 最近ご機嫌ですよね?」

 凛「……え、そうですか?」

 マネージャー「そうですよ! 雰囲気がいつもより柔らかいというか……!」

 凛「むぅ……いつもは刺々しいってことですか?」

 マネージャー「そ、そういうわけではなくてですね……!」

 凛「もう、冗談ですよ」

 マネージャー「もしかして明日、なにか楽しみにしてることがあるんですか? 土曜日は空けてほしいって言ってましたもんね!」

 凛「そうですね──ちょっとライブ参戦してきます」

 マネージャー「ライブですか? いいですね!」


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