次回は放送回形式。かなりの自信作になる予感なので是非。
「そういや更級って普段どんな感じ何だろうな? 部室以外で会ったことなくね?」
「確かにな……妹のクラスでの立ち位置が非常に気になるところだ」
「まさに太陽みたいな天真爛漫で無邪気な奴だからな……みんなのいじられキャラみたいになってそう」
「オレの見立てでは、昼休みは友人と席をくっつけてご飯を食べるタイプだな。お前、知らない女子の輪の中に一人で入っていけるのか? お前が去った後、絶対後で何か言われると思うが?」
「うっ……ちょっと出直すか」
それは思春期の男子高校生にはなかなかハードルが高い。
その光景を想像すると自然と足が止まる。
「今さら怖気づくとは情けない。ほら、もう1組はすぐそこだぞ」
「はあ……。ただでさえ、よそのクラスは入っていくだけでもちょっと緊張するってのに……」
自分以外のクラスに顔を出す時って独特な緊張感あるよなあ……。
ふう、と息をゆっくりと吐いて、教室の窓付きの扉から中を窺う。
「どうだ、妹はいるか? おそらく人だかりの中心にいるのが妹に違いない」
「まああの金髪は目立つからすぐに見つかると思うけど…………あれ?」
人だかりの中心や目印の金髪を探すが……見当たらない。
「いや……これいなくね? ほら、お前も見てみ」
今度は二宮が窓から覗き込む。
「どれどれ…………確かにいないな」
「もしかして食堂か部室とかに行ったのかもな」
なるべくすれ違いにならないように早めに来たんだけどな……。
まあそうなってしまっては仕方ない。
──俺たちは1組を後にした。
◇
──翌日の昼休み。
俺はいつも通り部室に向かう。
ちなみに二宮は姉の手によって職員室に連行されていった。
きっとなにかやらかしたのだろうが、毎度のことなので特に気にならない。
部室の扉を開けると──いつも通り更級がいた。
昼休みはここに来ると決めているのかもしれない。
彼女はテーブルにノートと教科書を広げている。
どうやら勉強しているっぽいが……。
「あ、ちょうどよかった! 白崎くん、ちょっとわからない所あるから教え──ねえ待って急に帰ろうとしないで!?」
「……申し訳ありません。つい身体がとっさに動いてしまいました」
「それもっとひどいこと言ってるからね?」
目を細めて抗議の意を表明する更級。
しかし俺には、初対面時の勉強イベントで感じた恐怖が脳内にしっかり刻まれている。
「クラスメイトに教えてもらえばいいじゃありませんか」
「それはまあ……そうなんだけど……」
そもそも昼休みなら、わざわざこっちに来なくとも、教室で勉強してればクラスメイトにすぐに聞けるから教室で勉強したほうがいいと思うが……。
「……っていうかさ、その喋り方何?」
更級が俺を訝しむような目線を送ってくる。
「い、いやあ、最初からこうじゃなかったでしょうか?」
「絶対違ったじゃん……なんか距離感じるからやめてよー」
学園長の孫とわかった手前、迂闊なことは言えないと思っていたが……まあ本人がやめてというならやめとこう。
「まあわかった。で、勉強教えろってなんだよ?」
「この課題は今日の5限だから、今すぐやらないとやばいの!」
「ここまで放っておくお前がやばいの! ……痛い痛い! 無言で叩くな!」
せっかく声マネまでしてあげたというのに。シャレが分からん奴め。
「ていうかよく考えたらさ、白崎君って頭いいの?」
再びこちらを訝しむような視線を送ってくる更級。
「急になんだよ?」
「いや、あたしに勉強教えられるほど、頭良いのかなって」
「勉強の聞き方から勉強してこい」
まあ更級はバカだから、悪意はないんだろう……多分。バカだし。
──ここで、みんなには残酷な真実を伝えなければいけない。
名門校である柊木学園は普通科でも偏差値がかなり高い方だが、理数科は普通科よりも偏差値が高い。
定期テストのクラスごとの平均点は、今まで理数科である10組が他のクラスにトップを譲ったことは一度もない。
テストが終わるたびによく二宮先生が誇らしげに語っている。
これがなにを意味するのかというと──あんなに頭がおかしい理数科連中はとても勉強ができるという逆説的な事実にほかならない。
世の中とは残酷なものだ。
──なんであんなに頭がおかしい連中が頭がいいんだ?
という疑問を抱く諸君らへの返答としては、”我々は勉学と引き換えに、青春時代の甘酸っぱい思い出の大部分を手放しているのだ”と、答えさせていただきたい。
つまりこの世は──等価交換で成り立っているのだ!
……どうみても代償の方が大きすぎるよなあ……。
ちなみに、理数科に縁のない人にとっては意外なことかもしれないが、理数科の方が偏差値が高くなるという現象は、柊木学園に限った話ではなく、全国どこの高校も一緒なので、これを読んでいる淑女たちは身の回りの理数科に思わせぶりに優しく接してあげると簡単に釣れるので、試してみてはいかがでしょうか?
「なあ更級──こう見えて俺は、全国模試の国語で全国一桁をもぎ取ったことがあるんだぜ?」
本当に偶然だけど、200点満点中195点で全国9位取れたんだよなあ……。
あれはまじで嬉しかった。
俺の隠された事実を告げると、更級は──
「ふえ? あたしでも、この前の模試で一桁は取れたよ。おんなじだね!」
「えっ? あ、ああ……うん……そうだね……」
──多分、一桁の意味が全然違う。
「……もういいわ。で、一体どこが分からないんだ?」
「うーん、えーっと…………どこだろ?」
さすが更級さんだぜ……常に予想を上回ってきやがる……!
──コンコン。
放送室のドアがノックされた。そして──
「失礼いたします」
見たことない一人の女子生徒が入ってきた。
彼女の内履きが赤色なので、2年生であることは間違いない。
彼女は放送室のドアをゆっくりと開け、頭を下げ、そしてわざわざ後ろを向いて丁寧にドアをゆっくりと閉める。
その一つ一つの流麗な所作から気品が溢れ出ていて、彼女の育ちの良さが表れていた。
彼女の背中まで伸びた艶やかな髪は、日光を浴びてうっすら紫がかっているように見える。
「
彼女は優しげな柔和な微笑みを浮かべていた。
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