閑話放送 雪乃宮凪 〜サブキャラを放送回形式でエンカウントさせたら思いの外面白くて、本放送に持っていけばよかったと後悔している〜

『実はわたくし、ソラさんにお願いしたいことがあるのです』


「は、はあ」


『ソラさん──わたくしをあなたの弟子にしてください!!』


「はっ?」


『突然すみません。順を追って説明します』


「頼む。唐突すぎてフリーズしたわ。是非とも


『わたくしが生まれた雪乃宮家は名家で、わたくしは子供の頃からさまざまな芸事を叩き込まれました』


「そ、それはすごいな」


『茶道に生け花、習字に合気道、ピアノ、バレエなど……雪乃宮一族に求められる高い期待に答えるべく、幼少の頃から稽古に励む毎日で、わたくしに自由はありませんでした』


「それは大変だっただろうな」


『そんな日々を過ごしている時、ふとわたくしはある時、思ったのです──ツッコみたいなと』


「──はいちょっと待った。過程すっ飛ばしてたけどほんとに順を追って説明してる? もしかしてなろう系?」


『当時の忙しい稽古に疲弊してしまったわたくしは、稽古の僅かな合間にこっそりと、とある娯楽に興じることが息抜きとなっていました』


「ほう」


『その娯楽というのがテレビ──特に漫才を見るのが大好きでした』


「へー旧家の生まれっぽくはないな」


『そこでわたくしはあの、相手に衝撃を与えながら小気味よく関西弁で間違いを訂正するツッコミという様式美に魅了されてしまったのです。それは当時のわたくしが稽古を積んでいた芸事とは全く別の芸事の世界でしたから』


「衝撃って大げさだと思うけど……なるほど、だからツッコみたいというわけだな」


『今思い返すと大変恥ずかしいことなのですが……当時のわたくしはよく、テレビに向かってツッコミをしていましたね』


「わかるわかる。誰しも一回は通る道だから」


『ええ、何度もテレビを壊してしまったものです』


「ごめんその道は通ってないわ。まさかちゃんと衝撃つきでツッコんでたとは」


『何事も形から入れと教わったので』


「ここで活きる芸事の経験」


『ツッコミに憧れを覚えたわたくしは、他の芸事と同様に練習をはじめました』


「練習?」


『ええ。特にわたくしが心奪われたのは、あの独特な関西弁だったのです』


「ほう?」


『わたくしは稽古の合間に隠れてテレビを見ている身です。誰かに急に関西弁を教えてほしいと言うと、怪しまれる危険性がありました』


「なるほどな。それで?」


『なので、わたくしはTVから流れてくる関西弁を必死に聞いて、関西弁とそのツッコミを学びました』


「まあそうなるよな」


『そして長年の鍛錬の末、ついにわたくしは関西弁を習得に成功し、晴れてわたくしは関西弁と標準語を操るバイリンガールになったのです』


「それ普通バイリンガルって言わないんだ。あとバイリンガールってなに? 確かにちょっと上手いけども」


『しかし──関西弁を手に入れた代償は決して小さくはありませんでした』


「……代償?」


『ある日、お父様から呼び出されて、お父様はわたくしにこう言いました』


「ほう?」


『「凪、最近茶道と習字の稽古の合間に、関西のお笑い番組をこっそり見ているようだな」と』


「え!? バレてんじゃん!?」


『しかし、わたくしは念入りに周囲を警戒して、茶道と習字の稽古の間にツッコミの稽古をしていました』


「しれっと稽古扱い」


『怪しい素振りは何一つ見せてないはずなのに、どうしてわたくしの稽古がバレたのか不思議で仕方ありません』


「確かにそれは不思議な話だ」


『だからわたくしはお父様に尋ねました。「どうして分かったのでしょうか──おとん!」と』


「自白してんじゃねえか」


『更にお父様はこうも続けます。「それと凪、お父さんに社交場でツッコむのは止めてくれないか」と』


「社交場でツッコミ? 名家だからそういう場も多いんだろうが一体何をツッコむのか……?」


『「”お世話になっております”、や、”前向きに検討させていただきます”ってお父さんが言う度に、「どの口が言うとんねん!」って頭を叩くのは止めてくれないか?」と』


「いやそれボケじゃないから。絶対ボケ扱いしちゃダメなやつ」


『ですので、わたくしはお父様の忠告を聞き入れるほかありませんでした』


「そりゃそうなるわ。お世辞をボケ扱いしたらそりゃお父さんも怒る」


『今後は忠告通り、叩くのは頭ではなく肩になりました』


「忠告ってそこ!? お父さん娘に甘すぎない!?」


『それに加えて、わたくしは関西弁を封印されたのです』


「……関西弁?」


『東京屈指の名家、雪乃宮家の一人娘が関西弁を喋る……というのはあまり世間的がよろしくないとのことで……』


「……なるほどな。そこらへんは色々と名家のしがらみがあるっつーことか」


『しかしわたくしにとっては、ツッコミと関西弁はセットなのです。関西弁を取り上げられたツッコミなど、価値がありません』


「関東芸人に謝れ」


『関西弁ではないツッコミなど、甲子園球場のない大阪と一緒です』


「もともとないんだよなあ……エセ関西人のとこ出ちゃってるよ」


『そうしてわたくしは、失意に満ちたまま他の全ての芸事をなんとなくマスターし』


「なんとなくかよ」


『ツッコミへの未練が捨てきれない日々を送っていたところ、偶然にも旧校舎でのお笑いラジオを耳にしたのです』


「あれ別にお笑いラジオとか、そういう位置づけじゃないんだけどな」


『リクの流れるような荒れ狂うボケと、それを自由自在に乗りこなすソラさんのツッコミに、わたくしは感動しました!』


「ねえめっちゃイジってるよねそれ?」


『そんな二人の丁々発止のやり取りを聞いてわたくしは、失いかけていたツッコミへの熱が再燃し、この旧放送部に興味を持ったのです』


「なるほど、やっと話の全体像が見えてきた」


『夏休み前の第3回放送で、ヒロインを探して廃部を免れたいとおっしゃっていたので、もしよければ……と思いましたが、どうやらすでに部員の確保には成功したご様子』


「一応そうなんだよ」


『廃部は免れたのであればわたくしの出る幕はありません。第4回放送を心から楽しみにお待ちしております』


「お、おう……わざわざ来てもらって申し訳ないけど……」


『今日はご挨拶できただけで十分です。それに、ソラさんにわたくしのツッコミへの愛がちゃんと伝わったと確信しておりますので』


「そ、そうだな……」


『わたくしのツッコミについて、なにか言いたいことがありましたら、何なりとおっしゃってください』


「そうだな……俺から一つ言えることがあるとするのなら──」


『はい。しかと承ります』


「君──ボケの方が向いてない?」




 ◇




「なんでお前ずっと黙ってたの?」

「え? 邪魔しちゃ悪いかなって……それに放送がなんだとか、よくわかんない話ししてたし……」


 更級は意外に空気読むタイプなのか……?

 ってか、そういえば更級にまだcubeのことは伝わってないのか。

 早めに言わないと……。


 ちなみに今は長テーブルに俺と更級が隣り合い、向かいに雪乃宮さんが座っている格好。


「挨拶が遅れました。更級さん……お久しぶりですね」

「久しぶり! ユキちゃん! 1年ぶりだよね!」


 更級がはにかむんでテーブルの上に両手を出して降ると、雪乃宮先輩もそれに答えて優雅に手を降っている。


 おそらく、更級が留学に行く前からの知り合いなんだろう。

 今でこそ学年は違うが当時は同学年だしな。


 更級が雪乃宮先輩の手を取って遠慮なくぶんぶん振って再会の喜びを表現しているところを見ると、本当にこいつはコミュ力が高い。


「二人が知り合いなら説明不要だが、こいつは更級……一応旧部、旧放送部の部員だな。多分」

「一応ってどういう意味!? まさかほんとに入部を取り消したんじゃ!?」

「わたくしが3人目の部員と思っていたのですが……先を越されるとは思いませんでした」


 雪乃宮さんは微笑んでいるが、どこかちょっぴり悔しそうだ。


「わたくしがここを訪れる前もなにやら教えを請うていたご様子でした……まさか、更級さんはソラさんからすでにツッコミの極意の皆伝を……!」

「へ? ツッコミの極意って何?」


 わけもわからない様子の更級だが、どうやら雪乃宮さんは何故かライバル意識を持っているご様子。


「勘違いしなくていいですよ? どう見てもこいつボケなんで。多分ツッコみ甲斐あると思いますよ?」

「……本当でしょうか?」


 トントン、と横に座っている更級に肩を叩かれる。


「なんだよ?」

「ねえねえ……よくわからないけどもしかしてあたし褒められてる?」

「うーん、まあ……多分そうだぞ」

「えーやったあ! やっぱり褒められるって良いもんね!」


 元気いっぱいの子どものような明るい笑顔を見せる更級。


 そんな俺と更級のやり取りを雪乃宮さんは、じーっと見ている。

 そんなに更級のことが気がかりなのだろうか。


 そこまで疑うというのなら──アメリカ仕込みのを見たほうが早い。


「雪乃宮さん、安心してほしい。このバカがツッコミなんて遺憾いかんを表明したいところだ」


 と、隣に座る更級の頭をポンポンしながら言うと、我が旧部が誇る金髪碧眼天然娘は──


「”いかんのい”……? じゃあ──”かん”はどこいったの?」


「見ろ。これが異次元のボケをするSARASHINA☆さんの姿だ」

「流石です……っ!!」

「……ねえ、あたし褒められてるんだよね?」


 こうして、謎の疑いは晴れて雪乃宮さんのエンカウントイベントは幕を閉じた。





─────あとがきのこーなー!──────

「久々の放送回!」


『たしかに前回からだいぶ時間が空いているな』


「俺たちのスタイルといえばやっぱこれよ!」


『うむ……まさに原点にして頂点だな!』 


「そして次回から、いよいよ学校公開編の序章が始まるぜ!」


『それとまさかの参謀が自ら進んで企画する第4回放送もあるらしいぞ!』


「本編のネタバレを本編でする斬新なパターン」


『やはり新しい試みをせねばならんぞ!』


「だがその前に、今回の放送の感想もよろしく!」


『フォローやレビューでもなんでも、妹たちからの熱い応援を待っているぞ!』

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