そもそも放送部って何する部活なんだろうね。


「つまり──オレの予想だと、紅葉ちゃんは皆を見守るため、何度も留年して、1年生を繰り返しているのだ!」

「……そうなん?」

「全然違うからね!? 去年から1年間留学でアメリカに行ってて、夏休みにこっちに戻ってきたの」


 確かに海外は秋入学が基本だ。理数科からこの夏に留学に行ったやつもいる。

 ちなみに留学中の生徒は休学扱いで、留学から帰ってきた生徒は進級していない。


 そのため、更級は俺たちと同じく1年扱いというわけだ。

 内履きや体操服は入学当初に買ってしまうので、色は学年違いになるというわけらしい。

 もちろん新たに買い直すこともできるとは思うけど。


「なるほど、そーゆーことか」

「ふむ、しかし留年も留学も似たようなものではないか」

「全留学生に謝れ」


 こいつはなんて酷いことを言うんだ。


「ほら、この写真見て!」


 更級はスマホを操作して俺たちに見せる。


 そこには送迎会らしき写真が表示されており──


「えっ!? イッチ先輩たちもいるじゃん!」

「さらに新部、つまり2年のやつらも写っているな」


 旧部と新部は当時の2年と1年、つまり現在の3年の2年が分裂する形でできでいる。


「しかもよく見たら、この場所で送迎会やってね……?」

「……そのようだな」


 写真に見える、窓や壁色やテーブルの配置が、この旧校舎の放送室とほぼ一致している。


「そうだよ。だってあたし、放送部だったからね!」


 つまりこの写真は、当時の2つに分かれる前の放送部の写真というわけだ。


「……あ! だからこの場所にも入れたのか! だって今日俺絶対鍵かけた記憶あったし!」

「そういうこと!」


 更級はポケットから見覚えのある鍵を取り出して、得意げに見せる。



 実は、旧部の部室の鍵は合鍵が大量に作られている。


 あまり大きい声では言えないが、昔の代がいちいち部室の鍵を取りに行くのは面倒というノリで、実家が鍵屋の人が自分で合鍵を作成したことをきっかけに、旧放送室の鍵は部員全員が持っており、代々引き継がれている。


「じゃあ更級って今は何部に入ってる扱いなんだ? 今は放送部がなくて新部と旧部があるんだけど」

「新部に入ろうと思ってたんだけど、二宮先生に聞いたらこっちも見ておけって言われて……まあこっちの部室も愛着あるし、どっちに入っても同じ放送部だしね!」


(……もしかすると白崎)

(……ああ、この感じは……)


「……すまないが、ひとつ聞かせてくれ。紅葉ちゃんはSNSはやっているか?」

「あーそれがね! やってみたいんだけど、おじいちゃんが厳しくてやらせてくれないんだよね!」


 ……なるほど。


 この無垢な少女はヒロイン募集とかは何も知らずに、この変態たちの巣窟(外部評価)を訪れてしまったというわけか。


 ……なんて可愛そうな少女だろう。

 彼女のクラスメイトは誰も止めてくれなかったのだろうか?

 普通だったら周りの人が止めるはずなのに。



 だが──こんな人を無理やり旧部に入れてしまうのは忍びない。


 いくら俺たちでも……流石にそこまで落ちぶれちゃあいない。


 ここは遠回しに新部への入部を勧めておくのが優しさってやつだ。



「でもどっちの部活でもやることは変わらないじゃん? どっちも放送部だし!」


 更級は笑顔でそんな事を言う。



「やっぱり楽しみだよね! 原稿読み上げたりとか、ドキュメンタリー作ったりとか、放送コンクール目指したりとか!」

「「それどこの部活?」」

「……ここ、放送部だよね?」



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