金髪碧眼ポニテ少女


「えっと……とりあえず座ってもらって」

「あ、うん……」


 長テーブルの向かいに少女が座り、俺と二宮と対面する形になる。



「じゃあまずは一旦、自己紹介でもしとくか。コミュニケーションをとるにしても、お互いの名前が分かんないのはやりづらいし」

「そういえば完全に忘れていたな」

「そ、そだね……」

「じゃーまず俺からいくわ。1年10組理数科の白崎凛空だ。趣味は……特にないな。強いて言えばゲームとかか」

「次はオレがいこう。同じく理数科の二宮陸だ。趣味は……まあ妹といっておこう」


 ……こいつは自己紹介する気があるのか?


「え、えっと! 私は更級さらしなさら! 二人と同じ1年で、趣味は……楽しいこと全般! かな!」

「え、同じ1年だったん? まじか」

「そだね。タメ口で話そっか!」


 紅葉ちゃん──じゃなくて更級は「えへへ」と、無邪気な子供のように眩しい笑顔を見せる。


 さきほどまで二宮に戸惑っていたせいでいまいち彼女の人側が分からなかったが、なかなか天真爛漫でエネルギッシュな女子という印象だ。


「ほうほう、紅葉ちゃんは永遠の1年生というわけか。しっかりとおにーちゃんの設定どおりではないか。完璧な妹のはずなのに、オレの中の妹センサーが反応しないのは何故だ? 何かが引っかかるんだが……」

「あ、基本こいつが言ってることは最初のうちは無視してっていいから」

「え!? 無視でいいの?」


 更級は目を丸くして、人として当然の疑問を口にする。


「安心しろ。最初は理解できなくても徐々にこいつに慣れてきたら、なんとなく言ってることが理解できるようになる。けど、最終的には結局理解できないって結論になるから大丈夫」

「……大丈夫じゃなくない?」


 こいつの取扱説明書を与えていると時間が無限に溶けるので本題に入る。


「更級、ちょっと色々聞きたいことがあるんだけど……」

「え、なになに? 全然聞いて!」


 人当たりのいい柔らかな笑みで身を乗り出してくる更級。

 ……なんかナチュラルにクラスのカーストのトップになってそう。


「ふむ、まずお前は……とりあえずなぜここにいたのだ?」


 二宮が更級に質問を投げる。


「あはは……突然びっくりさせてごめんね。二宮先生に聞いたらここに行けばいいって言われたから、来たんだけど」


 更級から苦笑交じりに意外な返答が返ってくる。


「……久々だと? 紅葉ちゃんはここに来たことがあるのか?」

「もうおめーは紅葉ちゃんで通すんだな」

「ここに来たことがあるっていうか──使

「「……え?」」


(あれ……もしかしてがちで妖精説ある?)

(やはり紅葉ちゃんは放送部に宿る妖精……!)


「このソファーとか懐かしい! 革がめくれててちょっとみっともないけど、ふかふかで座り心地良いもんね!」


 と、更級は部屋の隅においてある一人用のソファーに腰掛ける。

 そのソファーは俺もたまに愛用しているが──


(──白崎。オレはたった今、紅葉ちゃん──もとい、更級さらが何者かを完全に理解した!)

(えっ!?)


 この世のすべてを悟ったかのように、ニヤリと笑う二宮。


(更級をよく見てみろ。何か分かることはないか?)


 そう促されて、改めて彼女をよく見る。


 ふかふかのソファの沈み込みを堪能するように体を揺らす純粋無垢な少女。

 見慣れないからなのか、大きなサファイアの瞳はキレイに輝いて見える。


 彼女の表情はせわしない子供のようにコロコロと変わるなあ……とか。


 快活な彼女を見ていると癒やされるなあ……とか。


 胸はかなりあるけど不思議に色気は一切感じないなあ……とか。


 なんとなくだが、隠し事とかできなくて裏表がなさそうな人だなあ……とか。


(駄目だ。当たり障りのない感想しか出てこねーわ……)

(明らかにやばいのが紛れ込んでいたと思うが)

(心を読むな)

(まったく……残念だ)

(強いて言えば、あのソファ結構沈むから、角度的にスカートの中の下着が見えそうで危なっかしい──)

(それはオレも思っていた)

(残念だよ)

(仕方ない、ヒントをやろう)

(ほう)

(彼女を見た時──オレの妹センサーが反応しなかった)

(ヒントの意味教えてあげようか?)


「……ふたりとも見つめ合ってなにしてるの? どういう関係?」


 俺たちがくだらないやり取りをしている間に、更級はいつの間にかにソファーの堪能を終えて、長テーブルの向かいの席に戻ってきていた。


 ……どこか俺たちを訝しむような目線なのは気のせいだと信じたい。


「しょうがないな。いつまで経っても紅葉ちゃんの秘密に気づかないお前のために、正解発表と行こうじゃないか」

「えっなになに? 正解発表って?」


 二宮は立ち上がり、


「更級さら──お前の年齢はいくつだ?」


 唐突に更級の年齢を問い始めた。


「は? いやお前急に何──」

「あはは、やっぱりに気になるよね──17歳だよ」


 困ったように笑いながら答える更級。


 ……17歳?


 高校1年生は15か16のはず……ということは!



 ──俺は椅子を引いて、テーブルの下から彼女の足元を覗き込むと──視界に捉えたのは赤色のラインが入った内履き。



 赤色とは──2年を示す色。



(おい二宮! この人赤色なんだが!)

(お前……そんな堂々と……不躾ぶしつけな奴め)


 二宮が咎めるような目線をよこす。


(……確かに。今のはちょっと品がなかったかもな……)

(そうだ。少しは性欲を抑えてくれよ)

(ごめんな)


 ……。


 ……。


 いやそっち下着の色じゃねーよ!?





 ……ほんとだよ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る