王道ならここは着替えシーンだろ!?


 あれから校内をくまなく探索したが、金髪ポニテはどこにもいなかった。

 もちろん捜索中にも合間合間に窓から校門の方を見ていたが、誰も出入りする様子はなかった。


「んー……もしかしたら、見間違いだったんかもな」

「……そうかもしれん」


 申し訳なさそうに二宮はつぶやく。


「つっても、見間違えて金髪の生徒の人影が見えるなんて、普通絶対ありえねーよな」


 金髪でポニーテールなんて、どう考えても普通出てこない特徴。

 見間違えるにしてはインパクトが強すぎる。



 ──二宮は本当にその特徴を有した人物を見たとしか考えられない。



 しかし、旧校舎内のどこにもその人物はいなかった。



 ──これが意味するものとは?



 ますます謎めいてくる……こいつは面白くなってきた!


「まさかオレがそんな突飛な見間違えをするとは信じがたいが……」

「そうだよな……」

「ああ。最近、金髪ポニテの妹キャラにハマっているのは事実だが、思い当たる節なんてどこにも──」

「──ビンゴ。じゃあ謎も解けたし一旦部室に戻ろうぜ。ちょっと疲れたし」

「うむ」


 2階の隅にある放送室に向かう。


 ……やっぱこいつに普通が通用すると考えた俺が悪いのかもしれない。


 人は見たいように見る生き物。こいつの願望が具現化しただけというなんとも締まらない顛末だ。


 と、放送室の扉の前についたので。鍵を取り出して扉の鍵を開けようとする。


「ん?」


 しかし、鍵を開ける時特有の抵抗がない。


「あれ、たしかに鍵はかけたつもりだったんだけど……開いてるわ」

「不用心だな。しかしそもそも旧校舎だからそこまで問題にならなそうではあるが」


 と、俺は放送室の扉を開けて中に入る。


「にしても、まじでこれからどうす──」


 ……。


「おいどうしたのだ白崎? 入り口で固まっ──」


 ……。


「……」

「……」



 放送室には、一人の先客がいた──


 ゆらゆらと窓から差し込む木漏れ日に照らされ、黄金に輝く髪を持つポニテ碧眼少女が。


 ……。


 ……。


 タ イ ト ル 参 照 !




 ◇




「えっと、あの、……どちらさんですか?」


 恐る恐る、謎の金髪少女とのエンカウントイベントの口火を切る。


 制服を着ている時点で、当然柊木学園の生徒なのは分かるが……。


「はわわ! ご、ごめんね! 勝手に入っちゃって! びっくりしちゃったよね!?」


 透き通るような耳心地が良い声を発した目の前の少女は、大きくて真ん丸な青い瞳を何度もまばたきさせ、先生に悪事がバレた児童のようにオロオロとしている。


「あ、あの、一旦落ち着いて──」

「──その声!!」


 と、いきなり大声をだす二宮。


「急になんだよ!?」

「ほら!! 今日説明しただろう! オレがおにーちゃんを務める、放送部に宿りし妖精!!」


 二宮が少女を遠慮なく指差す。


 お前がおにーちゃんを務める……? 


 ……。


 ああ! 昼休みにクラスの連中が耳を傾けてたやつか!

 確か紅葉ちゃんとか言ってたやつ。


「ふえ、よ、妖精? え、なになに全然わかんないよ!?」

「公式おにーちゃんとして聞いてきたからこそ分かるのだ!! この声は間違いない!」


 何のことか理解できていない様子の金髪碧眼美少女は、目をぱちぱちさせて首を振る。


 だが──言われてみれば、彼女の声は、昨日聞いた紅葉ちゃんという謎の少女の声と似ている……!


 全然見慣れない金髪碧眼も、妖精と言われればたしかにそれっぽく見えてくる。


(おお、まじか……!)

(うむ、これは……まじだぞ!)


 旧部秘伝の意思疎通テレパシーを行い、ごくり、と息を呑む。



 ──この少女が……紅葉ちゃんなのか?



 俺たちは意を決して──目の前の少女に尋ねる。


「あの……もしかして……あなたが……!!」

「まさか……お前が……!!」


 二宮がそっと真実を確かめるかのように、その先の言葉を紡ぐ──


「お前が──オレの妹であっているか!?」


「「──いや、違いますけど」」


 俺と紅葉ちゃんは、それはそれは綺麗なハーモニーを奏でた。

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