迫りくる文字数との戦い
仕方ねえ……。
かくなる上はあの場所に逃げ込むか……。
──俺は”学園長室”というプレートがかけられている大きな扉を開いた。
「フォッフォッフォ……白崎君かのう」
トレードマークの白髪のあごヒゲを触りながら、恰幅のいい初老のおじさんが、赤い絨毯が敷かれた大広間の奥にある椅子に腰掛けていた。
「学園長、おはようございます。ちょっと色々あってしばらくここにいてもいいっすか?」
「うむ。構わんぞい。二宮君も来ておる」
と、学園長が座っている椅子の前にテーブルから二宮が顔を出した。
「もうここに来てたか」
「ああ、連絡助かったぞ。確かに学園長室ならば安全だろう」
二宮にはスマホであらかじめ、学園長室に逃げ込めと連絡しておいた。
「そういえば二人とも、先週、旧校舎での校内放送について」
白髪のひげを指でなぞりながら──学園長の瞳が鋭く光った。
温厚な普段の顔つきとは異なる、剣呑な雰囲気が漂う。
……そういえば。
俺たちは2回にわたって旧校舎で勝手に放送していたんだった。
「君たち……これはワシからの忠告だが──」
「「は、……はいっ!」」
自然と背筋が伸び、体が石のようにこわばって──
「──もう少し間を意識して話したほうが良いぞ! 特にトークの間と相方の相槌を意識すればもっとよくなるぞい!」
「知ってた」
「放送部名誉顧問の血が騒いでいるようだな」
……実は意外にも学園長とは他の先生よりも気安い仲ではある。
学園長は放送部の名誉顧問という形で接点があり、さらに今年度から始まった俺たちが所属する理数科は学園長肝いりの施策だ。
度々理数科の激励に訪れている。
──コンコン。
と学園長室の扉をノックする音がした。
「あ、流石にこれは席を外したほうがいいっすよね」
「たしかにそうだな……しかしどこに逃走すべきか……」
「フォッフォッフォ、まあ挨拶ぐらいはしていくといいぞい」
ノックのあとに入ってきたのは──神崎紫だった。
「……んだァ? cubeが揃ってんじゃねえか」
「たまたまぞい。それにほれ、紫。そんな言葉遣いをするでないぞい」
「うっせえんだよ、親父ィ」
……どうやら学園長と神崎は親子らしい。
もしかして学園長も神崎も柊木グループの人なのだろうか?
「おい陸、てめえデカくなったな。オレが愛海の家に行ってた頃はまだこんなんだったぞ」
と、オーバーに手で当時の二宮の身長を表している。
「紫さん……久しぶりだな」
「フォッフォッフォ……紫と愛海ちゃんは大学時代からの旧知の仲だからのう。よく2人で遊んどったわい」
二宮先生と神崎は学生時代の友人だから、二宮陸とも面識があるってわけか。
「ちなみにてめえら、学園祭のゲストとしてうちのタレントのバーターでねじ込めるんだが、どうだァ? 面白そうだろォ? スケジュールはいつ頃空いてんだ?」
「これ紫、無理強いは良くないぞい」
「チッ……じゃあ仕事の話でもするか」
神崎は柊木芸能学園の学園長としてこの場に来たのか。
……さすがにそろそろこの場は退散したほうが良さそうだ。
「じゃ、俺らもう行きますね」
「世話になった」
すると、神崎が最後に──
「そういやてめえら──今日の昼、楽しみにしてるぜ?」
※近況ノートに今後の更新予定とお願いを投稿!
今日はもう1回更新!
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