この戦闘シーン書いてるのが本作で一番楽しかったまである。


「見つけたぜ! 白崎!!」

「ぐっ……!」


 職員室を飛び出したところで、クラスメイトの一人、佐藤に見つかってしまった。


 佐藤が手にしていたのは超巨大三角定規セット。

 数学教師が黒板で直線を引くために使うもので、なかなか侮れない。


 ヤツの右手には90 + 45 + 45度の三角定規。

 そして左手には90 + 60 + 30度のもう一対。


 双剣を体の前でクロスさせており、完璧な構えを見せている。



 俺の職員室を背にしている状況。

 引き下がる選択肢は取れない。


 ここはなんとか突破する必要があるが、ヤツの双剣を俺に崩すことができるか……?


 ──朝日が二人を照らし、戦場に対峙する二人の影をその場に映す。


「……佐藤、頼むからここは見逃してくんねえか?」

「おいおい舐めるなよ……裏切り者を見逃すわけないだろう!!」


 佐藤は言い終わるや否や、こちらに向かって突進し、右手に持った剣を躊躇なく俺の喉元に突き刺す。


 その動きに対して、俺は限界まで体を後ろに逸らすことでなんとかかわすことに成功。


 そのまま後ろに倒れ込む勢いを最大限利用し、ブリッジのようにしなやかに両手を後ろにつく。


 そして全身のバネを使ってそのまま跳躍し、後方ウォークオーバー、つまりバク転のような形で相手と距離を取ることを試みつつ、すかさず地面を蹴り上げた左足でヤツの突き出された獲物を思い切りカチ上げ、回避と攻撃の攻防一体の技を繰り出す。



 ──蹴り上げられた一対の剣が、対峙する二人の間の宙を舞う。



「ぐっ! まだまだぁ!!」


 残った左手の一対を振りかぶりながら飛びかかってくる佐藤。


 俺は宙に待ったもう一対をキャッチしながらすかさず応戦。



 佐藤の鬼気迫る剣筋を見極め、俺は繰り出される必殺の一手の数々をなんとか捌いていく。


 フォン、という朝の澄んだ空気を切り裂く音の僅かな後に、力のこもった剣と剣がぶつかり合う轟音が、戦場に響き渡る。


 柔らかな朝日が命のやり取りを交わす二人を包み込み、見る者が思わず息を呑んでしまうような火花散る見事な乱舞の果てに──


「くらえ──sinθ!」

「なにっ!?」


 佐藤がここまで温存していた必殺技を繰り出した。


「おらあぁあああ!!!」

「くそっ……ならばcosθ! 間に合えぇぇええ!!」



 ──ガキイィン!!



 戦場に響き渡る決着のとき──最後に立っていたのは佐藤だった。



「ぐはっ……!」

「残念だったな白崎……オレを甘く見てもらっちゃ困るぜ?」


 佐藤が地面に打ちのめされた俺の喉に剣を当てる。


「お前のθと俺のθ、それが勝負を分けたってわけさ」

「ちくしょう……!」

「お前が45度のθを持った時点ですでに敗北は決していた。宇宙すら司る自然法則の前にはいかなる反逆者も逃れられない」

「チッ……くそっ!! ピタゴラスの野郎……ッ!!」


 最後の俺の攻撃はヤツに届かず、ヤツの攻撃は俺に届いた。

 斜辺の差が結果として現れてしまったというわけか。


「頼む……見逃してくれ……」

「この期に及んで命乞いか?」

「見逃してくれたら──お前の好みの女を用意する」

「な、なにいぃぃいい!!??」


 見るからに動揺する佐藤。


 ──これはもらった!


「ほら、どうする? 交渉に応じないなら俺はもっかいやり合ってもいいんだぜ?」

「う……」

「あと1秒」

「わ、わかった!! 見逃す! 見逃すから!!」

「交渉成立だ」


 佐藤はその手に持った獲物を床に置いた。

 俺は立ち上がり、ヤツの獲物を遠くへ蹴り飛ばす。


「それで、本当に女は用意してくれるんだろうな?」

「ああもちろん。俺には妹がいるからな。妹の交友関係を利用すれば簡単だぜ?」

「なるほど……どんな女でもいいんだよな?」

「ああ。天地神明に誓ってどんな女でも用意してやるぜ」


 もちろん本当に女を用意するわけがない。

 あくまでこの場をやり過ごすためだけの方便に過ぎない。


 どんな女を希望したとしても、必ず用意すると言ってこの場を切り抜ければ後はこっちのもの。


 あとは佐藤の裏切りを祝福会に突き出すだけだ。

 証拠となるこの会話ももちろん録音している。


 それにしても我ながら完璧な作戦。

 自分の頭が恐ろしい。



「じゃあ──ケモ耳少女を頼む」

「──交渉決裂ッ!」



 佐藤の頭も恐ろしかった。




 ◇




 ──俺は次なる安地へ身を潜めている。


『くそっ! 白崎のやつどこに逃げやがった?』

『見つからねえ……』


 クラスメイトたちの声が聞こえてくる。


『チッ、二宮のやつもいつの間にかどこかに逃げやがったらしい』

『くそっ! 一番祝福したい奴を逃したのか!』


 どうやら、二宮もなんとか逃げ延びたらしい。


 あいつ俺のことを売り飛ばしやがって……まあ日頃からお互い様なところがあるので、別にどうも思わないけど。


 あのままだと間違いなく奴は処刑されていたからな。ここは悪友の無事を願っておこう。


 それにどこかに逃げ延びているのなら後で合流するのもありだな。

 あいつは俺ほど逃走スキルは高くないから、捕まる可能性は高いし心配だ。


 しかも祝福者の話しぶりだときっと奴は見つかったら処刑確定なので、ますます心配になってくる。


『そっちは?』

『駄目だ……女子更衣室の方を重点的に探したんだが』


 ──心配事がまた一つ増えたよ。


 なんてヤツらだろうか。


 頭がおかしいんじゃないだろうか。



 ──そして、クラスメイトの声は遠のいていった。


「ふぅ……なんとかやり過ごせたか……」



 俺は──隠れていた女子トイレから離脱した。


 ……本当になんてやつらだ。



※本作品はフィクションです。




─────あとがきのこーなー!──────

「現代ドラマ日間1位、週間1位、月間5位……!」


『……!』


「そしていつの間にかカクヨムコンのエンタメ総合部門週間1位……!」


『これを知ったizumiは

”今回のお話……バカすぎるけど大丈夫かな!? 今から真面目テイストに全編書き直してもいいかなあ!?”

という不安に襲われたという」


「アイデンティティ見失ってる……!」


『”ま、まあ? 週間1位はその時の勢いでいけるみたいだし? 素晴らしい他作品とは★の桁が違うからまだ大丈夫だし?”

と謎のツンデレで心を落ち着けたという』


「お、おう……まあ心を落ち着けたのなら何よりだ」


『そしてカクヨムコンの応募規定に1万字足りていないことに気づいたという』


「落ち着いてる場合じゃない」


『締め切りは2月1日の12時』


「あと3日もない」


『そして昨日、応募規定の存在を知らずに突如思いついたネタ短編を勢いのまま書き上げて投稿するという』


「何やってんの? ねえほんとに何やってんの?」


『短編を投稿するときにたまたまコンテストの応募規定が目に入って震えたという』


「……逆にそれで気づいてよかったのかもしれない」


『しかし、ちゃんと”あとがきのこーなー!”はやらないと……! という使命感を感じでいる』


「あとがき書く前に本編書けよ!」


『いや……今回は絶対にあとがきをやらないといけない』


「なんでだよ!? 絶対そんな必要性ないだろ!?」


『……ついに親愛なる妹から初めてのギフトをもらった』


「っ!? お、おおう……ま、まじか……そ、それは大事だわ。それは流石に”あとがきのこーなー!”は必須だな!」


『”ぽんぽこ@書籍発売中!!”、応援、誠に感謝する!』


「まじでありがとな!」 


『というわけで、カクヨムコンは間に合ったらいいなあ……、という希望的観測でいく』


「了解っ!」


『もしよかったら……締切のことなんて何も知らない、あの頃の純粋な気持ちで書いた短編の方を供養してやってくれ』


「もちろんこっちの本編の感想も待ってる! 一言でもなんでもいい! 特に今回はお気に入り回だ!」


羊飼いパーティーを追い出された。でも無能と言われたユニークスキル”沈みゆく太陽の10倍の速度で走る”で最速に!〜妹の結婚式に帰ってきてほしいなんて言われてももう遅い。邪智暴虐の王を倒しに行くので〜

https://kakuyomu.jp/works/16818023212627165637

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