兄と妹の未来 2
──夏休み最終日。
明日は登校日であるが、今夜はクラスメイトが全員参戦のゲーム大会が開かれている。
共有スペースに大画面のTVがありそこにゲーム映像を出力しているのだが、誰もこんな大画面でゲームをしたことはないので、大いに盛り上がっている。
「なんとここで即死コンボ完走ーー!!! 艱難辛苦乗り越えた先に待っていたのは勝利のファンファーレ!! いやー今のは相手の二宮選手のずらしをしっかりと見ながらのアドリブコンボのように見えましたが……どうですか今の白崎選手の動きは!」
「そうですね。序盤から二宮選手が得意の速攻でマナ加速からのビートダウン。そのまま勝利を掴み取るかのように見えましたが、最後は白崎選手が見事なディスティニー・ドローを決めてなんと一気に形勢逆転! しかし直前のS・トリガーのヘブンズ・ゲートが勝利への布石でしたよね。まるでそれがあることを予知していたかのようなその後の展開もお見事というほかありません。ナイスデュエル!」
ゲーム知識ゼロの奴がその場のノリだけで解説をやり出し、あまりの意味不明な解説内容がもうバカおもろすぎてみんなツボっている。
なんで別ジャンルのゲーム混ぜたんだよ。
「それにしても白崎……お前やりすぎだって」
「流石に強すぎ」
と言うクラスメイトたち。
自分で言うのも何だが、俺は生粋のゲーマーなので流石に大抵のゲームならクラスメイトに負けることはない。
ただその道のガチ勢と比べると全然下手な部類に入る。いわゆる地元最強とかいうやつ。
学校の体育で無双できるけど部活に入ってない的なあれ。
「ぐっ……解せん! もう一回頼む!」
さっきから意気揚々とかかってくる二宮をボッコボコにやり返している。
もちろんハンデ付きで戦っているのだが、それでも相手にならない。
「やっぱこの寮暮らし最高だよなー」
「学園長のおかげだな」
「居心地良すぎてお盆に帰るのがだるかったもん」
──なんてクラスメイトたちの雑談が聞こえてくる。
「そーいや俺寮に入ってから一回も家帰ってねえわ」
「白崎め、真剣勝負の最中に雑談とは……舐めおって……!」
「それ大丈夫か?」とか「まあ最低限の連絡さえしてればいいだろ」とか「俺もー」というクラスメイトの反応。
「でもよく考えたら一回も連絡してねーわ。通知切ってるからメッセージ来ても気づかんし」
「雑談しながら一方的に蹂躙される気持ちにもなってくれないか!?」
「あれ、なんかそういえば……忘れてるような……」
「む……そういえばっ!! もうすぐ絶対に見逃せないネット番組が始まるではないか!! ナイスだぞ白崎!」
と、二宮がゲームを中断した。
「お、もうそんな時間かよ!」
「このTV、ネット番組も見れるからここで見ようぜ」
「これはリアタイするしかねえよ」
全員ではないが、多くのクラスメイトが二宮の言葉に続いた。
どうやら今日は注目度の高いネットの配信番組があるらしい。
せっかくなので俺もスマホでもいじりながら番組を見ようと思ったが、スマホの充電が切れていることに気づいた。
というわけで、充電器を取りに行くために一旦自室に戻ることにした。
◇
柊木寮は基本的に二人一組で一室が与えられている。
ちなみに俺のルームメイトは二宮だ。
「さて、そろそろスマホを再起動できそうだな……」
古い機種のせいなのか、完全に電池がなくなると再起動できるまで充電に時間がかかってしまう。
おそらくもう件の番組は始まっているだろう。
「おし、再起動できた……一応メッセージも確認しとくか」
メッセージアプリを開く。
すると、凛からいくつかメッセージが来ていることに気づいた。
今まで凛とはほぼメッセージのやり取りをしていなかったが……まさかメッセージが来ていたとは。
最初のメッセージは1ヶ月前だ。
『夏休みのいつにこっち帰ってくるの?』
「あ……やべっ。そんなコト言ってたような気もする」
そういえばカフェに行くとかなんとか言ってたな……すっかり忘れてた。
次のメッセージは3週間前。
『……お盆には帰ってくるんだよね?』
文字を読んだだけで、若干不機嫌そうな凛の声で脳内再生されてしまった、
まあ……今度あった時に謝っておけばいいか。
次のメッセージは2週間前。
『明日はお母さんの誕生日です。今年は家族みんなでお祝いしましょう』
なんだろう。
口調がより丁寧になっているはずなのにやたら怖い。むしろ圧が増してるぞ……?
これは早めに謝ったほうがいいかも……。
……あ、思い出した。
そういえば奇跡的に母親の誕生日思い出したから、誕生日に母さんに電話した記憶あるわ。
多分あの日がスマホを開いたの最後だな。
その時、母さんが最近の凛の話をしていて、”街を歩いてたらよくモデルのスカウトをされて迷惑”……というのが凛の最近の悩みらしいと言ってた。
あいつの前世は色違いか6V、もしくは街中を飛び回るタイプの伝説なのかと脳内で突っ込んだ記憶がある。近年はトレーナーに優しい仕様になってて助かるけど、うちの妹はまだゲットするのは難しいらしい。
最後のメッセージは1週間前。
『……』
無言のメッセージが本当に怖い。
あれ……もしかして本格的にこれ怒ってるパターン?
──ってかうわ、凛から着信来てた!!
2週間前に何度も!!
携帯の電源切れてたから気づかんかった……っ!!
──俺は急いでコールを鳴らす。
相手は凛──ではなく母さん。
とりあえず今の凛さんのご機嫌がどのようなものなのかを伺う必要がある。
「もしもしっ! 母さん!」
『あら凛空、珍しいわね』
「母さん、えっと、凛さんのご様子はいかがなものかと……」
『あ、もしかしてあんたも今見てるの? 凛ちゃんの晴れ舞台』
「……晴れ舞台?」
『前から言ってたでしょ? 凛ちゃんが初めて番組に出るって』
「……は? いやあいつ今まで何個も作品出てるだろ?」
『やあねえ、声じゃなくて素顔の方に決まってるじゃない。2週間前ぐらいに収録あったのよ。今いいところだから切るわよ』
と、通話が切れてしまった。
そういえば、最近顔出しする仕事があるとかなんとか言ってたような気がする。
……。
…………。
………………。
あれ?
これもしかして……。
過去の記憶、置かれた状況、そして今までの会話。
すべての点と点が繋がっていき、そしてそれらを結ぶ線がたどり着くのは……。
──身体中の全神経が急激に研ぎ澄まされていくようなこの感覚。
この感覚は身に覚えがある。
これはあれだ……危機的状況に陥っている時特有のヤツだぞこれ。
危機的状況に何度も放り込まれたことによって、いつの間にか身につけてしまったものだが……その第六感が発動しているということが意味するものは──。
俺は共有スペースへと駆け出した──脳裏にちらつく厄災を振り払うかのように。
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