第3章 変わり果てた日常
今から3話分ぐらいはカットした方がストーリー的にまとまりがいい。でもここまで付いて来てくれた精鋭たちを信じてみたい。
昨日は突如ラジオに出るとかいう本当に大変な一日だった。
だがそれをなんとか乗り越えて、その先に待っていたのは憂鬱な月曜日。
神はなんてむごい仕打ちをするんだろう。
でも夏休みまであともう数日。もう少しの辛抱だ。
──珍しく余裕を持って登校し、理数科棟の教室に移動していると俺のポケットに入ったスマホが震えた。
メッセージの送り主は二宮陸。
二宮はその容姿がイケメンすぎるとして、SNSで大きくバズっている。
きっとその反響に浮かれているに違いないが、こんな朝から俺にメッセージなんて一体なんだろう?
──メッセージは簡素な一言。
『たのむたすけてくれ』
……本当になんだろう?
どうやらヤツは危機的状況らしい。
とりあえず彼の身を案じるメッセージを送っておく。
大丈夫かな? とにかく心配だ。
『敬語って知ってる?』
まあ何が起こっているのかはおおよそ想像はつく。
おそらく我らがクラス、理数科の祝福会が動いているのだろう。
それにしても奴も愚かなことをしたものだ。
SNSで女子からチヤホヤされるということは──それ即ち死を意味するということに気づかなかったとは。
「ういっすー。やってる?」
理数科の教室に入ると、そこには椅子にくくりつけされた二宮とそれを取り囲むクラスメイトたちがいた。
クラスメイトたちは皆、祝福のためにお祝いのパーティー用のトンガリ帽子をつけている。
『来たか白崎! これで全員揃ったからそろそろ始めさせてもらおう』
祝福の準備はできているようだ。
『やれ! 早くこいつを始末しろ!』
『その顔だけで大罪を犯している!』
『受け止めて! 僕らの祝福を!』
祝福者たちは皆、二宮を祝いたい気持ちを抑えきれていない。
なんて仲間思いのクラスメイトたちだろう。
「やめろ! これはなにかの間違いではないのか!?」
手足を縛られている二宮は叫ぶことしかできない。
哀れなヤツだ。
『この期に及んで命乞いか?』
『残念ながら、SNSには”リクくんかっこいい♡”のような血迷った声にあふれている』
『これは祝福してやらねえとな……!』
残念ながら完璧に証拠は出揃っている。
『白崎、お前はやつの最期をそばで見届けてやれ』
「いいぜ」
二宮を取り囲む輪の中から、俺は二宮の元に歩み寄った。
『さて、それじゃあ祝福を始めるか……!』
『おう!!』
『獲物の準備はできてるぜ……!』
「ま、待つがいい! も、もう一度SNSを確認してくれ!!」
二宮は苦し紛れに言葉をひねり出す。
見るに堪えない醜い時間稼ぎだ。もう運命は決まっているというのに。
彼の魂が女神の元に行くのも時間の問題だろう。
「しゃーねーな。最後にお前の無駄な抵抗を相棒の俺が聞き届けてやろう」
「し、白崎……恩に着る!」
周囲を取り囲むクラスメイトたちに俺は目配せして、彼らは構えている武器を一度下ろした。
「んで、SNSのどこを確認すればいいんだ? ”cube リク”で検索すると、イケメンすぎるってお前を持ち上げる可愛い女子のアイコンがわんさか出てくるけど」
『殺せぇえええ!』
『Guiltyだ!』
『許せねえ!!』
男どもが野太い声を上げる。
それに対して二宮は、ぼそっと呟くように──
「──あやのん、来崎彩乃のアカウントを確認してくれ」
『いきなりなんだ?』
『あやのんって昨日白崎がラジオでゲストに出てたけど……』
『二宮には関係ないはずだが……』
……。
「……それはなぜだ?」
「見ればわかる」
……。
…………。
「……理由を聞かせてくれ」
「見ればわかる」
……。
…………。
………………。
「…………それは本当に必要か?」
「無駄な抵抗はよせ」
おかしい──いつの間に立場が入れ替わっていた?
「お前ら! 早くこの裏切り者を祝福してやれ!! 早くっ!!」
『白崎、何をうろたえている?』
『様子がおかしいぞ?』
確証がある訳では無いが……これは非常に嫌な予感がする。
『おいお前ら、これを見ろ!!』
クラスメイトの一人がスマホを掲げる。
そこに映っているのは来崎さんのアカウントのプロフィール。
『やっぱあやのんかわええ……!!』
『超美人だよなあ……!』
『ちょっと天然なところもたまんねえんだよなあ!!』
と、クラスメイトが来崎さんのアカウント画像に見とれていると、すかさず二宮が、
「そこのプロフィール欄の最後をよく見るのだ!!」
と叫んだ。
『えっと──”推し&未来の相棒:cubeのソラさん”……しかもハートマーク付き』
なるほどなるほど、未来の相棒って多分、一緒にラジオ番組のパーソナリティーやろうってことかな?
はあ、お茶目なところがあるんだから。
困ったもんだぜまったく。
──訪れる静寂。
二宮の方を見ると、最期の悪あがきを成功させてやったと言わんばかりに、ほくそ笑んでいた。
俺はふっと息を吐いて──
「二宮──ここはお前に任せて先に行く!」
『ああっ! 奴が逃げたぞ!』
『逃がすな!』
『それにしてもなんてカッコ悪い捨て台詞なんだ!』
◇
『待てっ! 逃げるな!』
そう言われて逃げねーやついねえんだよなあ……!!
階段の手すりに上体を預けて体を滑らせ、高速で階段を滑り下りて祝福者との差をつける。
さらに人の多い廊下を巧みに利用しながら、祝福者の視界から上手く外れていく。
幸いにも今は登校時間なので、廊下に多くの生徒がいる。
日頃、理数科サバイバルだけでなく二宮先生の相手もしてあげている俺の逃走スキルを舐めてもらっちゃ困る。
俺レベルになれば計画された逃走であろうと、今のようなアドリブでの逃走ルート取りすら完璧だ。
──今のこの時間なら、あそこに逃げ込むのがいいな。
俺は目的の場所へとその身を疾駆させた──
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