祭りのあと


「ああ……疲れたあ……」

「クックック、期待を超えてくる奴だぜ。てめえはよォ」


 夜道の街道を神崎が運転する車が進んでいく。



 ラジオが終わったのはまだまだ明るい時間だったのだが、そこからよくわからない大人たちに囲まれ、やれ「君、ぶっ飛んでいて面白いね」だの、「トレンド入りしたのは初めてだ。いつかまたゲストに来てほしい」だの、よくわからないことを言われた。


 楽屋のような場所に帰れば、興奮冷めやらない来崎さんに捕まってしまい、長時間拘束されてしまった。


 肝心の俺はなんとか放送を終えてクールダウンしたが最後、アドレナリンのおかげで色々とおかしくなっていたメンタルが正常に戻ってしまい──なにかとんでもないことをやらかしてしまったんじゃないかという気持ちが芽生えてしまった。


 おかげで来崎さんと何を話したのか、あんまり記憶がない。


 こんなもう二度と関わることのないアウェー空間から早く逃げ出したのに、神崎はといえば、かっちりスーツを着こなした見るからにお偉いさんのような人と談笑しており、俺が話しかけられるような感じではなかった。


 そしてようやく開放されて帰路につく頃には、もう真っ暗な時間になってしまった。



「にしても……なんで二宮が……」

「クックック……そりゃ仕方ねえよ。人は誰しもギャップに魅力を感じんだよ」

「納得いかねぇ……!! 身ぃ削って頑張ったのは俺なのに、なんてあいつが最後に全部持ってくんだよ……!」

「超バズった動画でとんでもない変態発言していたやつが実はめちゃくちゃイケメンだったとか、インパクトとして最強だからな」


 肝心の放送は大いに好評だったらしい。


 だがそんな俺の頑張りを前座として──二宮がすべてをかっさらっていった。



 ──放送終了直後にcube公式アカウントがとある投稿をした。


 放送直後のため、SNS上でもcubeについて一番盛り上がっているタイミング。


 当然注目は集まるわけだが。その肝心の投稿内容は──



 ────────────────

 cube@so cube!!!

 参謀の晴れ舞台を頼もしげに聞き届ける代表。


 ────────────────


 というシンプルな一言と──リク代表の写真が添えられていた。

 おそらくイッチ先輩あたりが撮った写真だろう。


 そして肝心のその写真は、二宮の容姿がはっきりと映ったもので──


【リクめっちゃイケメンやん!!】

【清々しいほどのイケメンで草】

【意外すぎて草】

【普通にモデルできると思う。表紙だったら買うわ】

【ワイらと同じやと思ってたんに……!】

【裏切られた気分……】


 二宮の容姿を始めて見た人たちがこぞって反応。 


 それはもう……俺の放送そっちのけですごい盛り上がっていた。


 声だけの俺とは違いビジュアルを衆目に晒した二宮の反響は凄まじく、俺の放送の反響を完全にかき消してしまった。


 俺を容赦なくロリコンに仕立て上げる貶めることはやめないが、なぜかプライバシーだけはちゃんと待ってくれる柊木生のおかげで、動画が投稿されて盛り上がりを見せても、俺たちの顔が映った過去の画像が発掘されることはなかった。


 そのため柊木生以外では当然二宮の顔を知らないわけだが、悔しいが100人いたら100人イケメンと言うくらいには顔が整ってやがる彼は、それまでのSNS上に先行していた変態お兄ちゃんのイメージ像を大きく塗り替え、特大のインパクトを与えた。


「今から、「俺の妹は神月凛です」って言えば、もっと盛り上がると思わねえかァ?」


 ニヤニヤしながら神崎が言う。


「神月だって若手の中じゃ群を抜いているとはいえまだまだだ。名前が出ることで神月の認知度が上がるし、WIN-WINだぜ?」

「妹と話してんなら知ってんだろ? 俺らあんまり仲良くねーし、そもそもあいつ俺のことをよく思ってねーよ」

「ほう……お前にはそう見えてんのか」

「なんだよ? まあそれにな──」


 たしかに、謎の校内放送パーソナリティーの妹が売り出し中の声優だった、なんていう話は間違いなく盛り上がるし、もしかしたら凛にも好影響が出るかもしれない……かもしれないが……。


「神崎……俺は妹の幸せよりもな、自分の命が大事なんだ……」


 それを話したら、俺は理数科の奴らからどんな仕打ちを受けるか、たまったもんじゃない。

 おそらく二宮は血の涙を流しながらこちらに襲いかかってくるに違いない。



 俺の妹が神月凛──バレたらクラスメイトに惨殺される未来は確定だ。



「……そういやお前、腹減ってるか?」

「え? ああ、まあそうかも。そういえば昼から何も食べてなかったな」

「んじゃ、ちょっと寄ってくか」


 と、ちょうど左方に現れたハンバーガーチェーン店に車を進めていく。


「ここで待ってな。適当に買ってくっから」

「え、俺も行くけど」

「おいおい、今日の主役はここで大人しく待っとけよォ」


 と、神崎は車を停めて、さっさと出ていってしまった。


 ……これは今日の俺のラジオ出演に対する彼女なりの労いなのかもしれない。

 ありがたく受け取っておくか。


 



─────あとがきのこーなー!──────

『現代ドラマ日間3位! 応援ありがたいぞ!』


「他作品が素晴らしいので多分ここがピーク! あとカクヨムのランキング方式がizumi全然わかってない!」


『妹たちの応援よ! 恩に着る!』


「あの、ひとついいか? ……お前が平然とリスナーを妹呼びするせいで、みんな気を遣ってる件について」


『……どういうことだ?』


「前回の応援コメント見てみ?」


『なにかあったか?』


「みんな気を遣って綺麗にコメントの末尾に──”妹ではないですけど…”って付けてる。何この統率された新手の応援スタイル」


『…………本当にすいませんでした』


「というわけで普通に感想待ってるぜ! 一言でもなんでもいい! あと今日はまだ更新するからよろしく!」


『だがオレは妹への愛を叫び続ける!』

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