あやのんと! part3


『さて、じゃあ私からの告白ですが、私はちゃんと正真正銘の告白で勝負しますよ? ソラさんを照れさせてこの勝負に勝ってみせます!」


「これ勝負だったんですね」


『ソラさん──実は私、ずっと前から運命を感じていました──』


「今日会ったばっかですよ?」


『…………もう一回いいですか?』


「どうぞ?」


『……ねえソラ──今宵は月が綺麗ですね』


「月はいつ見ても綺麗ですよ?」


『……チッ』


「あれ、なんか今舌打ち──何も言ってないです」


『……ソラさんって意地悪ですよね』


「そんなことないと思いますよ? ただ正直なだけで」


『リ、リベンジお願いします!』


「それ相手にお願いするものじゃないですね」


『今回は丁寧に気持ちやシチュエーションをイメージしますね……うーん』


「実際に来崎さんの今までの体験を踏まえた告白とか聞けたら、ファンの方も喜ぶかもしれないですね」


『なるほど──それ今まで彼氏いたことない私に喧嘩売ってます?』


「──告白ありがとうございました」


『え、まだ何も……なんでブースの向こうの皆も拍手してるんでしょう』


「多分男性リスナーは全員拍手してると思いますよ?」


『納得いきません! ラストチャンスをください! 次は決めるので!』


「もう別になんの告白でもいいですけどね。今の告白が強すぎて、もう超えられないでしょ」


『そうですね……実は私、今日の番組が始まるまで、上手くできるか、本当の本当にとてつもなく不安で仕方なかったんです…………』


「不安で仕方なかったと……なるほど」


『でも今は────今までのお仕事の中で今日が一番楽しいです!』


「……この仕事が? 今までで?」


『はいっ!』


「……たった今、スタッフ含め全リスナーがとてつもなく不安になってますよ」


『というのも、私、今までオフィシャルには一度もお話ししたことはなかったんですが……』


「え、あ、いやそんな話、別にここでしなくても……」


『実は私────元芸人志望なんですよ』


「とんでもない告白なんだが!? ほんとにさっきの告白超えてきてんじゃねーか!?」


『私は10代からモデルをやっていたんですが、ある時、ラジオ番組にお邪魔した時にラシオのパーソナリティーってとても素敵な職業だなって思ったんです。でも流石にモデルじゃ将来、パーソナリティーになれる可能性はかなり低いということに気づいて』


「と、止まんねえこの人……」


『それで、ラジオのパーソナリティーになるための一番可能性が高い職業が芸人さんかなって思ったんです。元々、芸人さんのライブにしょっちゅう行くほどお笑いを見るのも好きだったし、何より私はやっぱりラジオは一人喋りよりも二人組のほうが絶対いいと思ったんです!!』


「は、はあ……」


『そのためにはまず芸人さんになってコンビを組もうと決意して、それでいざ、芸人さんになるために養成所に通い出したらなんて言われたと思いますか? ねえソラさんわかります?』


「え、いや、まったく……というかこの話止めません!? 俺受け止めきれる気がしませんってば!! 事務所の人とちゃんと戦略立ててから──」


『そしたら、なんか皆、変なこと言うんですよっ!!』


「…………変なこと?」


『”超絶美人さんが変顔とかするとちょっと痛々しくて見てられない”とか”貴方とコンビ組むとファンの層が変わっちゃう”とかなんとか!! なんですかその褒めてるか貶されてるか分かりづらい発言の数々っ!』


「……」


『しまいには養成所であったモデル時代のファンからは”あやのん……無理しなくて大丈夫だよ?”って。私全然無理してなかったのにっ!!』


「それはなんとも……」


『中途半端にモデルとして活動していた時期があったせいで、これで世に出てもファンの人から悲しい目で見られるんだと思うと……まさかモデルの経験が裏目に出るとは思いませんでしたよっ! しかもそんな話、誰かにしても変に自慢っぽくなるから今まで言えなかったんですよ! ソラさんわかりますよねこの辛さ!! わからないですよね!!』


「いやどっちなんすか……」


『……でもいいんです。わかってますよ私だって。それでもめげずに突き進めなかった私がよくなかったってことくらい。しかも結果的に神崎さんに拾っていただいでタレントとしてラジオのパーソナリティーになるという夢は叶ったんですから!! ……だからよかったんです』


「なるほど。そんな過去が……でも、夢が叶って本当によかったですね……!」


『よくないですっ!!』


「なんで今怒られたの?」


『確かにパーソナリティーになることはできました。でも──私がやりたいのは二人喋りだったんですよっ! いつもの二人で延々とくだらない話をして終わっていくような放送に憧れていたんです!』


「あ、確かにそうですね」


『この番組は基本一人喋りで、定期的にゲストが来てくれますが、初めての方だと緊張しちゃってなかなか上手くいきません……』


「なるほど」


『ですが、今日のゲストは一味も二味も違いました』


「……ん?」


『”率直に今、どういった心境なんでしょうか?”という私の問いに対して、”うーん、今の心境を率直に言うと──帰りたいですね”と。開口一番、その鮮烈な回答に体中に衝撃が走りました』


「ちょっとやめて! そんな大層なものじゃないですよ!? めっちゃ恥ずかしいから頼むから止めて!!」


『流れるようなメッセージへのレスポンス、そして指の件で何もないところからドリブルして笑いを生み出す能力!!』


「何この新手の公開処刑!? こんな仕打ちひどくない!?」


『その後に、せっかく私の格好をいじってもらって、後はもうゴール前で合わせるだけだった絶好のパスをバチッと決められなかったのが悔しくて……!! あんまりいじられるのが苦手なんだろうな、と気を利かせてくださったソラさんが私にメッセージ読ませて成立させようとしてくれたんだなあ、とか反省ばっかりなんですけど……それでも私も遠慮なく二人でおしゃべりできてそれが本当に楽しくって!!』


「もうやめてよぉ……あとそのサッカーたとえも絶妙に気になる……」


『告白のくだりも全然上手く決められなくって……!!』


「とんでもないロングシュートぶち抜いてましたよ」


『もうずっと放送していたいくらいですよっ!!』


「本当に帰りてえ……!!」


『あぁ……もうすぐ番組終了のお時間なのが本当に名残惜しいです』


「助かった……」


『本当にたくさんのメッセージが来ていますが、ご紹介するお時間はなさそうです……送っていただいたのにすみません。ソラさんにはまた今度来てもらいますので、その時まで待っていてくださいね!』


「この間にもたくさんのプリントされたメッセージがどんどんと運ばれて──今何か不穏なこと言いました?」


『──言ってないです』


「……あれ、っていうかこれ収録ですよね? なんでリアルタイムにメッセージが増えてんだ……?」


『あ、それはですね、実はソラさんには収録と見せかけて実は生放送だった、というドッキリを裏でやってたんですけど、色々合ってネタバラシはカットしました』


「…………へ? じゃあこれ流れてんの?」


『はい、流れてます』


「え、そんなあっさり……しかもネタバラシをカットって、そんなことあんの……なんかブースの向こうのスタッフも皆頭抱えてるけど……」


『本当にすみません。ちょっと時間がなくなっちゃって』


「…………いや絶対アンタの最後の告白パートのせいじゃねーか!?!?」


『そんなことないですって。ディレクターがインカムで指示を送ってきたので、私はそれに従ったまでです』


「あ、そうなんですか。そうとは知らずすみまs…………ブースの向こうのディレクターが首をねじれんばかりに横にブンブン振っている件については?」


『そりゃまあ──多少は現場判断もありましたけど』


「ドッキリのネタバラシをカットするとか独断専行すぎんだろ!?」


『はい、それでは本当にお別れのお時間となってしまいました』


「いや俺のドッキリは!? 来崎さんのインパクト強すぎて後出しのこっちが弱くなっちゃってんじゃん!?」


『それではまた次回お会いしましょう〜』






─────あとがきのこーなー!──────


「リスナーのおかげでこんなよくわかんない作品が現代ドラマの日間で5位に!」


『全国の妹たちよ! 誠に感謝だ!』


「妹ってお前……百歩譲って女性読者がいたとしても、年齢的に確実に妹じゃなくて姉だろ」


『おいおい、中学生以下のリスナーがいるかもしれないだろう?』


「中学生はこんなの読まねーよ……チートやハーレム、追放やVtuberとかもっと王道読むわ」


『何を言う、この作品も放送をきっかけにオレたちが成り上がっていくという意味では王道だろう?』


「どこに王道要素があんだよ!? 王道から逸れすぎて迷子だわ! あと放送後の俺はどうなってるのか気が気じゃねえよ!!」


『そんなよくわからない本作をここまで読んでくれた妹たちよ、誠に感謝だ!』


「まじでありがとう!」


『妹たちからの評価やフォロー、応援コメントが心強いぞ!』


「いつもありがとう! 今回の放送が面白かったらよろしく頼むぜ!」


『オレも今回の放送は会心の出来だ!』


「お前1ミリも出てねえよ」


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